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3.ズレ始めた歯車

当時、クラウスさんが皇太子殿下だと露ほども思っていなかった私達は…


ーいえ、思い返せば、レインはたまにクラウスさんに敬意を払いつつも親しげに話していた気もするけれどー


…私とレインとアリア様の3人で居ることが多かったわ。

…………それは、我が国の王太子である、ライトリーク王太子殿下が、婚約者を蔑ろにしていた、という事なのだけれど。


その日も、私とレインは一臣下として殿下へ忠言をしていた。

…この頃から、既に殿下の様子がおかしくなり始めていたのだ。



「ライトリーク王太子殿下、貴方様にはアリア様の婚約者としての自覚はおありですか?」


口説(くど)いぞレインハルト、確かにハーレスト嬢は私の婚約者だが、まだ候補だ。

貴様等の様に(いたずら)に傍に居ては本人にも周りにも誤解させてしまうだろう。」


「…お言葉ですが殿下、ハーレスト公爵家は我が国の最高戦力、騎士団長と魔導師長のお家柄。

故に国王陛下が次代の妃にとお決めになったのですから、この婚約は決して候補や仮の婚約者ではございません。」


「重ね重ね口説いぞレインハルト・バンバルディア。

私の婚約者は私が決める。私はあんなきな臭い家の()()()()()など嫁には欲しくない。」


「殿下ッ…!」


「…落ち着いてください、エリカ。」


「っ!殿下、突然声を荒らげて申し訳ございません。

レインも、申し訳ございません……



思わず私は、殿下相手に咎める様に声を上げてしまう、

だって……だって……!今のは、あんまりだわ……!!


ハーレスト家は確かに我が国最高の軍事力を持った軍人の家だし、その令嬢であるアリア様も高い魔力に抜群の戦闘センスを持って生まれた。

アリア様は、あのふんわりした雰囲気やまだ高等部生になったばかりの年齢に似合わず射撃や隠密行動の名手なのよ。

でも、だからと言ってあんな可憐な令嬢に"鬼"だなんて……!


※鬼=魔国【コキュートス】に実際に居る種族、魔国傭兵団の基本構成員。

頭から1~2本の角が生えている粗暴な戦闘狂である。

"魔獣スタンピード"が起こった他国への救援には真っ先に彼等が駆け付ける。

人間に対して攻撃をしてくる事は基本的に無い(ただし人間側から攻撃した場合の報復攻撃はある)が、恐ろしい見た目も相まってしばし蔑称(べっしょう)に使われることもある。

しかし、基本的に人類の味方である。


友の為にも殿下を(たしな)めたそんな私を、殿下は嘲笑う。



「貴様も貴様だな、エリカ・ウルフェン嬢。

魔導具造りの家はそんなにも短気な者でも務まるのかい?

…おっと、将来的に宰相の妻になる君はあの家を継げないんだったね!

だが、次期宰相の婚約者というその立場から鑑みても貴様には更に不向きだと思うぞ?

次期宰相を支えるつもりなら、もっと可憐で素直なアリス嬢を見習ったらどうだい?」


「……っ!」

「…。」



『よりによってあの貴族の自覚すら無い者を見習えと!?殿下は正気ですか!!』

と言う言葉を飲み込んだ私を褒めて欲しいわね…!


《偉いですよエリィ、よく飲み込みましたね。》


《レインは読心術でも使えるんですの!?》


と、思っていたら蕩ける様な優しい顔をしたレインにそう囁かれながら頭を撫でれたわ………

あの、レイン……?私が言うのもなんだけど、今は殿下の御前よ………?

あぁ…でも、また口の端がピクピクしてるし、怒りを抑えているのかもしれないわ…………


しかし、そんなレインを見た殿下は、レインにも嘲る視線を向ける。



「レインハルト、貴様もだ。

その様な下賎な女に現を抜かすなよ次期宰相。

貴様もアリス嬢の様な愛嬌のある女性を婚約者にするべきだと私は思うがね。」


「………………………。」



…あぁ、今レインは

『私のエリカを莫迦にするのは例え殿下でも許しませんよ?』

的な言葉を飲み込んだのかも知れないわ。



(我慢よ、我慢するのよレイン。)


《ああ、分かってる、分かってるさエリィ。》



私はそう思いながらレインの手を強弱をつけつつ握る。

すると、レインは無表情のままそう囁き、その手を離して私の腰に腕を回して抱き寄せた。



「お言葉ですが殿下、私のこの婚約は我が父、現バンバルディア宰相も、延いては国王陛下もお認めになった正式なものです。

それこそ、殿下にとやかく言われる謂れはありません。」


「え、あの、レイン……?」

(全然分かってないですわぁぁぁ!?)


