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たとえ瞳が失われても  作者: しっつう
1章 出会いとこれから
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2

時刻は18時00分

校内にチャイムが鳴り響く中、生徒会室で一人黒羽月華は椅子に腰かけていた。

月華はチャイムを聞きながら、自分の過去を振り返っていた。

9年前の今日、月華は普通で考えられない不思議な夢を見たのだ。


-------------------------------------------------------------------------------------

夢の中には月華以外の少年少女が9人。


顔はぼんやりとしていてはっきりとは分からないが、背丈を見るに月華と同い年くらいの子供たちである。

そして、人間の影のような形をした《天使》を名乗る物体。


その《天使》は月華たちに不思議な能力を与え、今与えられた能力を奪い合う戦争をしろ、という趣旨の話をしてきた。


月華は非常に頭が良かったため、《天使》が話した言葉の意味をしっかりと理解していた。

そのため、月華以外の子供たちの大半は訳が分からず混乱していたが、月華はこんなことあるわけない、ただの夢だと思い落ち着いていた。


《天使》が早口で語り終わった時、ふと隣を見ると月華のすぐ近くにもう一人、月華のように落ち着いている少年がいた。


その少年も月華に気づき、少年が顔を月華へと向けた時


月華は目を覚ました。


体が熱い

頭が重い

でも体は軽い


目が覚めた月華は自分の体に異常を感じていた。

見た目は変わらないのに、明らかに自分の中の何かが違う。


さっきの夢はただの悪夢ではなかったのか

夢が本当なら僕は化け物にでもなってしまったのか


と月華は恐怖にかられた。

頭は良くても月華は当時7歳。

最初こそ悪夢だと思って落ち着いていたが、目が覚めて自分の体に異変を感じ、さっきの夢がただの悪夢ではなかったと分かれば恐怖に駆られて当然だろう。


そして月華はその恐怖に耐えられなくなり、この事を両親に相談しようと、朝食を食べている両親のもとへと向かった。

だが両親にいざ話そうとすると、なぜか月華は口が動かせなくなってしまった。

おはようなどの挨拶はできたのに、夢のことを話そうとすると体が拒絶し、口が動かせなくなるのだ。


その様子を見て月華の父は不思議そうに首を傾げ、母は


「月華、どうしたの?」


と優しく声をかけてくれた。

そして再度口を開こうとした時、月華は《天使》の言葉を思い出した。


「目が覚めた時には、頭は理解していなくても体が理解していますよ」


ああ、そういうことなんだと月華は直感で理解した。


《天使》によって脳に埋め込まれた能力についての禁止事項の中に

【能力の存在を知らない人間に対して、能力に関する話をする】

というものが含まれていたのだ。

月華は、まだ頭で能力についてや、禁止事項を理解できてはいないため、能力のことを知らない両親に、この話をさせまいと体が拒絶してきていたのだ。


月華は《天使》に怒りを抱いたが、両親に心配させまいと


「ごめん、怖い夢を見ただけだから気にしないで」


と言った。


「あらまあ、それは怖かったわね~。

でも大丈夫よ。月華にはお母さんとお父さんがついてるから」


月華の母は優しくこう言い、月華の頭をなでた。

たったそれだけのことだったのに月華は心が温かくなるのを感じた。


心が温かくなるのは、僕が人間だからだ。


そう思うことで月華の心は、多少ではあるが楽になり落ち着きを取り戻し始めた。


そんな月華の様子を見ていた月華の母は優しく微笑み、思い出したようにこう言った。


「そういえば珍しく弄月(ろうげつ)が起きてこないわね。

あの子も月華と同じで怖い夢でも見たのかしら。

月華、悪いんだけど弄月のこと起こしてきてくれる?」


弄月、というのは月華の双子の弟である。


弄月の容姿は、瞳以外は月華と瓜二つである。

弄月も月華と同じでオッドアイなのだが、月華とは違い左目が黒、右目が赤色であった。



そういえば、と月華は自分が目覚めた時のことを思い出した。

普段なら月華より先に起きているはずの弄月は、今朝はなぜかずっと姿が見えなかったのだ。


...。

まさか


嫌な予感が月華の頭をよぎったが、月華は偶然だ、と嫌な予感を振り払うように頭を横に振った。


「わかった。起こしてくるよ」


そう答えた月華は、弄月の部屋に行き布団で寝ている弄月に声をかけた。


「弄月、起きて。朝だよ。学校行かないと」


「ごめん、今日は頭痛いから学校休むよ。

お母さんたちにも伝えておいて」


布団から顔も出さずに、震えた声でそう答える弄月の普通ではない姿を見て、月華の頭には再び嫌な予感がよぎっていた。


まさか、弄月も僕と同じ夢を...?


そんな、まさか...


でも、もしそうだとしたら弄月はさっきの僕と同じように怖いはずだ。

だったら僕はお兄ちゃんとして、お母さんが僕にしてくれたように弄月を恐怖から守ってあげないと。


月華はいつの間にか、自分の身に起きたことへの恐怖を忘れ、兄として弄月のことを守ろうとしていた。


そして月華は


「ねぇ弄月、もしかして...」


と言いかけたが、弄月はそれを遮り


「ごめん、お兄ちゃん。

本当に頭が割れるように痛いんだ。

お願いだから一人にして」


と低い声で言った。


その弄月の声は今まで聞いたことがなく、有無を言わせない力強さがあった。

月華はその声を聞いて尚更心配になったが、これまで感じたことのない弄月の雰囲気に気圧され、追及することができず


「そっか、わかった。ゆっくり休んでね。

お母さんには伝えておくよ」


とだけ最後に言い残し、部屋を出た。


「ありがとう、お兄ちゃん」


そう言った弄月の声はとても小さく、微かに震えていた。


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「くそが」


そこまで回想した月華は、唇を強くかみしめた。


あの時俺が弄月を無理やりにでも布団から出して、打ち明けさせていればあんなことには...。


そう月華は自分を責めた。


月華はあの夢を見た、9年前の10月24日を『運命の日』と名付けている。

月華は、『運命の日』をこの9年間一日たりとも忘れたことはない。


『運命の日』を境に弄月はおかしくなってしまったのだ。


そして、『運命の日』から一週間後の10月31日に、月華の人生の中で最悪の事件が起きてしまう。




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