2.学園での日常
不定期更新で申し訳ないです。
今回は少し長めです。
アレからも懲りずに、ラミエス嬢が時折レインに絡もうとしてくるので、
私が説教→ラミエス嬢涙目→レインが私にイチャついて来てウヤムヤになる
の流れが定着してきてしまった気がする……
あら、思い返したら殆ど接点が無かった、と言う訳では無いのね…………
まぁ、そのお陰で私が他の女生徒に説教をしても相手を気遣っての事だと伝わる様になり、怖がらずに素直に聞いてくれて、あまつさえ私を慕ってくれる、なんて副産物的な効果もあったのだけれど。
…私は自分でも中々にキツい顔立ちをしている自覚はあるから、それは素直に嬉しいわね………
前まではちょっと目が合っただけで逸らされたり、慌てて逃げていく生徒が居たくらいな事を考えたら、これはかなりの進歩よ!
…とは言え、生あたたかい目で見守られてる感があるのは…公爵家の威厳的にどうなのかしら、と思わなくもないけれど。
ただ、レインと行動を共にする限り、私は自分で自分を抑えられないのでしょうね……
この、"レインの事が大好き"って気持ちは。
「エリカ様!」
「あら、どうかなさいまして?」
「あの…この前はありがとうございましたっ!
こ、これ、お礼ですっ!!」
「あら…
誰かと思えば、この前の裁縫の授業で私が手解きをした女子生徒が包みを渡してきた……
中身はハンカチだったわ。
「可愛いハンカチね?」
「はいっ!この前の裁縫の授業の時…エリカ様が手取り足取りお教え下さったお陰で良い物が出来上がったので!
ありがとうございました‼」
「ふふっ♪礼には及ばなくてよ?
ですがありがとう、大切に使わせていただきますわ。」
「はぁぁ……
(やっぱりエリカお姉様は素晴らしいですぅ……‼)
「…?どうかなさいまして?」
「あ、いえっ!!本当に、ありがとうございました!」
「ええ、私で良ければ何時でも頼りなさないな。」
こんな風に、誰かに慕われる事も増えてきたわ。
そんな私を、近くに居るレインは嬉しそうに見つめている。
「良かったねエリィ。」
「えぇ…嬉しいわ…
本当に…
レインには感謝しているわ。
きっと…いいえ、間違いなく彼が居るから、私は皆に慕われる様な女性で在れるのだから………
「あ、そうだわ…
ねぇレイン?また貴方の食べたいお菓子を教えてくださるかしら。」
「ん?急にどうしたんだいエリィ。」
「うふふ…それこそ急にレインに感謝したくなりましたの。」
「へぇ……?うん、ならまた私の食べたいもの、教えるよ。」
(あぁ…今日もエリィは可愛いなぁ……‼)
レインは中々に独創的と言うか、私の知らないような変わったお菓子のメニューを思いつくのよねぇ………
そんなレイン考案のお菓子を作るのも中々に楽しくて、元々趣味でしていたお菓子作りがさらに楽しくなったわ。
レインもお菓子が大好きだから物凄く嬉しそうな顔をしているわね?
…さて、今回はどんなお菓子を作らせてもらえるのかしらね?
……と、言う訳で授業終了後に私とレインは調理場へ足を運んだわ。
私達が調理場へ来るのも小等部の時からの日常になっているので、厨房の人達はにこやかに挨拶してくれた。
「さて、それじゃエリィ、準備は良いかい?」
「ええ、早速教えてくださるかしら、レイン先生?」
「フフっ、ではー
今回レインが教えてくれたのは【ぷでぃんぐ】、なるものだったわ。
卵って、焼いたり煮たり、お菓子の材料として使う以外にこんな使い方が………
卵をメインに使って、しかも《むす》……ねぇ……?
大鍋にお湯を沸かし、それの中に小さい鍋を入れ、小さい鍋の中には、器に入れた卵を溶いて他の材料と混ぜた物を入れて煮る。
中々に手の込んだ事をしますのね?
レインの説明を聞く限り、前に教えてもらったゼリーの様な物を想像していたのだけれど………
「……毎回、この世界に無い様な新しいお菓子を提案するボクが言うのもなんだけど、エリィは飲み込みが早いね………?
