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恋する凡田くん  作者: pgmn
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自己紹介(前編)

 教室の窓は、まるで桜の絵を仕舞う額縁のようだ。白と青が混ざりあって、桜は嬉しそうに手を振っている。


 今日は高校の入学式だ。

 新しい制服に包まれ、心の中では期待と不安が正面衝突している。


 幸い、同じクラスには中学校で一番仲良しだったともかちゃんがいた。知った顔があるだけでも、いくらか緊張が解れるものだ。


 ただ、ともかちゃんは天真爛漫で、すぐに誰とでも仲良くなれるタイプの子だ。もう既に隣の子と話をしている。どこの中学校だったとか、何の部活動をしていたとか。社交的とも少し違う。彼女の生まれもった才能なのだろう。周りの子も、初めはぎこちなく話すが、しばらく彼女と話をしていると、すぐ笑顔になる。


 私は、ともかちゃんのそんなところが大好きなのだが、反面、羨ましくもあった。


 私の席は最後列、左端で、隣の席は男の子だ。最初から男の子に話しかけるのは難しい。


「おーい、凡田!同じクラスだな!友達がいるとなんか安心するよ」


 ぼんだ、ボンダ、凡打。ぼんだくんなんて、変わった名前だ。ニックネームかな。どちらにしろ、すぐに覚えることができた。


「お、岡野!いや本当に、良かったよ。これは、絶対楽しくなるな」


 彼は岡野くん。情報量が多い。やはり初日はエネルギーを使う。彼も面白そうだから嫌ではないけれど。


 始業のチャイムが鳴り、先生が入ってきた。


「おはようございます。そして、入学おめでとうございます。このクラスの担任を勤めさせて頂きます、三神学です。これから三年間、宜しくお願い致します」


 三神先生は、40歳くらいだろうか。背が高く、銀縁眼鏡が良く似合っている。女の子の中には、頬を赤らめ、こそこそと話をする人もいた。


「今日は、これからホームルームをした後、体育館で入学式を行います。ホームルームでは、自己紹介をしていただき、入学式の流れをお伝えします。晴れの舞台になりますので、流れを良く聞いておいて下さいね」


 三神先生は、腰が低い印象だが、同時に固くて話し掛けづらい雰囲気もあった。


「それでは、自己紹介を順番にお願いします。最初は、山田さん、いいですか?」


 一番手にともかちゃんとは、三神先生もわかっている。


「はい!西中学校出身の山田ともかです!中学ではバドミントンをやっていました!みんな、仲良くしようね~!宜しくお願いします!」


 ハキハキとしていて、端的にまとめていた。ともかちゃんは、ともすれば抜けているようにも見えるが、賢くて優しい、しっかりものだ。


「次、岡野くん」

「はい。南中学校出身の岡野清人です!中学のときはサッカー部でした。でもなぜかモテませんでした!とりあえず一発ギャグします!」


………


 岡野くんの一発ギャグは、私としては結構面白かったけれど、誰も笑っていなかったので堪えた。ともかちゃんも笑いを堪えていた。


「ありがとう、岡野くん。先生は、好きですよ」

三神先生がフォローする。


「では次、渡瀬さん」


 私の番だ。私はみんなの前で話をすることが苦手だ。どうしても緊張してしまう。


「はじめまして、西中学校から来ました、渡瀬ひなのです。吹奏楽をやっていました。宜しくお願いします」


 取り敢えずは噛まずに言えた。本当はもうちょっと気の効いたことが言えれば良いんだけど、そんな勇気は無い。

 岡野くんなら、一発ギャグで滑ってもキャラクター的に問題無さそうだけれど、もし私が同じことをしたら、これからの三年間が闇に包まれることになるだろう。これで良いんだ、と自分に言い聞かせた。


「はい、ありがとうございます」


 先生が淡々と司会をこなす。

 先生は、生徒の自己紹介を軽くメモしている。もうベテランの先生であろうが、生徒思いなのが伝わってきた。

 次々と生徒が自己紹介をする。空手をやっている子、映画が好きな子、私のように音楽をやっている子、何を考えているかわからない子……


 30人ちょっとの一クラスだけでも、これだけ個性で溢れかえっている。世界は、途方もない。


「次、凡田くん、お願いします」


 隣の席のぼんだくんだ。ニックネームじゃなくて、本名だったのか。隣の席だし、よく話を聞いておこう。

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