4.ハーレスト家のお嬢様~そのお嬢様、ふんわり系諜報員につき~
不定期更新で申し訳ないです。
今回はアリア様についてのお話です
4/1…話の矛盾に気付き修正。
………さて、今回は今や帝国の皇后陛下となったアリア様………いいえ、【アーちゃん】の話をもっとしようかしら?
私の親友でもある、【アリア・ハーレスト】様。
今は、【アリア・フォン・ハーレスト・フェンリル】皇后陛下、かしら。
尤も、本人からも、夫であり皇帝陛下であるクラウスさんからもプライベートでは気軽に話し掛けて欲しいと懇願されてしまったので、
私とレインがこの夫婦と一緒の時だけ気軽に【アリアさん】と呼んでいるわ。
………他国の次期宰相の婚約者、という立場でそれは良いのか、と聞かれたらダメではあるので、当然プライベートのみなのだけれど。
そんなアリアさん……いいえ、アーちゃんと私は、よく一緒にいて沢山お話したわ………
今にして思えば、アリアさんは………アーちゃんは最初から全部わかっていたのかもしれない………
何せ、彼女は未来の王妃にして、凄腕の諜報員だった、のだから。
今の彼女は、皇后陛下にして諜報員。
皇帝陛下と共にラミネス公国の事を探っているらしいわ。
…皇帝陛下と皇后陛下が直接動く国、と言うのも中々に凄い国よね、フェンリル帝国は。
なんでも、コキュートスの魔王様や魔王殿下を見習っての事らしいわ。
クラウスさんもフェンネル魔王殿下と仲がいいから………
閑話休題。
それは、ライトリーク王太子殿下に忠言を差し上げた数日後。
休日のその日はたまたま、レインが側に居なくて、代わりにアリア様…アーちゃんが遊びに来ていて2人で(正確にはそれぞれの執事と侍女も)部屋に居たのよね。
「…エリちゃん…………
「アリア様ー
「…アーちゃんだよ。」
ーアーちゃん…?いかがなさいー
「口調硬いよ……
ーんんっ、どうしたのかしら?」
「私には、女性としての魅力が無いのかなぁ………
そんな事を言ってくるアリアさ……アーちゃん。
……かなり落ち込んでいるらしく、しょんぼりとした表情だった。
ちなみに、当時の私がさっきから話し言葉に四苦八苦しているのは、高等部進学時にアーちゃんから『私もエリカさんとレインハルト様みたいに軽い感じで話したい』と頼まれたからよ。
……それにしても、しょんぼりしていても言うべき所(?)は言うのは…なんだか、アーちゃんって高等部辺りからレインみたいな所が出てきたわね。
「…何故いきなりその様な事をおっしゃい……言うのよ?
アリ……アーちゃんは十分に魅力的かと存じま……思うわよ。」
「でも最近、私に対する殿下の態度がおざなりな気がして~…
気になって殿下の周りを調査したら〜…(今回は)ラミエス嬢に夢中なんだよねぇ〜…
「…。」
全く…あの愚殿下は…!
アーちゃんになんで悲しい顔をさせるのかしら!?
この美貌と、柔らかな癒しの雰囲気で生徒から人気のあるお嬢様なのよ?
しかもアーちゃんは、諜報員なのもあってよく気が付くから今までどれだけあの殿下を支えてきたと!?
そんなアーちゃんに対してそんな態度、私は許せないっ!!
………まぁ、だから先日も私とレインであの愚殿下に忠言差上げた訳なんだけど。
そう思いながらため息をつくと、アーちゃんは私に無理に作った笑顔を向けてくる……。
やめて…なんでそんな無理矢理笑うのよ………
「……ねぇ、エリちゃん。」
「なぁに?」
「私は、殿下のことを助けなきゃ、って思っているんだぁ〜……
「…立派だと思うわ。」
「だけどねぇ〜私が頑張れば頑張るほど〜殿下のお心は離れていくだけだからぁ〜
……もう疲れた……もう…嫌だよ………私は…わたしは……………
「っ!アリア様っ!」
「アリアお嬢様。」
「ぐすっ…あり…と…ク…ウス………ありがとう……エリちゃ………
(だけど……しまったなぁ……わたし……疲れすぎちゃった…なぁ………エリちゃんに、弱い所を見せたら………ダメなのに………)
遂に泣きだしてしまったアーちゃんを、私は抱き締める。
それと同時に側に控えていたクラウスさんがハンカチを取り出して、私の肩に頭を預けるアーちゃんの涙を拭う………
……咄嗟だったからつい普段の"アリア様"呼びが出てしまったわね。
だけど、私は覚悟を決めた。
例え、私が悪と呼ばれようと、反逆者となろうと、私は、親友を、アーちゃんを、守ろう。
例え…………例え…………それで…………私が爵位を失い、レインと結婚出来なくなろうとも………
アーちゃんの未来が最悪な方向に進むよりは………
激高したハーレスト家によってこの国が滅ぼされるよりは……!
