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まほろばの守護者  作者: おずなす
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第5話 寿命

 ロウが朝食を作るために人間に変化へんげした。

「えっ、えっ、えー!」

 タケルは初めて見る光景に驚いた。

 ビャクヤの語りの中で、人外の者の中でも一族で暮らす者達と獨の妖魔でも上級の「気」を持つ者は、変化することが出来ると聴いていたが………。

 しかし、気配の変化が無いこと、変化に掛かる時間が一瞬であること、ロウの変化後の容姿があまりにも可愛いこと、などなど、タケルはつい大きな声で反応していた。

「タケルは見るの初めてだものね。

 人間の形の方が色々と作業がしやすいからね!便利だし。

 タケルもそんなバカみたいな「気」の量だから変化もすぐに出来るよ。

 まぁ、角の無い鬼なんて、もう既に人間の形だ・け・ど・ね!」


 人間の形のロウは20歳ぐらいの美しく可愛いらしい女性であった。

 黒い直垂ひたたれと黒い括袴くくりはかまを着用しており、背中にかかるくらいの黒髪が艶やかであった。 

 タケルも直垂と括袴を着用していたが、自分で着れるようになったのは1ヶ月ほど前であった。

(アッ、俺のも上下黒なんだ。

 そうだよなぁ、まだ自分で着れない時ロウ様が手伝ってくれたけど、通りで胸紐と袴の括りを器用に結ぶわけだ、人間の形で着せてくれてたんだなぁ。

 気配の形が分からないというのも困りものだなぁ。

 でも………、訓練すればどうにかなるか?

 今度ロウ様に聞いてみよう。)


 朝食は干した川魚の焼き物、干し芋、桃であった。

 タケルはいつものように美味しくいただいたが、時々、米が無性に食べたくなる。

 ビャクヤの語りによると人間達は米を栽培しているが、人外の地では誰も栽培しておらず、人間から時々流通して来るらしい。

 人外の地では米は珍しいものではあるのだが、それを好んで食する人外の者はいないらしい。


 朝食の時間も終わろうとする時、ビャクヤが深妙な顔つきで言った。

「今日はオロチが遊びに来るでのう、大切な相談もあるのでふたりには席を外して欲しいのじゃ。

 いつものように日の入りまで狩と気の演練をして参れ。」

「はい。」

 ロウとタケルは返事をしたが、ロウの返事にいつものような元気は無かった。

(いつものロウ様らしくないなぁ。)

 タケルは少し気になったが、視覚のある初めての森への期待の方が大きかった。

 

 このところ、視覚の無い状態でロウを少し上回って来ていたタケルの能力は視覚を得たことで爆発的に向上していた。

 ふたりは森の中で「気」を使いながらの闘術とうじゅつを演練していた。

 タケルの闘い方は自衛隊の徒手格闘であった。

 身体が大きくなり前世の記憶にある格闘術の感覚に身体が追従して来たところである。「気」を使い相手の動きを予測、殴り、蹴り、投げ、関節取り等の合間に「気」の波動を打ち込むといった闘い方であった。

 ここ半月ぐらいから闘術の演練中にロウに噛まれたことは一度もなかった。

「もう、狩も闘術も「気」もタケルには敵わないわ!

