表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まほろばの守護者  作者: おずなす
4/19

第4話 青赤

 ヒルコとアハシマはタケルの前世の話を聞きたがった。

 タケルは前世の自分の生い立ちから死ぬまでを話そうとした。

 しかし、思っただけで伝わったらしい。しかもタケルの記憶と同等のものを共有出来るようだ。

 ただ、細部については記憶の?心の?意識の?深層部にあるので分からないらしい。

[自動車って何で動くの?]

[児童養護施設にはどんな子が入るの?]

[都は東京という場所なの?]

などなど質問の雨嵐であった。

 タケルはその一つ一つを丁寧に答えた。と言っても、それらの詳細を思うだけで伝わった。

 自分の意識の埋もれていたところから引っ張り出して来て整理するようでタケルも楽しかった。

[もう朝だね。また来るよ。

 君が動けるようになるまで、沢山お話しよう。

 僕らの話も聞いてね。]

[また来るね。私達の話も聞いてね。

 ビャクヤ達にはナイショにしてね。いずれ分かってしまうしね。]

(うん、またね!待ってるよ。)

 タケルは自然と手を振っていた。そして眠りについた。

 

 タケルの新しい朝が始まった。

 朝起きてみると夜通しヒルコとアハシマと話をしていたのに眠たくはなかった。

 前世での10年間の視覚障がい者としての経験と生まれ変わってからは、やたらと気配に敏感になっていることを考慮しても、昨晩はヒルコとアハシマの気配を感じることはできなかった。

 少し不思議な気がして夢だったのかもしれないと思った。


 ビャクヤとロウに朝の挨拶をし、朝食を頂いた。

 また干し肉であったが美味しく頂いた。

 タケルは、お座りが出来るようになっていた。

(これなら、ハイハイで動けるかもしれない。)

 タケルはお座りの姿勢から葦の小舟の縁をユサユサと揺さぶり床へと倒した。

 四つん這いの姿勢を取り手と足を前へと運んでみた。

(おっ!動けるぞ!ハイハイだけど移動出来る。なんか嬉しい。)

「タケルよ、もう動けるのか。やはり鬼の子にしても早熟じゃのう。ほほほほほ!」

 ビャクヤは遠くを見る様な瞳をしてはいたが、優しく笑っていた。

「タケル、午後になると毎日の様に眷族の誰かが訪ねて来る。

 相談だったり、お詣りだったり、用件は様々じゃが………。

 朝食後から昼前まではぬしの相手をしようぞ。

 午後からはロウに従い学びなさい。」

「はい、よろしくお願いします。」

「この人外の地について語りたいのじゃが、それには世界の成り立ちから話さねばならない………。」

 ロウはビャクヤの横に伏せ、目を閉じ耳を立て話を聴いていた。

 

「タケル、私の気配は分かる?」

「はい。」

「じゃ、ゆっくり進むからハイハイでついて来て。

 この住処と入口付近を案内するわ!」

タケルはロウの気配に意識を集中させた。

「カブッ!」

(イテッ!甘噛みキター!)

「タケル、お返事は?」

「はっ、はい!」

 タケルは、ハイハイでロウの後に続いた。

 

 タケルは倒れている葦の小舟の縁から中に入ってユサユサと揺さぶり舟を起こした。

「ビャクヤ様、ロウ様おやすみなさい。」

「うむ、おやすみ。」

「お母さん、おやすみなさい。タケル、おやっすみー!」

 タケルはすぐに深い眠りについた。

 

[遊ぼう。]

[遊ぼう。]

(やはり夢ではなかったのか、ヒルコとアハシマが来てくれた。)

[もう、ハイハイが出来るんだね!]

[出来るんだね!歩けるようになったら、身体を動かして遊べるね。]


 ヒルコとアハシマは昨夜に引き続きタケルを質問責めにした。

 質問し終えたヒルコによるとタケルの前世は文明レベルは高いものの、この世界とよく似ているとのこと。

 しかし、根本的な世界構成が違うらしい。 その一つが「気」の存在である。

 タケルは前世での気持、気配、気合の延長線上にある高度なものが「気」であると思っていたが、どうやら違うらしい。


[気は、大きく分けて4つに分類出来るんだよ。

 生物も、そうでないものも、全てのものが持っている「気」

 この世界の空間に存在する「くうノ気」

 この世界の大地に存在する「ノ気」

 神々が住まうところに存在する「てんノ気」

 この「気」をいかにして上手く活用するかがこの世界の全てなんだ。

 人外の者達は自分の気の他に「空ノ気」と「地ノ気」を取り込んだり活用して生きているんだ。

 中には食事や睡眠なしで「気」だけで生きている種族なんかもいるよ。

 人間は訳あって「気」を上手く使えないんだ、使えるような人間は聖人とか仙人とか呼ばれているよ。

 ただ、「天ノ気」は神様にしか使えないらしいけどね。

 僕やアハシマも使ったことはないもの。]


[使ったことないのよ。

 使えないのかもしれないわ。

 それでね、「空ノ気」を司るのがヒルコ、「地ノ気」を司るのがあ・た・し!]