教えながらなのにボクより上手に作るなんて………
「そうかしら?」
卵を溶いてバニラや牛乳を混ぜる、なんて小麦粉が無いだけでパンケーキやクッキーの応用みたいなもの、な感覚なのだけれど。
いえ、プディングとパンケーキやクッキーは別物ではあるのだけれど。
"カラメルソース"の作成だって、元々私が失敗して焦がした砂糖が香ばしくておいしかったから、
それをパンケーキにかけたり、クッキーに混ぜる為に応用・創作して作ってた位だもの。
今回は、その私が創作で作った砂糖を少量の水で煮てわざと焦がした物をパンケーキにかけて出したらレインが
「…え、これって…カラメル!?」
と衝撃を受けた事がきっかけだったみたいだし。
それで、私のこの砂糖液をレインは"カラメルソース"と名付けたのよね。
………私なんかが思いつく程度のものだから、他の人も既に作っている可能性があるのだけれど、まぁ、その時は正しい呼称に訂正しましょう。
それにしても、普段料理をしないレインがこのカラメルソースの作り方を知ってた方が驚きだわ。
「出来ましたわ、後はこれを冷やすだけですわね?」
「そうだね、じゃあ冷蔵庫へ入れておこう。
明日のティータイムが楽しみだよ。」
(この世界は科学の代わりに魔法が発展していて、生活用品に関しては前の世界とは変わりないのが助かる。)
「ふふっ♪今日の分は一緒に作っておいたカラメルクッキーにしましょうか。」
「え…いつの間に?」
「蒸している間に余ったカラメルを前日に作っておいたクッキー生地に混ぜて作りましたの♪もうすぐ焼けますわ!」
「……ははは…君って人は、どこまでボクを喜ばせるのだろうね。」
そうして、今日も寮の庭園でお茶会をしていると、今日はお友達が遊びに来ました。
「…あらぁ〜やっぱりここにいたんですねエリカさん。」
「あら、貴女はアリア様…!どうなさいましたの?」
「いえ〜、たまには貴女とお茶会を、と思いましてね〜。」
彼女はアリア・ハーレスト様。
私やレインと同じ公爵家の者で長女、そして王太子殿下の婚約者……
ふんわりおっとりした方で、雰囲気通り優しいお方………ある意味では、王族向きでは無いと、私もレインも思っているので、全力で支えようと決めている方………
そんなアリア様とは、私が未来の宰相の婚約者であるという立場もあって懇意にさせていただいている。
……そうでなくとも、彼女は色々と心配で目が離せないのもあって、よく手助けをしているうちに仲良くなったわ。
こうして、彼女がひょっこりと現れてお茶会に参加したりする程度には。
「どうぞ、こちらへ。
メアリー、彼女にもお茶をお願いしますわ。」
「承知しました。」
「お邪魔しますねぇ〜。
クラウス、お菓子をお願いしますねぇ?」
「はい、かしこまりました。」
私が侍女であるメアリーにお茶を頼むと、
彼女の執事、クラウスさんがアリア様の指示でお菓子を出してくる。
……いちごのケーキね。
そんな彼女は、私が作ったカラメルクッキーに手を伸ばし、躊躇なく口へ運んだ。
サクリと小気味のいい音を立てて噛み割る。
「…アリア様、作り手の私が言うのもなんでしょうが、もう少し警戒なさいませ?;」
「え〜?お言葉ですがエリカさんは〜、私を害そうとなさいますかぁ~?」
そう言って微笑んだアリア様は、しかし目は私を信頼しきっていた。
なんだかこちらが申し訳なる視線だわ…
私は反射的に頭を下げてしまった。
「い、いえ、そんな滅相もございません。」
「ふふ〜、ちょぉっと〜意地悪な質問でしたぁ〜。
ごめんなさいね?公爵令嬢がそんなに軽々しく頭を下げてはダメですよぉ?例え、相手が同格でもね〜。」
「は、はいっ‼」
「ははは、手厳しいですねアリア様は。」
「んふふ〜♪私だって仮とは言え王太子妃ですからねぇ~。
レイン様も〜エリカさんの扱いには気を付けてくださいなぁ〜?」
……何故かしらね…
アリア様も何処かふわふわした方なのに、
何故ラミエス嬢はあんなにも胡散臭い、と言うか、異物感があるのかしら。
ちなみに、アリア様とレインが普通に話せるのは"お友達"であり、愛称呼びも本人が認めているからだ。
王太子殿下の婚約者なら、"お友達"な事は逆にステータスになる。
そうでなくとも、異性である彼女をレインが堂々と手助け出来る大義名分として申し分無い。
……レインの場合、そんな事を考えている側面はあるにしても"私の為"だなんてサラッと言いそうだけれど。
そう思いながら私もアリア様が持ってきたケーキを1口……
「あら美味しい。どこのお店ですのアリア様。」
「んふふ~♪実はぁ〜クラウスの手作りなんですよぉ〜!」
「あら…!」
そのクラウスさんは、リヒターさんと親しげに話している。
同郷だとリヒターさんが言っていたし、クラウスさんもフェンリル帝国出身だった。
……何を隠そう彼こそが婚約破棄されたアリア様を嬉嬉として帝国に連れ帰り皇太子妃とした
【クラウス・フォン・アインツベルン・フェンリル】皇太子殿下その人だったのだから。
今思えば、私もレインも(彼が徹底的に身分を隠していたから)知らなかったとは言え、皇子の手作りケーキを食べていたなんて恐れ多いわね…………
尤も、クラウスさん……いいえ、【クラウス皇帝陛下】はこの時から私達二人の事を妻の親友、ひいては自身の親友だと思ってくれていたので私達にも【フェンリル帝国皇帝様】との繋がりが出来た、という事なのだけれど。
最初からネタバレしてるので隠しません。
同盟国の皇子様が執事とかすっっごくふぁんたじぃ。