 タケル、少しは気遣いしなさいよね。

 少し前までは噛まれるとメソメソ泣いて可愛かったのに!」

「ロウ様、それは言わないでください。」

 タケルは気を遣っていた。

 ロウに演練中、噛まれたり打撃を喰らわなくなってから急速に能力は向上していた。

 ロウとの演練では息も上がらなくなって来ており、これに加えて視覚を得た今日は数段階高みに至ったような感じがしていた。


「タケル、休憩しましょう!」

「はい。」

 近くにある河原まで行き、手頃な大きさの石の上にロウは伏せ、タケルは腰かけた。

「ロウ様、目が見えるようになって一つ疑問ができました。

 朝、ロウ様が変化した時に気付いたのですが、今までは気配だけでしたのでロウ様はロウ様でしたが、変化したロウ様はやはりロウ様だったのです。」

「うん?タケル何が言いたいの?」

「上手く言えないのですが、目が見えない時でもロウ様は変化していた時があったと思うのですが、俺は変化に気付けなかったのです。

 者や物の状態、本質を気配で見極めることは出来るのでしょうか?」

「アッ、そんなこと?タケル、私は変化はしたけど「気」までは圧してなかったから、住処で作業のために変化しただけだからね。

 普通は「気」を圧して人間のフリをするのよ。」

「そうなんですか。

 では、変化してないロウ様、変化しているロウ様を気配だけで見極めることは可能でしょうか?」

「普通は無理ね!でもね、お母さん以上の力を持っている方々は出来るはずよ。

 お母さん以上だと聖人、聖獣、国津神、天津神の皆様ぐらいよね。

 今じゃ国津神はほとんど天上界に戻られているけど。」

 ロウは少し間をおいて優しく言った。

「タケル、あなたは出来るはずよ。

 私が変化するから集中して感じてごらん。」

 タケルは戸惑いながらも気配に集中して行った。

「ガブッ!」

(イテッ!甘噛みキター!)

「タケル、お返事は?」

「はっ、はい!」


 心を落ち着け集中すると視覚情報に被ってロウの気が見えてきた。

 タケルは「空ノ気」を右眼に「地ノ気」を左眼に感じた。

 それらが混ざりながらタケルの気と視覚を包んで行った。

「変化するわよ!」

 タケルは変化に伴う気配の違いを見ることができた。

 気配の中に芯の様な感覚のものが存在し、ロウの本質を映像として見せていた。

(この芯みたいなのが本質なんだな。

 周りの気配の形は変化で変わるけど、芯は変わらない。)

「ロウ様、見えました!

 ありがとうございます!」

 ロウはあきれた顔をしていたが、やがて嬉しそうに言った。

「タケル、あんた凄いね!

 私も最近やっと出来るようになったのに!20年ぐらいかかったのに………。」

 ロウは今度は悲しそうな顔をした。

「ロウ様、どうかされましたか?

 今日は元気がないようですが?」

 ロウは悲しみを堪えるように淡々とした口調で話し始めた。

「犬神の寿命は約1000年らしいの、寿命の数十年前に娘を産んで育て死ぬんだって。

 お母さんの寿命が間もなく尽きるのは感じていたわ。

 時々、今まで見たことがないような遠い目をすることもあったし………。

 でもねタケルが来てからのお母さんは、活気に満ちているように感じられていて………。

 今日、オロチ様が来たということはその日が近いということなの。」

「オロチ様って何者なのですか?」

「オロチ様はお母さんと同じ聖獣のお一方、人外の地でお母さんの次に強いお方。

 大昔に悪さしていてスサノヲ様にボコボコにされたらしいわ。

 それからはスサノヲ様に付き従いヤマト タケル様やお母さんとも一緒に天子様のために戦ったという話よ。

 今じゃ、人外の者は平和で皆んな仲良く暮らしているけど、人間と違って基本は弱肉強食だから強い者が治めている方が都合がいいのよ。

 多分、次の首領のお話に来ているんだわ。」


 ロウは人間の形に変化したままであり、その美しい瞳からは涙が零れていた。

(ビャクヤ様が………。)

 今朝初めて視覚で感じた優しく笑うビャクヤの顔がタケルの心を埋め尽くして行った。

 3ヶ月の短い間しか過ごしていないが、ビャクヤとロウに受けた恩と愛情は計り知れないものがあった。

「ロウ様………。」

 沈黙が長く続いた。

 間も無く空を赤く染め上げるであろう西陽が川面を、キラキラと輝かせていた。

 

