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まほろばの守護者  作者: おずなす
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第8話 招集

 タケルは眠れなかった。

 質素だが美味しい食事を頂き、温泉と思われる風呂を頂き、寝室まで用意してもらったが、色々なことがあり過ぎた。

 寝床で横になってはいたが、考えることがあり過ぎた。

(とりあえず、ビャクヤ様の知と技を有効に使えれば………。

 全てのことに手助けとなるんだけどなぁ。)

 およそ1000年間の知と技を活用と言っても量が膨大過ぎる。

(まるでインターネットの世界だなぁ、情報量が多過ぎる。

 前世で視覚を失っていた時は、スマートスピーカーにお世話になったよなぁ。

 ………。

 うん、うん!これだ!)

 タケルの右眼は青く、左眼は赤く、薄く光り出した。


 ビャクヤの知と技、前世の知識と技術、その時々に各感覚から入って来るもの、リサーチ&アナライズの結果を情報として捉える。

 意識内にロボット型検索エンジンを作成する。

 それを擬人化し学習させ情報を最適化させる。

 タケルとの遣り取りは意識内で完結させる。


(つまり、脳内スマートスピーカーって感じだなぁ!)

 タケルは、これを妖術として自分に施した。

 AIプログラムを作成する訳では無く、ビャクヤの知の中にあった式神の応用で割と簡単に出来た。

 これもタケルの持つ膨大な「気」の量、「空ノ気」「地ノ気」、ヒルコとアハシマの御加護のおかげである。

 必要そうな情報を寝ている間に学習させてくれる睡眠学習機能も付与した。

 そして意識内常駐させた。

(あとは名前を付けて、完成だ。

 ビャクヤ様から名をいただき、

 ビャクヤ…白夜…白…シロ!

 シロだ!

 シロ!よろしくな!)

(ワン!)

(??、まさか、犬?

 まだ学習し始めたばかりだものなぁ。)

 タケルは、やっと眠くなり、いつの間にか寝てしまった。


 その朝は晴れていた。

 陽の上がる前に小雨が降ったのであろうか、樹々が水々しく朝陽に照らされて活き活きとしていた。

 鬼族の里は、巡回警備が終日行われており厳戒態勢ではあったが、長シュテンの無事やロウとタケルのことは里の者皆に昨夜のうちに念話で知らされており、どこか安堵感に包まれていた。


「うぁーぁ、よく寝た!」

 タケルは昨夜寝付きが悪い割には熟睡出来たようである。

(シロ、おはよう!)

(おはようございますワン。)

(ワン?まぁ、いっか!

 どう?かなり学習出来た?)

(現在、7割程完了しましたワン。)

 タケルは学習スピードに驚いた。

 予想では3割くらいと思っていたからだ。

(シロ、凄いね。引き続きよろしく。)

(了解ワン。)


「タケル、父上が目を覚ましたのよ。」

「はい、今行きます。」

 タケルは寝室を出た。シュレイが待っていてくれた。

「シュレ………姉御、おはようございます。

 あっ、姉上、おはようございます。」

 人間の形をしたロウも隣の寝室から出て来た。

 何気なくタケルはロウを見て本質の変化に驚いた。

(姉上、身体が大きく、「気」の量が増えている!

 聖獣へと変わって来ているのかなぁ?)

(犬神は一子相伝、ビャクヤ様の死で聖獣へと進化している最中ですワン。)

(シロ、助かる〜。

 学習の方は大丈夫なの?)

(はい、タケル様の前世でいうマルチタスクですからワン。)

