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まほろばの守護者  作者: おずなす
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第18話 再戦

 ロウは、アモンの姿を確認出来る距離に近づいた時、前に誰かが立ち塞がっているのを視認した。

「ツキヨちゃんだっ!」

 ロウの後ろを付いて来たシュレイが少し驚きながら叫んだ。

「犬狼族のツキヨ殿か。

 あの娘は強い。

 少し様子を見るかのう。

 スサ老師、それでよろしいかな?」

「はい。

 あの娘も胸が小さいのう。」

「何言ってんだ、オロチ様の所でツキヨちゃんに燃やされかけていたくせに!

 女は胸の大きさじゃねぇんだよ!」

「ほっほっほっ、胸の小さな者同士、気が通うようじゃのう。」

「何っ、この助平爺ィが!

 やるか?アモンの前に片付けてやるぞ!」

 長の娘モードのことはすっかり忘れ、開き直っているシュレイとスサ老師の掛け合いを他所に、ロウはツキヨを静かに見守っていた。

 

「タケルに怪我させた。」

 いつもと変わらないツキヨのボソッとした呟きであった。

 念が込められていた性もあって、意外にもアモンには聞こえ、聞き慣れぬ言葉であったが理解されたようである。

「あの神器を破壊した者か。

 怪我?死んでいるだろう。

 我を崇めぬ者、弱き者は死ね。」

 アモンの発する言葉にはやはり念が込められておりツキヨの知らない言語であったが理解できた。

「お前こそ、燃えてしまえ。

 蒼き業火!」

 ツキヨは術の名を唱えると両手を天に向け掲げ、頭の上で手の平を合わせると、そのままアモンに向けて振り下ろした。

 ツキヨの動きに連動するようにアモンの全身が蒼い炎に包まれた。

 結界のような防御壁は先程シュレイに粉砕されておりアモンの身体に直接、炎が纏わり付いていた。

 アモンは余裕の表情でいたが、微細な変化に気付きツキヨに問いかけた。

「貴様っ、我のヘイローを燃やしているのか?」

「お前の邪悪な「天ノ気」よく燃える。」

 どうやらツキヨの妖術は相手の「気」を燃料に燃えているようであった。

 アモンの表情に初めて翳りが現れたが、ほんの一瞬であった。

「このようなもの、なんともないわっ!」

 アモンはヘイローすなわち「天ノ気」を練り一気に解放し、ツキヨの炎に過剰な「気」を流し込んだ。かなりの量の「天ノ気」を解放し、辺り一帯の空気が振動する程であった。

 蒼き炎は消えていた。

「貴様も死ね!」

 アモンは拳をツキヨの腹部に狙いを定め撃ち放った。

 それを上回る速度でツキヨは自分の前に防御結界を展開したが、アモンの拳による衝撃で結界には亀裂が走り、砕け散ってしまった。

 アモンの拳が腹部に到達すると思い、ツキヨは死を覚悟し目を閉じタケルの顔を思い出していた。

 しかし、ツキヨの腹部に拳の衝撃は届かなかった。

(ツキヨ殿、タケルの怪我の心配ありがとう。

 後は我に任せてシュレイ達と共に後方支援を頼む。)

 ロウの念話にツキヨが目を開けると、腹部に到達する寸前でアモンの拳は止まっていた。

 ロウの鋭い牙が拳を放った右手首をしっかりと咥え、更に喰い込むところであった。

 ツキヨは頷きシュレイ達の居る位置まで下がった。

「ツキヨちゃん、大丈夫か?」

 シュレイの問いかけにツキヨは大きく頷き微笑んだ。

「よっしゃー、ロウ様の援護だっ!」

 シュレイの掛け声にツキヨは身構えたが、どう援護するのかと迷った。

 すると、

「シュレイ、鬼族の束縛妖術!

 ツキヨ、先程の炎の妖術!

