閑話:ファフニールと精霊神(ティータ視点)
今回は逆にやたら長くなりました……
…オレはティータ。
こんな口調だが生物学上では雌、になるらしい。
だが父親であり母親であるヴィクトル/ヴィー殿…面倒なので父殿と呼ぶ、の影響でオレも男体化が使えるので正直、見た目が母親のサクラ殿似でなければ、名前が女性名で無ければ雌かすらも怪しいものだ。
父殿は『名前に反して見た目がイケメンだからどっちかってーとアガットとかにするべきだったかもな……』とか言って居たが、オレとしては気に入っている。
因みに、男体化した時の見た目が女体化した父殿そっくりなので『嘘だろ……?俺の娘ながら中々に罪深い属性が付与されたなオイ。女の漢であり男の娘とか邪神的にはGoodだが色々ダメだろ。』と、父殿は言っていた。
男体化した時の方が見た目が女の子らしい、と父殿は嘆いていたが、それ、母殿に失礼では無いのか?
まぁ、そんなオレの事は今は良い。
問題なのはー
《実に不愉快だな。》
ー今目の前に居る男。
オレのフィーの婚約者だと言う、【ラス・ラカイト侯爵令息】だ。
オレはフィーに婚約者なぞ認めんぞ。
だから個人的に、フィーの使い魔としてコイツを呼び出した。
そもそも、先日母殿達から貰った情報からしてもコイツは信用ならない。
何故なら、奴はー
「全く、使い魔の躾くらいキチンとしておいて貰いたいものですね。」
「お前こそ、婚約者が居る立場で他の雌に現を抜かすのはどうかと思うぞ、ラカイト。」
「はっ。
なにか思い上がっている様ですが、ここは人間の国、ウィンドル王国ですよ。
ただの使い魔如きが偉そうな事を言わないで貰えますか?」
「…魔族であるオレから見ても、お前は人間としては異常な事をしていると思うぞ。」
ー不本意ながら、非常に不本意ながらフィーという婚約者がいるのにアリスだかなんだかという他の雌に現を抜かしている。
あまつさえフィーを邪険に扱っている。
なら婚約破棄をしてくれ、とフィーの親であるダーレム侯爵家当主に頼んでみたものの、何故か首を縦に振らなかった。
娘が…それどころか遥かに格下の男爵家の娘に婚約者を取られ、ダーレム家自体がコケにされているにも関わらず、だ。
オレは確かに魔族だ、人間共の事情等、フィーの事以外はどうでも良い。
が、今回はそのフィー本人絡みだ。
前回、フィーの親友だというエリカをフィーが庇おうとしたから影からフィーの援護をしていたが、
今回からは母殿や父殿、そして精霊神殿達からも強く勧められたから表舞台へと出てきた。
だからこそオレは矢面に立とう。
最愛なる主の為に。
そしてオレは愛用の刀に手をかけ、鍔口を少し上げて何時でも抜刀出来るようにしながらこの、人間としてはクズに分類される男と対峙していた。
……魔王殿下からも『構わん、やれ。』と言われたしな。
が、この男は何故か自信満々な様子でオレと対峙していて、刀を構えるオレを怖がりもしない。
………コイツからも精神系状態異常の気配はしている。
ダーレム侯爵家当主からも、洗脳・魅了系の異常を感知した。
あちらは精霊神殿が治療してくれたから直に婚約破棄をしてくれるはずだ。
だが、コイツはフィーに何をしてくるか分かったもんじゃない………
そもそもなんなんだ、あのアリスとか言う雌は。
アイツは魔族か………?
人間ではありえない【常時発動型の洗脳魔法】を展開し、【任意発動型の魅了魔法】まで使う。
しかも、魅了魔法に至っては本家本元であるサキュバス族に迫る程の威力だ。
もしや、ハーフサキュバスの特異体か?