 タケルは術式シロを作って良かったと思った、ビャクヤの知と技を有効に使うことが出来ると確信した。


「父上、お連れしました。」

 シュレイは戸を開けてふたりを部屋の中へ案内した。

 シュテンはまだ、寝床の上であったが上半身を起こし顔色も良かった。

「ロウ様、お見舞い、ありがとうございます。

 ビャクヤ様のこと、お悔やみ申し上げます。

 そして、我が子の面倒を見ていただき、シュチ、シュレイとともに御礼申し上げます。」

「うむ、シュテン、具合はどうじゃ?」

「はい、おかげさまで元気になりました。」

「全てタケルの術のおかげじゃ。」

 ここで初めてシュテンはタケルに視線を移した。

「タケル、掟とはいえ父を許しておくれ。」

 シュテンはタケルから視線を降ろした。

「父上、生んでいただいたことに感謝しております。

 川に流されたことでビャクヤ様、ロウ様とも出会い、ヒルコ様とアハシマ様の御加護まで賜りました。」

「そうか、そうか………。

 話はシュチから聞いた。

 聖獣犬神の家族として自分の思う道を行くが良い。

 しかし、鬼族であることも忘れんで欲しい。

 いつ来ても里はタケルを歓迎する。」

「はい!」

「これからオロチ様のところへ向かうのか?」

「はい、オロチ様に呼ばれております。」

「長い間、平和だったので平和ボケしている輩もおるが、鬼族は常に戦闘訓練だけはやって来た。

 必要であれば鬼族の軍勢、馳せ参じますとオロチ様に伝えておくれ。」

「はい!」


 シュテンはタケルへの罪悪感が消えたのか更に顔色も良く「気」も充実して来ていた。

「ところでロウ様、オロチ様より各族長へも招集が来ております。

 ただし、襲撃を受けた族長は名代でかまわぬとのこと。

 鬼族としてはシュレイを考えております。

 道中、御一緒させていただきたく、お願い申し上げます。」

「うむ、シュレイ、一緒に行こう。」

「はっ、ありがとうございます!」

 シュテンがシュチに目配せをすると朝食が運び込まれて来た。

「さぁ、腹が減っては戦は出来ませぬ。

 沢山食べて下され。」

 シュテンは嬉しそうに言った。


 タケルは前世を含めても、食事を大勢の家族としたことが無かった。

 シュテン、シュチ、シュレイとたわいもない話をし、ロウがタケルに上手くツッコミを入れてくれた。

 ワイワイと楽しい食事だった。

(食事って、楽しいものだったんだ。)


 赤い直垂、赤い括袴、黒い脛巾、黒い手甲(胴を守るための鎧は外されていた。)という支度を整えたシュレイを待って、タケル達は館を出発した。

 シュテンとシュチは、いつまでも手を振って見送ってくれた。


 ロウは犬神の姿に戻っており、やはり身体が大きくなっていたが、タケルはそのことには触れないでいた。

 体長は2メートルくらいになってビャクヤによく似て来ていた。


 館の裏口から森を通れば、すぐに里の外へ続く道に出られるのだが、里を通って行きたいと言ったのはタケルであった。

 鬼族の里の様子を見ておきたいと思ったのだ。

 館から真っ直ぐに里外れまで伸びている大通りを中心に放射線状に小道があり家屋が沢山あった。

 大通り沿いには色々な種類の店もあるようで、開店の準備に追われる鬼達も多く居た。

「シュレイ様、おはようございます!」

 多くの鬼達がシュレイに声をかけ、シュレイも笑顔と簡単な言葉で応えていた。

 ロウを知る者は頭を下げたり、両手を合わせたり拝む者が多かった。

「あれがタケル様?」

「凛々しいお顔!」

「長を救ったらしいぞ!」などなど、

 タケルの噂話も多く聞こえて来た。


 そろそろ里の外に出るところに来てタケルは侵入者感知の結界が施されているのに気付いた。

(こんな仕掛けもあるんだ。里を守るために色々と考えられている。

 でもあの剣には効果無いということか?)

「姉御、活気があって良い里ですね。」

「父上の政が良いからね!」

 タケルもシュレイも嬉しそうに笑った。


 里の外へ出た途端、シュレイの雰囲気が変わった。

「タケルっー、オヤジを救ってくれて、ありがとうな!

 お前には借りができちまったな。

 まぁ、アタイの弟分だから当然か!」

(えっ、えー!ヤンキー??)

 するとロウがニヤニヤしながら

「こっちが、本当のシュレイだよ。

 里の中では長の娘として演技しているのよ。」

と、教えてくれた。

(性格もヤンキーってことか?うっー。

 それで、姉御か………。)

 タケルはこれからの苦労が予想できて少し気落ちした。

「姉御、当然のことッス!」

 シュレイはタケルと肩を組み、片手でタケルの頬を軽くハタキながら

「タケルっー、

 お前分かってんじゃねーか。」

 と言って笑いながら離れて行った。

(フッー、軽く合わせたけど、先行き不安だ!)