 それぞれアモンのみにかけよ!」

 いつもの助平爺ィとは違うスサ老師の真剣な号令にふたりは素直に従った。

「鬼縛り!」

「蒼き業火!」


 アモンは3つの神器を発見して以来、感じることが無かった痛みを感じ困惑していた。

 身体は何故か身動きひとつ出来ず、また蒼い炎に纏わり付かれ、犬の化物みたいな人外の者に噛み付かれた右手首からは血液がダラダラと流れている。

(なんだ?どうしたことか?

 唯一神である我に………。

 この者達は何者か?)

「貴様っ、何者ぞっ!」

 アモンの念の込められた言葉にロウは咥えた口は動かさず念話で答えた。

(我は、日ノ国 聖獣犬神ロウ!)

(日ノ国、日ノ国、日ノ国っ!

 何故だ、何故だ。)

 アモンの人間であった時の記憶は先程タケルと揉み合った前後において体内に溜め込んだ「天ノ気」に浸食された時に失ったが、神器を発見し唯一神を名乗った頃からは、日ノ国と人外の者が気になって仕方が無かった。

 浸食して来た「天ノ気」がそうさせるのだろう。

 ある種の恐怖さえ感じ、大陸の征服して来た他の国々では直接行わなかった攻略工作を日ノ国に対しては直接自らが行ったほどであった。

(我に痛みを感じさせているのは、日ノ国の人外の者。

 日ノ国、日ノ国………。

 人外………。)

 

 この瞬間、邪悪な「天ノ気」はアモンに全てを見せた。

 

 しかし、次の瞬間、殺戮衝動でアモンの全てを覆い尽くした。


 アモンは過剰な「天ノ気」をシュレイとツキヨの妖術に流し込み、術を解除した。

 すぐさま強烈な蹴りをロウの腹へ叩き込んだ。

 ロウはシュレイ達の位置まで飛ばされたが、空中で上手く体勢を整えて着地した。

「ロウ様っ!」

 シュレイ、ツキヨが駆け寄るとロウの口にはアモンの右手首から先が咥えられたままであった。

 ロウは不味い物でも吐き出すようにアモンの右手を地面へ落とした。

「まだまだ、次は首を噛み切ってやろう。」

 ロウはそう言ったものの、立っているのがやっとであった。

 アモンの蹴りが、内臓をいくつも砕いているのを自覚していた。

「ツキヨは治癒妖術、

 シュレイは防御結界!」

「はいっ。」

 スサ老師の的確な号令にふたりは自然と身体が動いていた。

 ツキヨは気丈にも何食わぬ顔をして四肢を踏ん張り立っているロウの腹部に治癒妖術をかけ始めた。

「少し時間、かかる。」

「心得た。アタイに任せておきなっ!

 鬼障壁きしょうへき 紅鬼姫こうきひ!」

 ロウを中心としたスサ老師、ツキヨ、そしてシュレイを覆うように半透明な紅い膜が形成された。

 アモンは手首から先が無くなり血が噴き出している右手のことは気にもせず、左拳に「気」を込めロウ目掛けて振り下ろした。

 すると紅い膜の一部がひとりの鬼の形を作りアモンの左拳を右腕で払い退けた。

「紅鬼姫は強いぜ!防御だけだが、アタイよりも強いかもっ!」

 シュレイは膜の内側で両手の平を開き、常にアモンへ手の平を向けている。

 いつの間にかアモンの右手は再生して何事もなかったように、そこに存在していた。

 魂までも殺戮衝動に浸食されたアモンは思考が出来なくなり、殺すことだけに身体が突き動かされ、高速で拳や蹴りを繰り出していた。

 鬼障壁 紅鬼姫は紅い膜と繋がりながら全てのアモンの攻撃を払い退けていた。

(鬼族の妖術凄い!)

