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まほろばの守護者  作者: おずなす
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第17話 結界

 オボシが見たのは驚異的な大きさの「気」の塊、ゆっくりと浮遊して近づいて来るアモンの姿であった。

 青い空にぽつんと浮かび、ゆっくりと近づいて来る、その進向速度と膨大な力のアンバランスがオボシに恐怖を覚えさせた。

 それは間も無く、深い森の上空を抜けて城の東に広がる広大な平野上空に差し掛かるところであった。

(戦えるのか?

 余りにも強大な「気」!

 ………。

 やるしかないな!)

 オボシの心に天狗族の里の情景が浮かんだ、それは飛行術を覚えたての子供達が里の空を楽しそうに飛ぶ姿であった。

 そして何故か、先程の返り血ひとつ浴びていない美しいシュレイの姿を思い出した。

「かかれっー。」

 聖獣麒麟オウランの命令が下り、偵察攻撃部隊の第1陣が各々の妖術にて攻撃を開始した。

「オボシ殿、時を稼いで欲しい。

 この妖術の発動には少し時間がかかる。

 致命傷は与えられずとも地上へ叩きつけることぐらいはできる。

 地上にはコドウ殿の援軍もおる!」

 オウランはオボシに話しかけると瞑想に入った。

 オボシは大きく頷いてアモンへと向かって行った。



 シロは思考速度を最大にしてアモンへの対処を模索しつつ、タケルの自己再生の監視を実施している。

 タケルの「気」の解放によりシロの思考速度も自己再生速度も右肩上がりに上昇していた。

(アモンも「天ノ気」がなければ、ただの聖人でたいしたことないのにね。)

 タケルの呟きがシロに閃きを与えた。

(ヒルコ様とアハシマ様の知で得た情報ですが、虚空こくうというこの世界に隣接する亜空間がありますワン。

「虚空の中では、

 全てのものは、

 永遠に存在し、

 何にも妨げられず、

 何することも出来ず、

 時は流れず、

 一切を包括し擁する。」

 という無限の広さを持つ亜空間ですワン。

 過去にヒルコ様が天界から漏れ出た「天ノ気」を虚空に送り地上界への悪影響を防いだことがありますワン。

 そこでシロは思いつきましたワン………。)

 まだまだシロの話は続いていたが、タケルは自己再生が完了し、「気」の解放が終わった自分の姿を見て驚愕した。

(!!。

 俺って本当に鬼族なのかなぁ??。

 一応、隠れ1本角は出現したけど………。

 ………。

 まぁ、いっか!)



 偵察攻撃部隊の第1陣が、虫のようにアモンに群がっている、各々が持てる「気」の最大の力で攻撃していた。

 妖術による攻撃、闘術による物理攻撃のどちらもアモンには届いていない。

 アモンは反撃する気配も無く、ゆっくりと浮遊し進んでいる。

 アモンに近づくにつれて「気」の密度が高くなり球状結界のようなものを形成し、「天ノ気」が混ざっているためか強度の非常に高い防御壁になっていた。

(叩き落すって言われていたな………。

 アモンの上空から攻撃されるおつもりか!)

 オボシは声を荒げて叫んだ。

「上部に攻撃を集中するんだぁっ!」

 念を込めた叫び声に第1陣の者達も反応し、アモンの上部へと攻撃を集中した。

 少しづつではあるが「気」の防御壁は削られ、間も無くアモンに直接攻撃が当たる寸前、アモンがまるで虫を追い払うように右手を動かした。

 今まで球状であった防御壁の一部は右手に連動する手の形になり、第1陣の半分を虫のように叩き落とした。

 地上に叩き落とされた者達に駆け寄り救護に当たる地上部隊、その様子を見ながらオボシ達は攻撃を続けた。

 その時、

(準備は整った。

 アモン周辺より離れろ!地上部隊もさがれっ!)

 聖獣麒麟オウランの一斉念話が響く。

 アモンは何事も無かったように防御壁を元の球状へと戻し、ゆっくりと浮遊し、賀王国城へと進んでいる。

 アモンの上空に巨大な赤い光の輪が広がり輪の内側が赤い光で埋め尽くされた。

 そのさらに上空に出現した青い光の輪の内側が青い光で埋め尽くされ、ふたつの輪がゆっくりと重なり、黄色い炎に包まれた巨大な槍に変形した。

 オボシ達も地上部隊も周辺から退避しているのをオウランは確認し、叫んだ。

「黄炎槍!」

 巨大で黄色い炎を纏った槍はアモンの上空から防御壁上部に直撃、衝撃で辺りの空気は震え目の眩むような白色閃光を放ち、アモンを地上へ叩き落とした。

 落ちた平野では大地が震え、巨大な凹地が出現し土煙りが濃く立ち昇り、辺りはまるで夜のようになっていた。

「土煙りを排除!方向、森の方角!