 気付くと、いつのまにかシュレイの赤くストレートな長い髪は束ねられており、タケルには、それがポニーテールに、直垂、袴が前世における地域密着型二輪ツーリングクラブの特攻服に見えた。


 オロチの館と鬼族の里は霊峰フジを挟んで相対した位置にあり、歩いて向かうと人外の者でも1日以上かかる。

 タケルは一刻も早く今後の対策についてオロチと相談したかった。

 迅速にオロチの館へ行くためにタケルは試してみたいことがあった。

 ビャクヤの知を利用した転移妖術である。

「姉上、試してみたいことがあるのですが………。」

「何?話してごらん。」

「転移妖術は自分の行ったことがある場所、記憶にある場所以外には転移出来ません。

 しかし、俺にはビャクヤ様からいただいた知があります。

 ビャクヤ様の知にある場所ならば行けるのではないかと思います。」

「可能性は十分あるね。

 やってごらん!

 この街道を真っ直ぐに半日くらい歩くと、お母さんが大好きだった大きな桜の木がある。 今は葉桜だろうが………。

 そこへ行ってごらん。」

 ふたりの前を肩で風を切って歩いていたシュレイも隣に来て興味深そうな顔をして聴いていた。

「はい。やってみます!」

(シロ、ビャクヤ様が大好きだった桜の大木を頼む。)

(了解ワン!)

 すると桜の大木の映像と位置情報が頭の中に出現した。

「ワープ!」

 タケルは黄色い光りに包まれ、周りから青い光と赤い光を取り込み漆黒の闇に染められ消えた。


 大きな桜の木だった、幹の根元は直径が3メートルほどであろうか、放射状に天に向かって伸び、枝先は自重で垂れ下がっていた。

 蒼々とした葉が晴れた空に映えていた。

 タケルは根元から上を見てみた。

 空と葉が創る光と影とのコントラストがとても綺麗だった。

「これは、花が咲いたら絶景だなぁ。

 次の春に来てみたい!」

 タケルは幹に触ってみた。すると、優しく大きな気配を鼓動のように感じた。

 鼓動は1回きりであった。

(ビャクヤ様?いや、違うかな?)

 タケルは「リサーチ&アナライズ」を使おうとして止めた。

(きっとビャクヤ様の想い出の気配だね。)

 タケルは笑顔になり、転移妖術でロウ達の所へ戻って行った。


「姉上、立派で美しい桜の大木ですね。」

「そうだろう!お母さんとも時々訪れた。

 春に、花が咲く頃、一緒に行こう。

 転移妖術もできたようだね!」

「はい!」

「ロウ様、「もののふ桜」のことですね。

 花見ならアタイに任せて下さい!

 次の春、準備万端整えて、御招待します。」

「鬼族はそう呼ぶのか………。

 シュレイ、楽しみだね!」

「お任せを!」

 やはり、あの桜の大木にはビャクヤと関わる何かがあるようだが、タケルは今は詮索しまいと思った。

「ところでタケル、ワープとは何ぞや?」

「術式の名前です。

 本当は宇宙戦艦や宇宙空母が使うんですけど、俺の中では良い名と思っています。」

「???」

 ロウとシュレイは顔を見合わせて首を傾げていた。

「あっ、気にしないで下さい。

 自分だけにわかるように変わった名前にしました。」

 ロウとシュレイはまだ首を傾げていたが、タケルはスルーした。


 3人はタケルの転移妖術でオロチの館の前に転移した。

 目の前に、

 3メートルぐらいの長い身体、

 胴の太さはタケルの腿ぐらい、

 鱗を黒く艶めかしく光らせ、

 とぐろを巻いた

 1匹の黒蛇が現れた。

「お待ちしておりました。

 オロチ様の側仕え、黒蛇のカガと申します。

 さぁ、こちらへ。」

(カガさん、聖獣並みの「気」なんだ!

 流石にオロチ様の側仕えだね。)

 見る気は無かったが、本質を見てしまったタケルは思った。

 カガに導かれ、3人はコの字型に構える大きな館の裏へと進んだ。

(寝殿造りなんだ!)