その特性はあまりにも【夜の女王】に酷似している。
常時発動型の洗脳で時に女性をも操り、男性相手なら魅了で確実に操る。
正直、フィーの周りにオレや、強力な闇属性持ちのエリカ、そして魔王殿下や勇者殿下が居なければ全員洗脳されていたかもしれん。
何より………あのレインハルト………本人は気付いていないかもしれないが、【アンチマジックシールド・ラブリス】とやらを常時展開しているらしい。
精霊神殿がそう言っていた。
オレは、先日の精霊神殿との会話を思い返す。
『ティータ、心して聞いて、今回は色々とレアケースよ。
だから今1番あの子達の近くに居て魔王殿下のそばにもいる貴女に伝えるわ。』
『何をだ…?』
『……【レインハルト・バンバルディア】、それと【アリス・ラミエス】について、よ。』
『レインハルト…?フィーの親友、エリカの婚約者、だな。
アリスはあの人の皮を被った得体の知れない不気味な奴か。』
『ええ。
先ずはそのレインハルトだけど、恐らく【アンチマジックシールド・ラブリス】を発動してるわ。』
『なんだそれは。』
『簡単に言えば、"対洗脳・魅了特化の結界"ね。
条件は、"愛する人を深く深く愛している事"、そして、"愛する人にも深く深く愛されている事"。
貴女も発動してるわ。』
『…その条件なら相思相愛であれば皆発動してないか?
それこそ、レインハルトの相手であるエリカもだろう?
何処がレアケースなんだ?』
『"深く深く愛し愛される"、それって難しいわよ。
例えば貴女、フィーが殺されそー
『全力で相手をぶっ潰すな。塵も残さん。』
ーそう言うことよ。』
『理解した。』
つまりレインハルトはオレと同類か。
つまり……
『発動条件には"相手に執着している事"、"相手が自らの意思で愛してくれている事"も含まれるんだな?』
『…よく分かってるじゃない。』
『なに、オレはフィーに執着している自覚があるからな。』
『誇る事じゃないわ。』
『それはすまない。』
『んんっ……とにかく、レインハルトは間違いなく、エリカの味方でしょうね。
それは喜ばしい事だけれど………
『けれど?』
『…本来であれば、レインハルトはエリカを毛嫌いしていたハズよ。
だから最初はエリカがレインハルトを洗脳したか魅了したか、と疑ったわ。』
『ちょっと待て、何故そうなる。
レインハルトはオレが会った時からエリカに執着していたぞ。』
『そうなのよね……そもそも、アンチマジックシールド・ラブリス…長いわね、もう略してアマリスと言うけどー
『略し方おかしくないか。』
ー話がややこしくなるから黙って?ー
『すまない。』
ーそれが発動してる以上、レインハルトは白だわ。
尤も、エリカの味方であるならば私は構わないし。』
『…エリカは重要人物なのか?』
『そうね。
ざっくり言えばこの後あの洗脳された王子が洗脳の効かないエリカを危惧したアリスに言われるがままに処刑して、洗脳された王子が王になって、アリスが妃になったウィンドル王国は、荒廃するわ。
そして、アルカが勇者としてアリスに操られてしまったのを殺し、暴走魔王になったフェンネルに滅ぼされるの。』
『なら今すぐあのバカ王子とアリスを殺せよ魔王殿下。
動くのが遅くないか魔王殿下。』
『貴女はねぇ!
確かにそれは魔族らしくてシンプルだけど!