「…貴様、私を愚弄するか?」


「滅相も御座いません、ただ、殿下の間違いを指摘しただけにございます。」


「言う様になったな、レインハルト。」


「ははは、私も次期宰相。

舌戦をお望みなら受けて立ちましょう、ライトリーク王太子殿下。」



………こ、怖いわ………!?

ちょっとレイン!!

王族に喧嘩を売るような発言は控えるべきではないかしら!?


私がそう思いながらハラハラする思いで見ていると、

レインは私ににっこりとした笑顔を向けてきた………

あぁ、これは、レインがかなり、怒ってるわ。

レインって、何故か私が貶された時程怒りの度合いが強くなるのよね…………


そのレインは、"凄くイイ笑顔"で殿下へ迫る……



「殿下、改めて申しますが。

貴方様が今懇意にしていらっしゃるラミエス嬢、

失礼ながら彼女こそ平民歴が長く貴族の常識も知らず、殿下には不釣り合いな()()()()()かと存じます。」


「…ほぅ?貴様、アリス嬢を愚弄するか。」



レインの言葉に僅かな苛立ちを含めながら返す殿下。

それに対してレインは貼り付けた笑顔のまま返す。



「ははは、私は事実を述べたまでですよ。

あの令嬢は、周りの生徒からの苦情も多く、私の婚約者であるエリカや、貴方様の()()()()()()()()アリア様の忠告にも全く耳を貸しませんからね。

仮にも婚約者が居る男性に軽々話し掛けるふしだらな女性。

それを"下賎"と言わず何としましょうか。」


「フン、貴様等のそれは忠告では無い。

ただ単に可憐なアリス嬢への嫉妬から暴言を吐いているだけだ。

しかも、身分を笠に着て高圧的にな。

それが上に立つ者のする事か?」


「暴言?ホゥ…暴言!!」



殿下からの返しにわざとらしく、まるで劇の様に、声を上げるレイン。

………不味いわね、レインの苛立ちが高まる一方だわ。

私を引き寄せる手も力が入ってるわ………

私はそんなレインの背にそっと手を置き、さする。

しかし、レインは一瞬私を見るが口撃は止まらない。



「殿下には彼女達の献身と優しさが理解出来ないのでしょうか?

厚顔無恥なる者に!"それは恥ずべき事"だとお教えしている彼女達の優しさを!貴方様は理解出来ないと!!

それはそれは!

………何とも、悲しい事ですね。」

(本当に…()()ですよ、ライトリーク王太子殿下。)



………急にトーンを落とすレイン。

その目が、妖しく光った気がする。

気の所為かしら…?



「………フン、興が削がれた。

レインハルト、あまり図に乗るなよ?

ハーレスト嬢も、ウルフェン嬢も、当然貴様も。

その内処断してやるからな。」


「……ははは、心に留めておきましょう。」

(我等三大公爵家を処断?

それが出来るのは現国王陛下と妃陛下、更には宝具、《真実の珠》の合意の上だ。

魅了で正常な判断が失われつつあるとは言え笑わせてくれる………)



そんなレインに睨まれた殿下は、

急に落ち着いた様にレインから離れ、その場から去っていった………

完全に姿が見えなくなると、レインは私の腰に回していた腕を更に引き寄せて私を正面から抱き締める姿勢に変えたわ………

あぁ……余程疲れたのね、今ので………

なので私も抱きしめ返してレインの背中をさすると、ようやくレインはため息をついて怒りを鎮めたわ。



「…はぁ…全く、あの殿下は昔から"ヤンチャ"が過ぎるんですよ………


「…レイン、今は2人きりよ?」


「あ…あぁ…そうだね、エリィ…


「ほら、レイン。」


「…ごめん、ありがとう。」



私がレインへ甘える様に促すと、レインは私の首筋へ顔を埋める。

私はそんなレインの頭を撫でながら、考えていた。



(やっぱり、殿下の様子がおかしいわ。

確かにあの殿下は昔から自分勝手な所があった、だけどそれも成長と共に落ち着いていったはずだったのに………)



何より、心配なのはアリア様だわ。

アリア様も、あのラミエス嬢の標的になっているらしく近くでラミエス嬢が騒いでいるのをよく見かける。

私とレインは友としてその場に割り込んでアリア様を救出しているけれど、その度にアリア様は無理をして微笑んでいる気がしてならないわ。

ただ、その度に彼女の専属執事であるクラウスさんが慰めているのも、私とレインは知っている。



(アリア様………)



私は、一抹の不安を抱えながらも、今はレインの心を少しでも休ませようと、彼を慈しむ事に注力する事にしたわ。

…それは、自身に芽生えた言い様のない焦燥感を誤魔化すようでもあったのだけれど。




次回更新も未定です………

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