 ビャクヤは変化していた。

 長い黒髪を背後で束ねた綺麗な熟年女性の姿であった。

 真っ白な単衣に赤い表袴うえのはかまという巫女のような装いで、岩のテーブルを挟んでオロチと差し向かい、木製の椅子に腰掛けていた。

 オロチもやはり変化しており、狩衣かりぎぬ姿を着崩したような着こなしで烏帽子は被っていなかった。

 男性であろうと思われるが、顔には女化粧が施されていた。

 肩までの髪は良く手入れされ黒々と艶やかであったが、まとめられてはいなかった。

 ふたりは長い間、語り、意見し、お互い納得した。


「オロチ、よろしく頼むぞ。」

「わかったわよぅ、あんたの頼みだものね。

 アタシ、首領なんてガラじゃないんだけどね〜、まぁ、狐狸族こりぞくにでも手伝いさせるわよ。

 それより、あんた、ヤマト タケル様に会えるといいわね!」

 ビャクヤは微笑んだ。

「そうじゃな、黄泉ノ国でお会い出来ると良いな。

 それよりも、タケルのことを知っておったとは、流石に抜け目がないのう。」

「あの子が流れて来た時から黒蛇ちゃんに探ってもらってたのよぅ。

 あんな気を出されちゃ、気になってしかたないもの。

 まぁ、「気」の垂れ流しがすぐに無くなっちゃったから、アタシとあんた、後は鳳凰と亀の野郎ぐらいしか気付けないけどね〜。

 なんでも黒蛇ちゃんの調べでは、シュテンの子供らしいわよ。

 楽しみだわ、いいオトコなの?」

「ほほほほほ、オロチ、流石に情報収集が手早いのう。

 ロウの調べでもシュテンの子であった。

 ちょっかいは出すでないぞ。」

 

 空が赤く染まり陽が落ちようとしていた。

 森の木々の隙間から赤く優しい陽が住処に戻ったロウとタケルを照らしていた。

 タケルは連れてこられたばかりの頃、住処は馬鹿でかい洞窟1LDKと思っていた。

 しかし、ロウに、案内されるにつれ寝床のある処を中心に別室がいくつもあることを知った。

 ビャクヤとオロチは客間で話をしているようであった。


 ロウとタケルは客間の前に行き、戻ったことを告げた。

「お母さん、ただいま!」

「ビャクヤ様、ただいま戻りました。」

「おかえり、中に入りなさい。」

 ロウとタケルは客間の襖を開けて中に入った。

「あ〜ら、いいオトコじゃない!こ・の・み!」

 住処の客間にオロチの妖しい声が響いた。

 

 

 タケルの脳内メモ 人外の地編

 

日ノ国は5州からなる連邦国家である。

 北海州 常呂郡、支笏郡

 大倭州 東郡、西郡

 伊予州 伊予郡、讃岐郡、粟郡、土佐郡

 筑紫州 筑紫郡、豊郡、肥郡、熊曽郡、琉球郡

 人外の地(州と同じ扱い。)

 

天子様がおられるアワヂノシマが首都である。

天子様の直轄領

 サド、ツシマ、イキ、オキ


人外の地

 大倭州の西郡と東郡に境界線を接する霊峰フジを中心とする半径150里(前世の約80キロメートル)の真円の地域。

 自由神スサノヲ様の結界が施されており人外の者は族長以上、人間は仙人以上でないと自由に出入り出来ない。自給自足の生活中心ではあるが豊かな自然と資源に恵まれ人間との交易も盛んである。

 

四聖獣

 犬神ビャクヤ

 蛇神オロチ

 鳳凰クザク

 亀神ラメガ

一族

 鬼族 犬狼族 天狗族 狐狸族 河童族

獨の妖魔

 一族をなさない人外の者

 猫族の生き残り、生けるものが進化した者、仙人の変り者等が単独で暮らしている。

  【参考】猫族は人外の地誕生の戦で滅亡寸前まで戦死者を出したらしい。

 

弱肉強食強さランキング

 1位 別天津神

 2位 天津神

 3位 国津神 天子 聖人

 4位 聖獣

 ここまでは別格の強さらしい。

 5位 族長 仙人

 6位 その他の人外の者

 7位 人間

  【参考】獨の妖魔は基本的に強く族長ぐらいの「気」の持ち主が多いらしい。


※人間は神様と同じ身体の形を授かったので、見返りとして「気」を上手く活用出来ず、活用するにはかなりの修行が必要らしい。修行して仙人、もっと修行して聖人となるとのこと。

※人外の者は神様と同じ身体の形は授からなかった代わりに「気」を上手く活用出来ると伝わっている。


人外の地では強さが重要であり、基本的に弱肉強食、首領がスサノヲ様の庇護を受けて司っているとのこと。人外の者は全て首領の眷族となる。首領のビャクヤ様の強さと苦労が偲ばれる。

                 タケル

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