 タケルは館を見ながら驚嘆していた。

 案内された場所を見て、更に驚嘆した。

 そこは大きな、大きな円形闘技場であった。


 観覧席には招集された人外の者達が思い思いの席を陣取っていた。

「タケル、ここならオロチ様が変化を解いても平気だろう!」

 ロウは笑いながら小声で言った。

「はい。」

 タケルも笑いながら小声で答えた。

「ロウ様、聖獣の皆様は人間の形でお願いします。

 我が主人オロチ様に合わせていただきます。

 支度が出来ましたら中心の円卓でお待ち下さい。

 シュレイ様、タケル様は観覧席の方へどうぞ。」

 カガはそう言うと一礼して、また館の入り口の方へ戻って行った。


「タケル、白衣はくえ緋袴ひばかまを取ってきておくれ。」

「はい。」

 タケルは、これじゃ、程のいいパシリでアッシー君だと思ったが、悪い気はしなかった。

 タケルが白衣、緋袴に加えて白足袋と草履を持って来るとロウは微笑んだ。

「タケル、気がきくね!」

 ロウは巫女装束を口で受け取ると変化した。 器用なもので変化と同時に着替えも終わっていた。

「シュレイ、タケル、また後でね。」

 ロウは闘技場の中心に設置された円卓へ向かった。

 シュレイに促されてタケルも観覧席の方へ向かった。

(学習が完了しましたワン。

 引き続き最適化に入りますワン。)

(早かったね。最適化の方もよろしくね。

 それと、ここに来ている者達の解説を頼むよ。)

(了解ワン!追加報告、ロウ様は聖獣に進化完了しましたワン。)



 タケルの脳内メモ 招集者紹介編

             シロ作成


首領

 蛇神オロチ  側仕え 黒蛇カガ


聖獣

 犬神ロウ お付き タケル

 鳳凰クザク

 亀神ラメガ(まだ、来ていない。)


鬼族

 族長名代シュレイ  お付き タケル

 

犬狼族

 族長名代ツキヨ


天狗族

 族長名代オボシ


狐狸族

 族長コクコ  お付き ハクリ


河童族

 族長ネネコ  お付き サンタ


獨の妖魔5傑

 上位仙人 スサ老師

 猫族の生き残り ヤスナ

 土蜘蛛 アカツチ

 大百足 アオザ

 ※4傑であるが、黒蛇カガを加えて5傑と呼ばれているワン。


人外の地の中心的な人外達であるワン。ただし、スサ老師は人間であるワン。

 

四聖獣は皆、身体が大きいワン。

 ロウ様が一番小さいが2メートルほど、今は聖獣への成長が完了し、3メートルほどであるワン。

 鳳凰クザク様は体長5メートルほどで、その御姿はタケル様の前世における平等院鳳凰堂屋上の鳳凰像にそっくりですワン。一万円札にも描かれているワン。

 亀神ラメガ様はオロチ様と同じくらいの体長100メートルほどで巨大ワニガメといった御姿ですワン。


一族をなす者達は多少の差はあれ人間と同じくらいの大きさですワン。

 御姿は基本的に獣人ですワン。顔は人間と変わらず、耳、尻尾、手足がそれぞれの特徴を示しておりますワン。

 さらに、天狗族には鳥の様な翼があり身体的に空を飛べる唯一の一族ですワン。まぁ、妖術によって飛べる方は沢山いらっしゃいますワン。

 また、タケル様の前世でのイメージとは違いますワン。

 天狗族は特に鼻が高くはなく、人間や鬼族とさほど変わりませんワン。飛行する際に鼻と口を保護する嘴型半仮面を使用します。

 河童族には頭の上のお皿はありませんワン。頭部より水を吸収しやすい構造になっていますが見た目は人間の頭と変わりませんワン。ちなみに甲羅もありませんワン。


獨の妖魔

 スサ老師様は人間から修行と鍛錬を経て仙人になられた方ですワン。人外の地をお気に召し、悠々自適に暮らしておられますワン。

 猫族のヤスナ様は、獨の妖魔ですが、人外の地誕生の際の戦で一族がほぼ滅亡してしまいましたワン。今ではヤスナ様と従者2名が生き残っていますワン。長の娘ヤスナ様は勇敢にビャクヤ様達と一緒に戦われたのですワン。

 土蜘蛛アカツチ様はご覧の通り、巨大ツチグモで体長2メートルくらいですワン。

 大百足アオザ様も大きな百足で体長は3メートルくらいですワン。

                  シロ

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