[司るというか、そのものみたいなものだけどね!

 だから、ここに居るけど、ここに居ないんだよ。]

(えっ、えっ、えー!神様なの?)


[違うよ。

 僕とアハシマは神様に数えられていないんだ。

 大昔、まだこの世界にオノゴロ島しかなかった時、タケルと同じように葦の小舟で流されたんだよ。

 神の身体を持たずにというかグニャグニャの身体で生まれて来たのでアハシマと一緒に流されたんだ。

 長い年月をかけてこの世界をとりまく「空ノ気」と「地ノ気」になったんだ。

 ぼくは流されてすぐに「空ノ気」になって行ったんだけど、アハシマは神様である父上と母上が大地を作るまで少しの間待たされたんだよね。]

[そう、待たされたの。

 でもね、兄様は優しく声をかけててくれたの。]

(あ、兄様なんだ、兄妹だったんだ。)


 タケルはすぐに前世での古事記を思い出した。

 よく似ているけれど、どこか違うようだ。

(もしかして、父上はイザナギ、母上はイザナミという名前の神様?)

[そうだよ、タケルの前世でも同じ名前なんだね!

 おもしろーい。]

[おもしろ〜い!]

 タケルはいつのまにか眠っていた。

 

 タケルは午前中はビャクヤから色々な話を聴いて、この世界のことを勉強した。

 午後はロウに従って周辺地域の散策をして、目が見えない自分用に脳内地図を構築し、ロウの狩の仕方などを教えてもらったが、なかなか思うようには捗らなかった。

 ロウの甘噛みの跡が消える日はなかった。

 しかし、歩けるようになると見違えるようにロウから色々なことを吸収していった。


 夜はヒルコとアハシマが訪ねて来てくれたので遊んだ。

 歩けるようになってからは「気」「空ノ気」「地ノ気」を使った色々な遊びをした。

 隠れんぼ、鬼ごっこ、相撲などヒルコとアハシマが知っていた遊びやタケルが教えたオセロ、将棋、サッカーのPKなどで毎晩楽しく遊んだ。

 ヒルコはサッカーのPKが、アハシマはオセロがお気に入りであった。

 3人が遊んだ場所は不思議な空間であり、気の使い方でサッカーボールやオセロのセットなどはすぐにヒルコとアハシマで作ることができた。

 遊んでいる時は気配の感知だけでサッカーもオセロもできた。

 自分の「気」は黄色く、「空ノ気」は青く、「地ノ気」は赤いイメージであった。

 青い気配、赤い気配の中で一際濃い気配がヒルコとアハシマであり、その濃い気配が人間の子供の形をしていたのはヒルコとアハシマの心遣いであった。

 タケルは「気」の使い方、「空ノ気」と「地ノ気」の使い方を遊びながら学んだ。

 それを術式にしておくことで繰り返し使用出来ることも学んだ。

 術式は口語調で簡単であったが、ヒルコによると「気」を使うことで簡単な口語調になっているとのことであった。

 上位者になれば考えたことが、そのまま術として発動することもあるらしい。

(術式は書くものでなく、描くものなのかなぁ?イメージが鮮明な時ほど上手にできる………。)

 タケルは遊びながら妖術の基礎を学んでいた。

 

 タケルがこの世界に転生して3ヶ月が過ぎた夜のことである。

[タケル、毎晩会ってるけど、みるみる大きくなったね。]

[大きくなったね!]

(ビャクヤ様が言われるには人間の15歳ぐらいの身体だって!)

[突然だけど、明日からは、来ないね。]

[寂しいけど、来ないね。]

(………。)

 タケルは何も言わなかった。

 今朝からそんな予感がしていたからである。

[本来の役目に戻らなくっちゃ!少しサボっちゃったからね。

 でもね、僕達は一緒に居ないけど一緒に居るよ。]

[一緒だよ。]

(うん、遊んでくれてありがとう!

 楽しかったよ!)

[いつも一緒だよ………。]

[いつも一緒だよ………。]

 青い空と赤い大地がじゃれ合いながらタケルの意識から薄れて行った。

 タケルは深い眠りについてた。


 いつものように朝がやって来た。

 タケルはいつものように目を覚ました。

(うぁーぁ、いつのまにか寝ていたな。

 ヒルコとアハシマとはもう遊べないのか。 いつも一緒か………。)

 確かに「空ノ気」「地ノ気」は感じられるが、少し寂しい気がした。

(まぁ、いっか!いつも一緒だ!

