星に願いを 2
「ひなのちゃん、今日流星群が見られるって!」
ともかちゃんとは家が近いため、よく登下校を共にする。
夕暮れ時、通りには私たちだけしかいない。
背に浴びる夕陽が暖かい。こういう日常、何でもない時間がたまらなく幸せで、好きだ。
ともかちゃんとは毎日会っているのに、ほとんど同じ話をしない。
流行りのドラマ、最近できたおしゃれなカフェ、テストの点数、家族喧嘩……
何てことないトピックも、ともかちゃんはまるで世界を一変させる出来事かのようだ。
私は毎回お腹を抱えて笑ってしまう。きっと私の日常にも、楽しいことは無限に転がっているのだろうが、伝える術を持っていないのだ。
そして、今日のテーマは流星群。
流星群のことはニュースでも取り上げられていた。両親、先生、クラスメイト、みんなが流星群の話をしていた。こういったことであまりはしゃぎすぎるのは高校生らしくないかな、などと思ったが、素知らぬ振る舞いをすると余計にワクワクするから不思議だ。
教室では「流星群なんて興味ねーし」なんて言う男子もいた。そう言う彼が一番そわそわしているようにも見えたけれど。
三神先生は、流れ星はおろか、流星群など見たことがないと言っていた。私も同じだ。
先生の年齢でも見たことが無いのなら、やはり中々見られる光景ではないのだろう。
「らしいね、見てみたいよ」と答えた。
「あれ、何か興味無さそうだね。まさか、高校生にもなってはしゃぐのは恥ずかしいとか思ってるんじゃない?」
ともかちゃんは、小悪魔的な微笑を浮かべ、いとも簡単に図星を突いてくる。この小悪魔にからかわれると、悔しさもあるが、心地良さの方が圧倒的に大きい。
「そんなんじゃないよ」と見え透いたの誤魔化しを入れれば、彼女は整った顔をくしゃっとほころばせ、カラカラと笑った。
夕陽を受けた彼女は、放っておくと、ふっとどこか私の知らない遠くへ行ってしまいそうな、そんな雰囲気だった。
黄昏時は、妖怪などの不思議なことに出会いやすい時間らしい。この前ともかちゃんと一緒に見た映画でそんなことを言っていた。その影響もあってか、ともかちゃんに、そんな印象を受けた。
そう言えばあの映画、とても良かったな。ぼんだくんも感動したって言っていた。もう一度感想を聞いてみるとしよう。
「ひなのちゃん、流星群、一緒に見ない?」
ふいに、ともかちゃんに誘われた。答えは、もちろん「いいね」。
「やった、じゃあ山に見に行こうよ!」
「わざわざ山に行くの?」
「なんか、山で見た方がきれいに見える気がするじゃん。せっかくの流星群だし、最高の状態で見ようよ!」
山か。ううん。いや、いいんだけどね。全然いいんだけど、どうしようか。山と言えば、城山のことだろう。あの山は危険はほとんど無い。ほとんど無いとわかってはいるけれど、夜の山に女の子二人で、というのはどうなのだろうか。
何となく、漠然とした不安と、道徳的に良くないのではないかという感覚があった。日本の義務教育は行き届いている。
流星群を万全の状態で見るというのは大賛成。だけれど。ううん、悩ましい。この誘い、どうしたものか。