1.私とレインの出会い
私とレインは、婚約者であり幼馴染でもあるのよね。
そんなレインとの出会いは10年程前、まだ私達が4~5歳だった頃…………
その日は我が家、ウルフェン家でお母様が開いたお茶会の最中だったわ。
そこに、レインも来ていたのよ。
「…………!
こ、このクッキーを作ったのは誰……?」
そこで、彼がクッキーを食べると目を見開き、近くに居た使用人を呼んだのよね。
しばらくして、侍女に連れられた私は、初めて出席したお茶会でいきなり何か粗相をしたのかと泣きそうになりながら彼の前に出たの。
ただ、母はレインが何故私を呼んだのかを知っていたからか、優しく微笑んで私を送り出したのよね………
「…あの………わたし、です。お、おかあさまに、てつだってもらって……
「キミが………?」
だから、私の心配とは裏腹にレインは目を輝かせて私の手をとったのよ。
「………キミのクッキーからはとても優しい味がして、食べたら幸せな気分になれた……!
そんなキミは…会ってみたらやはり優しそうな人だった……!
だから、ぜひ、ボクと友達になってほしい………!」
「えっ…?えっ………??
あ……はい……わたしなんかでよろしければ………?」
今思えばかなり滑稽なお話だけれど、それと同時にクッキーだけで人となりを予想できた彼は、普段の食事には悪意が込められていたからむしろ食事にある好意に敏感になっていたのかもしれない。
と、今の私は思っている。
「ありがとう。
ボクはレインハルト・バンバルディアだ。」
「わ、わたしはエリカ……エリカ・ウルフェン…です。」
「よろしく、ウルフェンさん。」
「……は、はいっ……!
えっと……バンバルディア様………!」
それから私は、レインと2人で色々な話をした。
当時からレインも私も読書が好きなインドア派で、趣味も合ったからとても話が盛り上がったのよね。
そしてレインは、私の初めてのボーイフレンドでもあったわ。
そんなレインは、その日以降、頻繁に我が家へ遊びに来るようになったのよ。
そして、数年が経ったある日、色々と知識も付いてきた私は、当時はまだ婚約者でなかったレインが我が家にばかり遊びに来る事が心配になってきたのよね。
「……あの、バンバルディア様……?
わたしに会いに来てくださるのは嬉しいのですが……その……婚約者でも無いわたしなんかに頻繁に会いに来ていては誤解をされますよ………?」
「………なら、誤解じゃ無くなればいいよね?」
元々、同格で最高位の公爵家同士であったので、私とレインの婚約はあっさりと決まった……
レインは元より、よく私と遊んでくれたレインの事を好ましく思っていた私にも異論はなかった。
それからはもう本当に遠慮が無くなり、両親からも歓迎されていたレインは、ウルフェン家に居る事が多くなったのよね。
だから、私は気になって訊いてみた………訊いて、しまった。
「ねぇ、レインハルト様。
何故、レインハルト様はわたしのおうちによくいらっしゃるのですか?」
「うーん……まだ話し方が堅いね。
それに、婚約が決まった時にレインと呼んでくれと言っただろう?」
「………う、え………あのっ、なんで、レインはよくわたしに会いに来るの?」
「うん、よろしい♪
エリィに会いに来るのは、単純に、家に居場所が無いからさ。」
「えっ………?」
婚約者となった彼から放たれたのは、当時7歳程だった私には、とても、とても重い話だった。
「落ち着かないんだ。家での生活も、食事も。
義母には相当嫌われているからね…………
ボクが安心できるのはキミと、このウルフェン家の中だけなのさ………
「レイン………
そんな彼の話を聞いた私は、彼の体も、心も、守ることを誓ったわ。
それからの私は、常に正しく在ろうと自分を律し、
レインもそんな私に感化される様に義母と戦う姿勢を見せ始めた。
なので2人でよく剣術や魔術の特訓をする様になったわ。