私が犠牲になってでもあの愚殿下を止めてみせる。
そう決意して、私はアーちゃんの顔が見れる様に抱擁をといて少し離し、彼女の目をしっかり見て告げる。
「…アーちゃん、私は、何があっても貴女の味方だから。
例え、それで私が悪と呼ばれー
「それはだめっ…!」
ーアーちゃん…?」
しかし、その決意を伝えようとすると、突然私の話を遮って止めるアーちゃん。
一体、どうしたのよ…………?
「だめなの……!エリちゃんは……エリちゃんは幸せになって……
どうか、あなたが悪にならないで……
(今回の)エリちゃんなら………きっとレインく…レインハルト様が幸せにしてくれる………
だからどうか………エリちゃんが不幸にならないで…………
「…………アーちゃんは……何を知っているの?
………何を、知ってしまったの………?」
「………。」
(言えないよ………そんな事………わたしが………わたしが………
『結局"私"を救えず、貴女も処刑される未来』も知っているだなんて………
『味方が誰一人として居ない未来』も知っているだなんて…………!
『レインくんに処刑される未来』も知っているだなんて………!
貴女が私の為に頑張った結果が、どう足掻いても貴女が処刑される未来、だなんて……………!
だから、だからダメだったのに……!わたしのバカバカっ!
こんな時までわたしはなんで、ドジなの………?
折角、今回は……レインくんがエリちゃんの味方なんて初めての展開なのに………!)
私が真意をたずねても、アーちゃんは顔を青くして震えるだけで………
だけど、アーちゃんが何かを恐れているのならば、やっぱり私が守らないと。
「……アーちゃん、私は、貴女が何も答えなくても構わないわ。
私は、貴女の親友として、貴女を守るから。
大丈夫よ、私にはレインがついてる。
1人で無理をして頑張らないって、レインと約束したから。」
「エリちゃん…違う……違うの………わたしは………
とにかく……エリちゃんはラミエス嬢に接触しちゃ、ダメだよ………?
「…………それは、無理な約束だわ。」
何せ、向こうからレインに近付こうとしてくるから、必然的に私が対応する事になるのだし。
…アーちゃんには嘘をつきたくないから、正直に無理だと言ったわ。
勿論…それが悪手である事を、私は重々承知だわ。
案の定、アーちゃんは更に悲壮感のある顔をして私に縋り付くように抱きついてくる…………
「なんで!?どうして……!!わたしは、わたしはエリちゃんに……!
不幸になってほしくなくて……!」
(だけど……やっぱり………あぁ……わたしはどこかで、いつもエリちゃんに甘えちゃうんだ…………
この、優しくて正義感の強い……エリちゃんに……わたしって…つくづく嫌な女だよね………)
「…無理なのよアーちゃん………だって………それは、私にレインの婚約者である事をやめろって………そう、言ってる事になるのよ……?」
「……っ!わ、わたし……そんなつもりじゃ………
「ええ、分かってるわ。アーちゃんはそうゆう意味で言った訳じゃない。
だけどね、アーちゃん。
ラミエス嬢は、あからさまに、レインも狙ってるの。
既に、王太子殿下を懐柔したのにね。
……………ラミエス嬢は、未来の王に続いて、未来の宰相まで狙って、何をしたいのかしらね……?」
「……それは、わたしにもまだわからない……。
だけど多分、わたしは近い内に婚約破棄をされると思う……
その為の準備を、殿下が進めてるって、わたしは知ってるから。
だけど、そんな事はどうでもいいのっ!
それより……わたしはエリちゃんが心配なの………!」
(なのに……わたしはまた、エリちゃんに甘えてしまう………エリちゃんの優しさに、身を委ねてしまう………
あはは………わたし、何の為に、こんな事を繰り返してきたんだろう…………)
……殿下との婚約破棄を"そんな事"…かぁ……
アーちゃんも、内心では乗り気ではなかったのかもね。
私はその事に落胆半分、安堵半分な感情を抱きつつも、言葉を返す。
「何故?私は後を継げないとは言え魔導具造りの家、ウルフェン家の長女よ。
こう見えて剣術の心得もあるし、魔法も、闇属性と地属性が使えるわ。
アーちゃんも知ってるでしょう?闇属性と地属性は防御型の属性。
だから私は守りの魔法が得意で、剣と魔導具で攻撃も得意。
未来の宰相の妻として、色々と知識もつけているし何よりレインも居る。
そこいらの"敵"には簡単に負けないわ。」
今だって私は闇属性の魔法を込めた魔導具で守備は万全だし、部屋には私とレイン、アーちゃん以外に反応する闇属性と地属性の罠魔法が仕掛けてあるしね。
だけど、アーちゃんが心配しているのは別のことみたいで………
「違うの……違うの……!
エリちゃんはきっと、近い内に取り返しのつかない事になる……!
その前に…お願いだから……
(わたしのせいだ………わたしが………また、エリちゃんを不幸にしちゃうんだ………初めてだったのに………レインくんが、味方の世界なんて………初めてだったのに………)
「アーちゃん…
本当に、彼女は一体何に怯えているのかしら……?
私には想像もつかない、何かがあると言うの……?
アーちゃんのその態度に、私はますます恐れにも似た焦燥感が増していくのを感じていた………
ちなみにこのアリア様、皇后となってからも何かとエリカの事を気にかけています。