 ツキヨは治癒妖術を施しながら、段々と自分の眼でさえ追えなくなるような速さの闘術攻防戦に魅入っていた。

 アモンは攻撃の速さを増し、1発の蹴りが紅鬼姫に入ると紅鬼姫ごと抱きつくように紅い膜にへばり付いた。

 

 スサノヲは分身スサ老師を通して過去に経験したことのある「気」の変化を感じ、スサ老師に叫ばせた。

「天逆毎の最後と似た「気」の流れじゃ!

 皆、己の最大防御をとれっ!」

 ロウ、シュレイ、ツキヨに緊張が走った。

 ロウにはビャクヤから引き継いだ知がある、天逆毎が最後に放った極大妖術の知識が頭に広がり、完全には治癒していない内臓に再び痛みを感じさせた。

 シュレイ、ツキヨには里で言伝えで聞いた程度の話であったが、スサ老師の唯ならぬ号令に素直に従った。

 へばり付いたアモンの結界への浸食は徐々に始まっていた。

「アタイの最大防御は鬼障壁 紅鬼姫だっ!

 やられてたまるかっ!」

 シュレイは変わらず紅鬼姫へと「気」を注ぎ込んだ。しかし、紅鬼姫はアモンの圧力で障壁である紅い膜に押さえ込まれ、鬼の形を保持出来なくなっていた。


 ロウ、ツキヨが己の持つ最大の防御妖術で身を守ろうとした時、アモンをも越える「気」の気配が忽然と現れた。

 その「気」の主は片手でアモンの首根っこを掴んで結界から引き剥がし、そのまま地面へ叩きつけた。

 アモンは自分自身を大きく上回る力になされるままに頭から地中へ埋もれた。

 その者は額から赤い光と青い光が螺旋状にボンヤリと輝く1本の角を生やし、右の瞳は青く左の瞳は赤く炎のような光に包まれ、背中からはオロチのそれと同じ飛竜を思わせる黒翼を広げ、ラメガと同じゴツゴツとした鱗に覆われた尻尾を生やしていた。

 その姿にすぐさま反応したのはツキヨであった。

「タケル来た。」ボソッと呟く、

「タケル怪我は良いのか?」ロウが問いかける、

「タケルっー、やっぱり無事だったんだな!」シュレイが叫んだ。

 スサ老師は無言のままであったが、

(あの姿は………。)思い当たる所があるようであった。

「タケルっー、始祖コクテン様の言伝えと同じ姿だな!生まれ変わりか?」

 無事なタケルの姿を見てシュレイは上機嫌であった。

「老師様、姉上、姉御、ツキヨちゃん、ご心配をおかけしました。

 そのまま防御結界の中に居てください。

 アモンの相手は俺がします。」

 そう言いながらタケルはシュレイの言ったことが少し気になった。

(始祖様と同じなのか。じゃあ鬼族でいいんだ。

 よかった。

 まるっきり前世での悪魔のイメージだから少し心配したけど………。

 先ずはアモンだっ!)


(アモンの中の「天ノ気」量、急上昇!

 このままでは、間も無く周りの「空ノ気」「地ノ気」を吸収し、爆発しますワン。

 被害範囲は日ノ国人外の地と同等の広大な大きさになりますワン。

 妖術 虚空を使用しますかワン?)

(使おう。)

