2.宰相、レインハルト(レイン視点)
『真実の珠』。
この国が保有する貴重な魔導具…《宝具》の内の一つである。
当然持ち出しには国王陛下の許可がいる。
しばしぼーっとしていた(すごく可愛いからボクは彼女の頭を撫でていた)エリィがハッとした顔をして現実に戻ってきたのでそんな彼女の額に軽くキスを落として正面へ向き直った。
それを見ていたラミエス嬢は一瞬顔を憎悪に歪ませたが、直ぐにいつもの天然顔に戻る。
全く、あの傾国の女狐め…今度こそ追い出してやるぞ。
あ、それはともかくエリィの綺麗なプラチナブロンドの髪には狐耳が映えそうだから今度付けてみようかな。
…そんなボクの邪な考えを察したのか、エリィは頭を押さえてボクを睨みつけてきた。
うん、可愛いね。
っと、それより今は真実の珠だ。
…今回は事の重大さを鑑みて国王陛下自らが珠を持って現れた為か、周りが騒然とする。
殿下やラミエス嬢達も驚いた顔をしていた。
そんな中、息子故か直ぐに立ち直った殿下が陛下の元へ歩いていく。
まるで自分達の勝利を確信しているかのようだ。
…どこからそんな自信が湧いてくるのやら。
「父上、お願いします!
どうか悪しき魔女を断罪し、魔女に洗脳された次期宰相を解放してください!」
「……………。
これより、真実の珠により審判を下そう。
皆の者、刮目せよ。」
そんな殿下に対して、陛下は一瞥しただけで、直ぐに珠を掲げた。
宙に固定された様に浮かび上がった珠からは光が発せられ、映像が投影される。
そこには今までエリィがした、とされる行為が次々と表示されていき、その全てに判定が下されて行った。
…当然、全ては無罪判決。
足を掛けた、と言うものには様々な確度で無実を実証し。
隠された、盗まれた、と言うものにはラミエス嬢が自分で置き忘れた映像や、酷いと自分でゴミ箱に入れる映像までもが映された。
それに加えて今は他国の皇女となったアリア・ハーレスト様の無実も証明されてゆく。
……全ては、ラミエス嬢の犯行だと裏付ける様に。
「そんな…!何かの間違いです…!わたしはそんなことしてません…!
きっとあの魔女が珠を偽物とすり替えたか細工をしたのです!!」
それを見たラミエス嬢は、殿下に対して縋る様に何時もの"捨てられた子犬の様な顔"をし、鼻にかかる甘い声を上げる。
……いつもの【魅了魔法】だ。
しかし、国王陛下は手に持つ『真実の珠』やその他対魔法装飾品により効果は無い。
僕も同じだ。魅了魔法を使って来るのは予想済みだったし、何より『家の事情』もあって精神系対策の装飾品を着けているから魅了は効かない。
そして魅了魔法は同性には効かない。
しかしあの殿下にはガッツリ魅了がキマるから………
「…ああ、分かっているさアリス。
父上、まさかとは思いますがそれは、アリスの言う様に偽物では無いでしょうね?
いくら父上でも未来の王妃であるアリスへの侮辱は許しませんよ?」
「…誰が、誰を許さぬと言うのだ?
ライトリーク、そもそもお前はハーレスト公爵令嬢であるアリア嬢…いや、現アリア・ハーレスト・フェンリル皇女との婚約を破棄したそうだな。」
「当たり前です!あの様な権力を笠にアリスを虐めるような者は我が国の王妃には相応しくありません!!」
「ライトリーク、お前は既に王のつもりなのか?何時から我の跡を継いだのだ?
それを決めるのは国王である我か、宰相である現バンバルディア公爵のはずだぞ。
それを、なんの権限も無いお前が勝手に決めていいことでは無い!
身の程を知れ愚か者がッ!!」
「っ…!ですが!アリア嬢はアリスに酷い仕打ちをした悪女ですよ!?
そんな女が何故ー
「黙れ!最早他国の皇女であるアリア皇女殿下に対して何たる言い草だ!愚か者が!!
…はぁ……。
アリア皇女殿下に関しては宰相であるバンバルディア公爵やハーレスト公爵のお墨付きもあり、帝国へ嫁いでいただいたが。
そうでなければハーレスト家や帝国を敵に回す所だったのだぞ?」
「あんな悪の巣窟は滅ぼせば良いでしょう?
いえ、あんな悪女が王族入りした国なんて滅びるでしょう!」
「……そこまで愚か者だったか……ライトリーク……
国王陛下は、腹心であるバンバルディア家やハーレスト家だけでなく、友好国であるフェンリル帝国までもを貶める愚かな発言をした殿下に対して怒りで震えた…が、直ぐに国王としての冷静さを取り戻し、冷めた目、冷たい声で実子でもある殿下に裁きを下した。
「…………ライトリーク。
現時点を以てお前の王位継承権を剥奪する。
バンバルディア次期当主であるレインハルトより《魅了魔法》にかかっているとの証言、
そして《真実の珠》にもそれを裏付ける【状態異常:魅了】の判定が出ているので処刑はせぬ。
隔離棟の牢にて魅了魔法が解けるまで反省するがよい。
その上で改めてお前自身の考えを聞き、継承権の復活を決める。」
「父上っ……!?」
「連れて行け。」
「父上!!あんまりです父上ーーーっ!!
殿下が兵士達に連れていかれる中、ラミエス嬢は愚かにも陛下へと楯突いた。
……既に国家反逆罪で死刑は決定的だろうけど、徒に罪を重ねるのはどうなのだろうか。
「そんなっ!?何かの間違いです!酷いですわ国王陛下!!」
「ラミエス嬢。」
「は、はい……?」
「お前は我が国を乗っ取ろうと王族へ魅了魔法を使った【国家反逆罪】により死刑だ。
そして、ラミエス家の取り潰しと一族全員の処刑を宣告する。
全く、愚かな真似をしたものだな?」
「そ、そんなっ!?嘘です!!この場で処刑されるのは!!死刑になるのはあの悪逆の魔女のはずです!!」
「魔女……?」
八ッ。
自分がした事を棚に上げ、エリィを魔女とは……
滑稽な話だね。
「……ラミエス嬢。」
「っ…!レイン様!!貴方も!貴方もその魔女に騙されているのですわ!!
だって"シナリオ"ではー
「またそんな妄想の話ですか………?
………いい加減に黙れ、傾国の魔女が。」
「っ……!?」
「そもそも、真実の珠に細工等出来やしませんよ。
なにしろ、真実の珠自体が対魔法結界の塊であり、あらゆる魔法を無効化して発動する宝具なんですから。
細工をしようものなら術者が拘束されますから、今ここにエリィは居ません。」
「そんな…!そんな事は……!!
絶対に細工をしていないなんて言いきれるのですか!?
真実の珠が、何時も正しい等と盲信するのは愚かでは無いのでしょうか!?
ありえない……!ありえないありえないありえない!!
私が悪役だなんて間違っている!私が!私が主人公のはずなのに!!」
「………陛下。」
「うむ。兵士、この者は精神をやられてしまった様だ。
即刻、地下牢にて厳重に拘束せよ。
あらゆる対策を持ってこの者を閉じ込めておけ。」
「………………。」
……終わった。
これで、ボク達の戦いは終わりを告げたんだ。