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恋する凡田くん  作者: pgmn
2/16

『星の王子さま』


  今日はどうやって渡瀬さんにアプローチしようか。

というか、今日も滅茶苦茶綺麗だな。どうしたの?前世でどれだけの徳を積めばこうなるの?どんな女優でもモデルでも、この世の誰とでも付き合える権利を与えられたとしても、光以上の速度で貴女を選びます。アーメン。


「おい凡田、話聞いてるのかよ」


  前の席から話しかけてくるのは、僕の数少ない友だち、岡野清人(おかのきよと)だ。小学校からの友達で、お互い、良いところも悪いところも知り尽くしている。その上で友達なのだから、親友といって差し支えないだろう。

こいつはアホだが、好かれるアホだ。


「わり、何の話だっけ?」

「いや、だから、UFOって未確認飛行物体だけど、確認された時点で未確認じゃなくなるわけだから、未確認飛行物体って名前はそれ自体が矛盾を孕んでるんじゃないかっていう…」

「あー、二組の田中くんがUFO見たって言ってたよ」

「まじで?ちょっくら田中っちに話きいてくるわ!」


  僕も岡野と同レベルのアホだから、UFOの話は少し面白そうだった。

  しかし、渡瀬さんに聞かれていたらと思うと恥ずかしくて、話を逸らしてしまった。ごめん、岡野。あと二組の田中くん。


  ちらと隣を見てみると、渡瀬さんは小説を読んでいた。少し俯き加減で、ロングヘアーの隙間から覗く横顔は、浮世離れした美しさだった。つい、しばらく見つめてしまったが、幸い小説に集中していてこちらには気付いていないようだ。もう少し、見つめていよう。


  渡瀬さんは、『星の王子さま』を読んでいた。僕も、『星の王子さま』は読んだことがある。


  共通の話題があると仲が深まると本に書いてあったが、流石に『星の王子さま』を出汁にするほど、僕は野暮じゃない。僕はアホだが、ルール無用のアホではないのだ。


  ところで、『星の王子さま』で一番印象に残っているシーンと言えば、王子様が商人の星を旅するところだ。

  あの小説の面白いところは、大人が真面目に考えていることは子供の目線で見ると下らないと、揶揄する点だ。大人になるのが成長なのか、退化なのか、そんなことはきっと個個人の感覚の話でしかないのだろう。少なくとも、サン=テグジュペリは大人になるとバカになると考えたらしい。商人の星ではそれが如実に描かれていて、笑える。僕も大人になると、下らないことに目がくらむのだろうか。


  そんな取り留めの無いことをぼんやり考えていると、渡瀬さんがふっと小説から目を離し、前を向いた。

(やばい…見つめていることがバレる…!)

慌てていると、衝撃映像が僕の網膜に映し出された。


  渡瀬さんが、泣いていた。


(あ、え、まじ?美しっ、いや、え、『星の王子様』に泣くとこあるっけ?、いや、ある…か。あるよな。うん、ある。キツネのとことか、だよね? 多分)


  そんな、ナイアガラの絶景も尻尾を巻いて逃げ出す光景を目の当たりにし、無論僕も感動の涙を流しそうになっていた。


「男がハンカチを持ち歩くのは、女性の涙を拭うためだ」


  ふと、何かの映画でロバートデ・ニーロがそんなことを言っていたのを思い出した。僕は恥ずかしながら、ロバートデ・ニーロの格好よさにあてられて、ハンカチを常に携帯していた。


  こういうことは迷ったら負けなのだ。社会通念から鑑みれば著しく恥ずかしい行為だ。そんなことは理解しているが、ここでハンカチを渡さずに、今夜眠りにつけるかよ。頑張れ、僕!やらない後悔より、やる後悔って本にも書いてあっただろう!


「渡瀬さん、これ…」


  僕はハンカチを差し出した。自分でもびっくりするくらい声が上擦った。


  渡瀬さんは、無言でハンカチを受け取り、涙を拭った。

  このハンカチを家宝にする決心を固めていたときだ。


「誰にも言わないでね」


  渡瀬さんが囁いた。

  ああ、あ、ああああ。

  ありがとう、サン=テグジュペリ!ありがとう、ロバートデ・ニーロ!お母さん、ごめんなさい。僕はもう死んでも良いです。


「おい、凡田、田中っちはUFOなんか知らないって言ってたぞ! どういうこと…ってあれ? 何でお前、泣いてるの?」

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