 その後、オボシ殿以外は城の結界内に移動せよ!」

 一斉念話を伴ったオウランの号令が下った。

 まだ飛行出来ている者は、号令に従い風の妖術で土煙りを森の方向へ排除し、オウランとオボシを残して城上空へと移動を開始した。

「どうだ?やったのか?」

 土煙りの排除を待ちながらハッカクは凹地の中心を目を凝らして見つめていた。

 周りのコドウをはじめとする人外地上部隊の者達も同じように見つめていた。

 コドウ達も変化を解く者は解き、「気」を解放させており、周りの空気は凍てつくような殺気で溢れていた。

「気」の膨大な塊の気配を感じたコドウは一斉念話で号令した。

「我とハッカク以外は城の結界内まで退避!」

 聖獣か、それに近い者以外は足手纏いになるだけ、部下達の命を無駄には出来ないと本能で感じ取ったコドウの判断であった。

 地上部隊の殆どの者達は歯軋りをしながら、

「御武運を!」「コドウ様………。」などと叫びながら迅速な撤退を開始したが、皆が本能で太刀打ち出来る「気」の塊では無いことを感じていた。

 土煙りが森の方へと飛ばされ、ようやく視界が戻って来ると、やはりアモンは何事も無かったように、ゆっくりと歩いて凹地を登っていた。

 その時、退避する部隊の後方から凄まじい速度で駆け抜けて来る者がおり、そのまま、凹地の淵からコドウとハッカクの頭の上を飛び越えてアモン目掛けて降りていった。

「アタイの弟に怪我させたのは貴様かっ!」

 頭上を飛び越されたコドウとハッカクはお互いに顔を見合わせ苦笑いした。

「あの方は、ああなのですか?」

「………。

 シュレイ殿はああなのだ。

 我らも続くぞ!」

「はいっ!」

 シュレイは金砕棒に己の持てる「気」の有りったけを載せて振り下ろした。

 アモンの防御壁に当たり黄色い衝撃光を放ち、徐々に浸食し、防御壁を破壊し、アモンの左肩に直撃した。

 手応えに違和感を感じたシュレイは後方へ飛び、アモンと距離を取った。

 そこへ駆け付けるコドウとハッカク、上空からはオウランとオボシが降りて来てシュレイに並んだ。

「うっひゃー、シュレイ殿、凄まじいですね。」

 ハッカクの興奮気味の声にシュレイは静かに答えた。

「いや、全然効いてねぇ!

 身体自体もかなり強化されているな。

 人間の身体の硬さじゃない。」

 シュレイの言葉通り、アモンは相変わらず何事も無かったように、ゆっくりと歩んでいた。

「我ら5名で一斉に!

 我は喉元、ハッカクは胸、シュレイ殿は頭、オウラン殿は腹、オボシ殿は足を願います。

 かかれっ!」

 コドウの号令でアモンを囲むように散開し、それぞれの標的へと各々が攻撃を加えた。

 コドウは白虎の鋭い牙で喉元に喰らいつき、ハッカクは新たに補充した剣で胸に突きを、シュレイは金砕棒に再度ありったけの「気」を込めて頭部を、オウランは麒麟の角で腹部を、オボシは得意の「気」を吸収する拳で太腿を各々の全力で攻撃した。

 5名の人外の者がまとわりつくような状況にも関わらずアモンのゆっくりとした歩調は乱れず、城へ向け進んでいた。

「わずわらしい。」

 アモンは一言呟くと、まるで犬のようにブルブルと身体を震わせた。

 5名の人外の者は四方八方へと飛ばされた。

「コドウ様、まるで効いてないですね。」

 すぐさま、ハッカクはコドウの横に移動し呟いた。

 飛ばされた他の者達もアモンの正面に位置するコドウの側に駆け寄って来た。

 アモンは両腕を空に向け眼を閉じ「天ノ気」が混ざっている己の「気」を収束させるために練り始めた。

「これはまずい!極大魔法とやらが来る!」

 コドウは側に居たハッカクとシュレイの腕を掴み、叫びながら転移妖術を使用した。

「オウラン殿っ、城の結界まで退却じゃっ!」

「心得た!」

 オウランもオボシの肩を掴み転移した。

「貴様等っ、わずわらしい。城に籠る者達と共に死ね!

 青き空、赤き大地、我唯一神アモンの加護を受けるに値しない者達に紅の死を。

 血飛沫(ブラッドスプラッシュ)!」

 アモンが短い詠唱を唱え終えると辺り一帯の空間が青く、大地が赤く光り始め、アモンの身体から黄金の光りが放たれ、ゆっくりと周りの青い光と赤い光を取り込みながら城の上空へと向かって行った。

 

 浩宇ハオユーは突然現れたコドウ達に少し驚いた様子であったが、すぐに落ち着いてコドウの報告を待った。

浩宇ハオユー様、極大魔法とやらが来るっ!」

 浩宇ハオユーは少し顔を歪めたが、この賀王国城の謁見室にいる参謀達の中からゲコチェイを見つけ、ゲコチェイの言葉を待った。

「任せて下さい。結界は正常に働いております。」

「うむ、外の様子を見よう。」

 浩宇ハオユーは謁見室に繋がる広めの高欄付き廻縁に出て外の様子を伺った。転移して来たコドウ達、ロウとスサ老師を含む参謀達もそれに習い外へ出て空を見上げた。

 黄金の光の束が、空から青い光の粒子を、大地から赤い光の粒子を巻き上げながら城の上空で白色に光り輝き、城を覆うように拡散し雨のように光の粒を降り注ぎ始めた。

 

 ヤスナは結界を司る要の術者の後方に控えていたが、降り注ぐ光の粒を見ながら叫んだ。

「さぁーて、来るよ!