 それにしても朝の光は眩しいなぁ。

 ………眩しい?)

 それは10年と3ヶ月ぶりに感じる視覚からの感覚であった。

 タケルは、身体が大きくなったので、葦の小舟の右縁と左縁に背中を預けた変な寝方の体勢から一気に飛び起きた。

「目が、目が見える!

 眼球は………眼球もある!」

 タケルの大きな声にビャクヤとロウも目を覚ました。

「タケル、騒がしいぞ。何事ぞ。」

「タケル、朝からうるさい!」

「ビャクヤ様、ロウ様!め、め、目が見えるんです。」


 ふたりはタケルに近づいた。タケルにとって視覚からの感覚でふたりを見るのは初めてであった。

(感じていた通りだ。

 でも見えると迫力が違うな。

 ビャクヤ様、デカい!ロウ様、可愛い!)

「ほんに、眼球があるのう!」

 ビャクヤはしばらくタケルの目を見つめていたが、黒い瞳孔の奥に別の色を感じ考えていた。

 タケルの目は虹彩は茶色、瞳孔は黒と鬼族や人間に多く存在する目であった。

 しかし、右瞳孔の奥に青、左瞳孔の奥に赤の色を感じたのだ。

「タケルよ、ヒルコ様とアハシマ様に会ったのか?」

 タケルは毎晩ヒルコとアハシマと遊んでいたことを話した。ふたりに話していなかったのはヒルコとアハシマにナイショにしてと言われていたということも付け加えた。

「めでたいのう!

 タケルよ、ぬしはヒルコ様とアハシマ様の御加護を賜ったのじゃ!」

 鬼族は一般的に美男美女が多い、眼球があることでタケルの顔付きもかなり印象が変わった、かなりの美少年であった。

(あのお方と同じく御加護を賜ったか………。

 あのお方にも匹敵する者、いや、それ以上の者になるやもしれない。

 ロウの良き相棒になるであろう。

 これは「契り」についても考えねばならんのう。

 まぁ、タケルの意志次第じゃが………。)

 ビャクヤはタケル越しにヤマト タケルを思い出してか、また遠い目をしていた。

「タケル、良かったね!」

 初めて聞くロウの優しい言葉にタケルは戸惑ったが、甘噛みされたくない身体が勝手に反応して元気な返事をしていた。

「はい!」

 

 

 タケルの脳内メモ 日ノ国 歴史編

 

45億年前〜20億年前

 5柱の別天津神ことあまつかみ 降臨

  空白の時代と呼ばれており詳細は不明

  伝説では高い文明が栄え滅んだとも言われている。「そぐわぬ物」と呼ばれるオーパーツが発掘されたこともあるとかないとか。

  この時代末期は空も海も大地も無く混沌としていたと伝承されている。

  

20億年前〜1億年前

 2柱の独神ひとりがみと5組10柱の男神、女神降臨

  神世七代と呼ばれており天地開闢てんちかいびゃくの時代であった

  最後に降臨したイザナギとイザナミにより、世界創造の仕上げが行われたと伝承されている。

  ↑

  ヒルコとアハシマが流されたのもこの頃

  (えっ、1億歳以上だったの??)


1億年前〜1500年前

 発展の時代

  天上界では三貴神が誕生

   太陽神アマテラスが天上界を治めることに。

   月神ツクヨミが夜を統べることに。

   自由神スサノヲは様々な伝承があり何をされているのか不明

  あらゆる生き物、自然等が進化発展したと伝承されている。

  人間は次第に国を形成、国同士で覇権争いも始まる。


1500年前〜950年前

 日ノ国誕生

  小さな国々がやがて収束されて5つの国となる。

  地上界の争いを収めるべくアマテラスが自分の孫にあたるニニギを地上界へ

  ニニギの子孫であるジンムの時代にヤマト タケル、ビャクヤ等の活躍により5つの国を統一、君主をジンムとし連邦制をとり、日ノ国誕生

  ↑ビャクヤ様スゴッ!でも1000歳?


950年前〜現在

 ジンムが天子に即位し天紀元年となる。

 人間の国は平和になったが、荒ぶる人外の者が厄介だったらしい。スサノヲの庇護のもとヤマト タケル、ビャクヤ等が尽力し人外の地にて平和に暮らすようになった。

 

天紀950年

 俺、誕生!

  ↑今、ココ!


神様は沢山いるらしい。

前世の古事記に似ているが、全然違う箇所もあり、別の世界と考えた方が賢明である。

 

                 タケル

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