 タケルは、シロの警告と助言に作成したての妖術の術式名を唱えながら、上半身が地中に埋もれて脚をバタつかせているアモンの胸部へ右手刀を突き刺した。

「虚空っ!」

 膨大なエネルギーがタケルの右手刀から吸い取られ右肘辺りから何処かへ消えて行く。

 鬼障壁内のスサ老師の目を通して様子を見ていたスサノヲは思わず呟いた。

「うーむ、虚空の活用まで出来るようになったか………。

 これは暫く傍に置いて鍛えるとするか。

 それにしてもあの姿は………。」

 スサノヲの呟きは、スサ老師の口を通して意図せず漏れ出てしまった。

 シュレイ、ツキヨはタケルの妖術に魅入っており気付く様子はなかったが、ロウは聞こえぬふりをしていた。

 アモンは、その生体としての機能を停止した。

 タケルは、動かなくなったアモンから手刀を抜き、埋もれてた身体を地中から引き抜き、抱きかかえるようにして丁寧に平らな地面に降ろした。

 邪悪な「天ノ気」が全て虚空へ送られ、アモンの顔は穏やかに見えた。

「本当は良き聖人だったのに………。

 邪悪な「天ノ気」に支配されて………。」

 タケルはアモンの乱れていた服装を正し、黙祷した。

 シュレイは鬼障壁を解き、ロウ、ツキヨと共にタケルに駆け寄って来た。

 脅威が無くなりタケルは「気」の解放をやめ、角も黒翼も尻尾も無く、両眼の光も消え、元の姿に戻っていた。

「タケル、本陣へ戻ろう。」

 ロウは言いながらタケルの頬をペロッと舐めた。

「お疲れ様。」

(こんなパターンもありだな………。)

 タケルはロウに労われ嬉しかった。

(シロもお疲れ様!)

(はいっ!ワン!)

「タケル、翼と尻尾が出てたところ破れてる。」

 ツキヨのボソッとした呟きに、タケルは思わず自分の直垂や括袴を触ると見事に破れており、背中や尻が丸見えであった。

「まぁ、いっか!」

 タケルはそのまま行こうとしたが、ツキヨに括袴の腰のあたりを掴まれた。

「修復妖術、上手くないけど、繕ってあげる。」

 ツキヨのボソッとした呟きにタケルは微笑み素直に従った。

 コドウへ念話で詳細を伝えるスサ老師が先頭となり、タケルに纏わり付くようにロウ、シュレイ、ツキヨの会話が弾む中、ゆっくりと賀王国城へ一行は戻って行った。


 遠くで影に潜み様子を見ていたカゲトモは父カゲフサへ念話報告をし、次の指令を待った。

(遊撃隊の皆様が任務を果たされた今、次は私の番!

 命を救っていただいた分、頑張らなくっちゃ!) 

 カゲフサは念話報告を受け、大陸全土の聖アモン帝国が征服して来た国々に潜ませた魅一族の者に念話指令を与えた。

(各国の征服統治者である第3司教から第10司教までに聖アモン帝国正規魔法師を装い聖帝の崩御を報告。その後、それぞれの国の民達へ流布。

 聖アモン帝国本国の第2司教は暗殺。その後聖アモン帝国民へ流布。

 賀王国に迫っていた帝国軍参謀長へは第1司教ルーゼを装い崩御を報告、全軍撤退命令を出させる。同時に10万の帝国軍へ流布。)

 指令を与え終えるとカゲフサは一息付き次の行動に移りながら考えていた。

(タケル殿、流石ですな。

 先ずは天子様へ御報告じゃ。)

 タケルへの自分の見立てが間違いなかったことに満足し、持てる術の最大速度で天子オウジンの元へと急いだ。


 賀王国城は歓喜に包まれていた。

 浩宇ハオユーはコドウ、オウラン、参謀達と肩を叩き合い久しぶりに笑った。そして、直ぐに気を引き締めて次の指示を出した。

「帝国軍はまだ10万の勢力を保っている。

 それに備えよう。

 城の守りを固め、偵察を出す。

 国王陛下のお目醒めを待つ。」

 忙しさを取り戻した参謀達を他所にハッカクは謁見室から出て城壁門前の広場に向かった。

 コドウからの一斉念話で聖帝の死は告げられており、広場で待機している兵士達の顔にも賀王国の平和が取り戻されつつあることが感じられる安堵の表情が浮かんでいた。

 突然、城壁門あたりの兵士達から歓声が上がった。

「帰って来たな!」

 帰還したタケル達の姿に兵士達が喜びの声を上げたところであった。

 ハッカクも声を上げながらタケル達に駆け寄った。

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