それに、そのフェンネル本人はこの未来を知らないから!』
『ならオレに話して良かったのか?』
『え、だって貴女邪神だし。』
『…………おう。』
まぁ。
実際オレの父殿は邪神だしな。
あの父殿なら事情を知ってそうだしな。
母殿も知っているのだろうな…………
『なら、オレは邪神らしくアリスをSAN値直葬すればいいか?』
『あ、うん、やっぱり貴女ヴィクトルの娘ね。』
『…?当たり前だろう?』
『……頭が痛いわ。
後でSAN値チェックの100面サイコロ振らないと………
『うん?精霊神殿はSAN値減らないだろ。』
『ええそうね。話が逸れたわ。』
『で、重要なのはエリカが死なない事、か。』
『そうね、彼女はこの国の良心に成りうるから。」
『レインハルトは?』
『アレはダメよ。
良くも悪くも"自分の為にしか動かない"のが本質だから。』
『なるほど、つまり最愛のエリカがそのまま妻になれば、レインハルトは自分の為にエリカの事を想って動く、と。』
『そゆこと♪
だからアリスはすっごく邪魔なのよ。
そもそも、最悪の未来に進む要素だし。』
『まぁ、今のままだと誰も彼もが不幸になるな。』
『そうね、そもそも、"本来の未来"でもエリカは少なからずレインハルトを愛していた。
"出会い"が彼女をそうさせた。
だから、エリカは"悪役令嬢のエリカ"に成った。』
『悪役令嬢?あんな善性持ちの雌が??』
『その話の前に次はアリスね。』
『あのサキュバスクィーンモドキか。』
『……ええ、そうよ。
あの子はサキュバスクィーンに酷似したスキルを持つけれど、サキュバスクィーンでは無いわ。』
『だろうな。』
『あの子は………あの子は………主人公よ。』
『は?』
『あの子は精霊神、よ。
私より遥かに格下だけど。』
『嘘だろ?精霊神が世界を滅ぼす側に回るのか??』
『本来なら有り得ないわ。
でも、彼女は強力な【聖属性】と【光属性】、そして複合属性の【神聖属性】持ち。
間違いなく、精霊神だわ。』
『いや、重ね重ね嘘だろ?ならなんで魔王殿下が勝てるんだ?
神性持ちの洗脳や魅了は闇属性の防御や魔王の魔法障壁を貫通するんだぞ!?
何故なら、そうしないと魔王を止められないからだ!!
だから精霊神には何よりも強靱な善性の心が求められるんだろう!?』
『そうよ、ここでエリカについて、が絡んでくるわ。』
『あ、あぁ……?』
『………エリカは人間にしては有り得ない程強力な【闇属性】と【地属性】持ちで……それ故に…………【冥土属性】…持ち、だわ。
アリスはその冥土に呑まれたエリカを倒す……はっきり言えば殺す為に生まれた者ね。』
『冥土…属性…………だと!?』
『そう、冥土属性よ。』
冥土属性………
深過ぎる闇と、地の様に硬い心を持つ者に発現する属性だ………
あのエリカが心に深い闇を抱えているだと?
地の様に硬い心、は分かる。
アイツは普段、レインハルトが絡まなければ生真面目な堅物だからな。
だが、闇……?闇と来たか………
『笑止。』
『いえ、笑い事では無いわよティータ。
尤も、貴方はいつもの無表情ですけど。』
『笑うだろ、あんな根っからのお人好しで善人の癖に自らを規律で縛り上げてる様な…雌が…闇…………闇深そうだな。』
『…………。』
『そんな目でオレを見るな………
『はぁ……いい?冥土属性と言うのはねーーーー
回想終了。
ーそう、そうだったな。
アリスは精霊神モドキだったな。
ラカイトはその哀れな犠牲者の1人に過ぎんが………
だが、妙だ。
モドキとは言え精霊神。
その精霊神の加護を得ているならば、ラカイトも、あのバカ王子も危険だ。
……やけにあっさりと魔王殿下に蹴散らかされていたがな。
しかし、オレがラカイトの奴と対峙している間に、肝心のフィーが、あんな事になるとは思いもしなかったのだ。
そう、精霊神殿から、エリカの【冥土属性】について聞いていたにも関わらず。
全く、こんな所はヴィー殿に似たくなかったよ………
フィーをリビングドール化する準備が完了していなかったらと思うとゾッとする。
説明やら設定やらを解説する回にしても話を入れすぎた感がありますね…………