「ふっ!はっ!でやぁぁッ!」
「っ…!っ…!」
「…そこまでだ。
無理に続けても意味が無いから休憩に入ろう。」
「…はぁ……分かったよリヒター。」
「…っ…はぁ…はぁ…は…い……リヒターさん……。」
私達の剣の師匠を務めてくれたのはレインの専属執事でもあるリヒターさん。
私達より5つ上だわ。
「それにしても、昔から教えていたレイン様はともかく、エリカ様も中々の腕前だな。」
「ありがとうございます。」
ちなみに、リヒターさんが砕けた話し方なのは、彼が別の国の高位貴族でレインの兄貴分だからだそうよ。
「……エリカ様なら、レイン様の背も任せられそうだ。」
「あら、女性である私を認めてくれるのですか?」
「強さに男も女も関係無いからな。
この国は、女性騎士だって居るのだから。」
リヒターさんの言う通り、この国では騎士団に女性も混ざっているのよね。
だから性別に関係なく実力さえあれば騎士学校に入り騎士を目指すことも出来るのよ。
とは言え、私もレインも入るのは魔法学校なのだけれどね。
魔力のある貴族の長男や長女は基本的には魔法学校に入るものだから。
とは言え、剣術も覚えておいて損は無いわ。
「さて、もう少し休んだら本日の仕上げにレイン様とエリカ様で打ち合いをして貰おうか。」
「「はいっ!」」
そうして私達は着実に力を付けていったわ………
10歳になり、学園に入学してからは寮に入ったのだけれど、入学前から婚約者同士だった私達は同じ寮の部屋に入る事になったのよね。
「今日からはレインと一緒に暮らせるのですね♪」
「ああ、ボクはこの日をずっと待っていたよ………大好きなエリィと学園に通える日を……
「レイン…
「エリィ…
しばしの間、額を合わせて見つめあった後、どちらともなく離れ、私達は笑いあった……
レインは、いつだって私の味方だったし、私はレインの味方であり続けた。
私達は、お互いに間違いを指摘し合い、お互いを最愛の恋人にしてライバルとして、切磋琢磨し合った………
結果的に私達は自他ともに認めるバカップルになったのだけれど………
ただ、入学してからのレインは、たまに私にはよく分からない事を呟くようにもなったのよね……
「ボクはボクだ……エリィの事が大好きな…ボクだ……主人公の魅了なんかに負けない…。」
「あら、レイン……?」
「……ん?なんだいエリィ。」
「大丈夫?怖い顔よ??」
「ん、ごめんねエリィ。何でもなー
…いや、ちょっと甘えさせてくれないか?」
「ええ♪遠慮なく私を頼ってね?レイン。」
「ありがとう、キミが婚約者で、ボクは本当に幸せものだ……」
レインは、そうやって私に弱い姿も見せてくれていた。
私はそれで頼られている、信頼されていると実感できた………
思えば、それも彼の計算の内だったのかしらね……?
何せ、私は寝言で聞いてしまったのだから………
「………うぅ………あ……
「……?レイ……ン……?」
「エ…リィ…絶対……逃がさないからな……エリィは……ボクのだ……
「……大丈夫よ、私はあなただけのエリィよ?
私のレイン……愛しい旦那様……♪」
そんな事もあり、私はより一層、未来の宰相の妻として努力したわ。
私は、常に皆の模範を目指したし、誰よりも規律を重んじた。
厳しすぎる所はレインがフォロー(わざとイチャラブして私に甘い顔をさせて畏怖感を軽減)してくれたし、あの子や殿下の取り巻き以外の生徒とは良好な関係を築けていたわ。
私とレインは未来の宰相カップルとして、生徒たちから人気のある人間で在れたのよね。
学園内では他にも色々とあったわね………
親友のアリア様が帝国へ嫁入りして……
ハーレスト家と共闘したり……
レインと2人で帝国ツアーに行ったり……
魔国と友好関係になったり………
魔王殿下が婚約者の娘を助けに来たり………
ーあ、準備が出来たみたいだわ。
私は、回想をやめて現実へ意識を引き戻した。