 心静かに、集中しなっ!」

 結界は城と兵士達が待機する城内広場、城前広場を覆うように半球型に施されているようであるが、「空ノ気」「地ノ気」を枯渇させぬ工夫が成されており、地下部分にも広がり完全な球型を形成していた。

 ヤスナは高速で移動出来る妖術を発動し要の術者を含め8名の術者の位置に順番に移動し、声を掛け激励した。

 ヤスナが要の術者の位置に戻って来る寸前に降り注ぐ白色の光の粒と結界との接触が始まった。

 白色の光の粒は結界に触れると弾かれ、黄金の光、青い光、赤い光に分裂し消えて行った。それが城等を守る広大な結界上で起きていた。

 降り注ぐ数多くの白色の光の粒が、弾けて消えて行く様は、アモンの極大魔法と結界との衝突ということを考えなければ幻想的で美しい光景であった。

 それは数十秒の間続いた。


「どうやら、結界は無事に働いてくれたようだな。

 どうだ、「気」の消耗具合は?」

「かなり消耗しました。私で消耗は半分くらいかと。」

「そうか、あと1回防ぐのがやっとくらいか………。

 とりあえず、お疲れさん。そのまま結界の維持を頼んだよ。」

 ヤスナは要の位置にいる術者に声をかけ、他の術者の様子を見て回った。

「やはり、あと1回防ぐのがやっとだな。」

 ヤスナは結界担当術者達を全て確認し、そのままゲコチェイの元へと高速移動した。

「おお、ヤスナ殿!

 結界は完璧でしたね。」

 廻縁に出て外の様子を伺っていたゲコチェイは高速移動妖術で現れたヤスナに笑顔で近寄ったが、ヤスナの真剣な表情を読み取り、すぐに真顔になりヤスナの言葉を待った。

「ゲコチェイさん、あと1回防ぐのがやっとだ。

 3回目が来たら防げないぞ。」

 その言葉を聞いて、その場にいた参謀達は口々に意見を述べ始めた。

 浩宇ハオユーは眼を閉じ聞いていたが、しばらくして眼を開きコドウを見つめた。

浩宇ハオユー様、我等5名同時の全力攻撃でも傷ひとつ付けられませんでした。

 撤退もお考えに含め御検討を!

 この聖獣白虎コドウと聖獣麒麟オウラン殿で足止めはいたします。」

 浩宇ハオユーはコドウの命がけの決意を感じ取った。もう一度眼を閉じ、決意を固めたのか眼を見開き言葉を発しようとした、その時、犬神の姿に戻っているロウが口を開いた。

「我が出よう!」

「ロウ殿、我等でも全く歯がたたない相手、客人でもある貴方に………。」

 オウランが直ぐ様、反論をしようとしたが、コドウが割って入った。

「オウラン殿、気付いておられると思うが、同じ聖獣でもロウ殿の力は数段上、ここはお願いしよう!」

 浩宇ハオユーは決意を心の奥に仕舞い込み、ロウを見つめた。

「ロウ殿、お願いする。

 あと一歩、あと少しで元の平和な賀王国を取り戻せるのだ!

 頼む!」

 浩宇ハオユーは深々と頭を下げた。周りの参謀達もそれに習った。

浩宇ハオユー様、頭をお上げください。

 賀王国の平和がなされなければ、次の標的は日ノ国。

 我等はそれを防ぐために来たのですから。

 スサ老師、後方支援を頼みます。」

「心得た。」

 ロウは廻縁を飛び降り地上に降りると城壁門から外へと物凄い速さで駆け抜けていった。

「胸の小さな鬼族の娘、一緒に来なさい。

 鬼族の妖術、役に立てる時です。」

 シュレイはいつものエロ爺ィの発言に長の娘モードに入ることも忘れていた。

「だからっ、アタイはサラシ巻いてるんだって!

 脱いだら凄いんだぞっ!」

 スサ老師とシュレイは言い合いながらロウの跡を同じように物凄い速さで追った。

「御武運を!」

 オボシは相変わらず美しいシュレイの後ろ姿に、珍しく大きな声で叫んでいた。

 ハッカクはツキヨの姿を見かけていないことが少し気になったが、ロウ達の武運を、賀王国の平和を、祈念しながら小さくなるシュレイとスサ老師の姿を見送っていた。

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