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まほろばの守護者  作者: おずなす
13/19

第13話 白虎

 水面に映る森の木々、空の雲、その鮮やかさが風の無さを感じさせていた。

 カゲトモと遊撃隊の一行は無事に転移を済ませて湖のほとりに到着した。


「ここからは徒歩になります。

 すぐに反国王派の長 浩宇ハオユー様のおられる最前線の天幕に着きます。

 この辺りは制圧済みではありますが、警戒するに越したことはありません。

 私が先導しますので、続いて下さい。」

 カゲトモの言葉通り、しばらくして丘をひとつ挟んで数多くの天幕、旗印などが微かに見えて来た。

 その更に奥には人間や人外の者の多数の気配が感じられて、まだ視界には入らないが大きな部隊が展開しているのが分かった。


(シロ、手前の丘の中腹辺りの解析結果を教えて。)

 タケルは何らかの気配を感じ、シロからの報告を待った。

(タケル様の見立て通り人外の者が2人、並んでいる岩の影の中に潜んでおりますワン。

 殺意は無いようですが、攻撃する気満々ですワン。

 一応、味方のようですワン。)

 このシロとの会話は瞬時に行われ、タケルは少し歩む速度を速め、先導するカゲトモに並んだ。

「カゲトモ殿、この辺りは良い気候ですね。

 夏なので日差しは強いがカラッとしていて気持ちが良いです。

 無風だった風も少し出てきて爽やかですね。」

 タケルは少し大きめの声でカゲトモに話しかけた。

「そうですね!」

 カゲトモはタケルの方を向いて微笑んだが、そこには誰もいなかった。

 タケルはひとつめの岩の影から獣人系の人外の者を引きずり出し、死なない程度に腹に1発拳を叩き込み、もうひとつの岩の影に移動し同じ様に引きずり出した。

 ふたりめは、変化した姿であろう人間の姿をしていた。

 タケルは本質を見抜いて聖獣白虎コドウであろうと判断して拳を叩き込むのは止めて背後に回り、いつでも首を折れるように手の平で顎を抑えつつ腕を絡めて相手の反応を待った。


 タケルがカゲトモに声をかけてから一瞬の出来事であった。

 カゲトモや遊撃隊一行には、突然、前方の岩影から倒れた人外の者、タケルに自由を奪われた人間が現れた様に見えた。

 しかし、ツキヨだけは動きを追えていた。

「これは、申し訳ない!

 日ノ国の援軍の実力を試そうとしただけだ。

 悪意は無い!完敗じゃ!」

 人間の形に変化したコドウは大きな声で聞いたことのない言語を発したが、念が込められているのだろう意味は伝わった。

「君がロウ殿か?」

「いえ、コドウ様、私は聖獣犬神ロウが弟、鬼族長が子、タケルと申します。」

 タケルはコドウの首に絡めた腕を外し、向き合って名を名乗った。

 言葉には念を込めるのも忘れなかった。

(この小僧、これ程の力がありながら聖獣の弟だと?

 何で鬼族長の子供が聖獣の弟なんだ?

 鬼のくせに角も無い。

 ところで俺、名乗ったっけ?)

 皆が近くまで来た、ツキヨは倒れた人外の者に治癒をほどこしていた。

 カゲトモは慌てた様子でコドウの正面に立った。

「コドウ様、お戯れが過ぎますよ!」

「カゲトモ殿、すまなかった!

 許しておくれ!」

 タケルはコドウが平謝りでカゲトモに頭を下げている様子を見て自然と微笑んだ。

(懐の深い、良い方みたいだな!)

 ロウがコドウの前に歩み出てニコリと笑い一礼をした。

「日ノ国天子オウジン様の命により馳せ参じました、この者達の隊の長を務めますロウと申します。

 コドウ殿、よろしくお頼み申し上げます。」

「コドウです。

 こちらこそ、援軍かたじけない。

 先程の無礼、お許し願いたい。

 すまなかった。」

「援軍の実力を確かめるためのこと。

 私が同じ立場であれば同じことをしたでしょう。」

「おうっ、お許しくださるか!

 ありがたい。

 さぁ、本陣まで御案内します。」

 ロウとコドウは話しながら天幕や旗が立っている方へ歩き始めた。

 一行も後に続いた。

「ところで、弟のタケル殿の実力は計り知れないほどのものですな。

 感服致しました。」

「タケルは生い立ちが変わっております。

 ゆっくりと話す機会があれば、お話し致しましょう。

 きっと、コドウ殿のお力になれると思います。

 姉思いの良い子です。」

 ふたりの話題は、これからの戦略、戦術へと移っていった。

 一行の最後尾辺りをゆっくりと歩いていたタケルにツキヨが歩み寄った。

「また、速くなった。

 あれ以上は目で追えない。………。

 タケルが殴った者、治しておいた。」

(あれが見えたんだ。

 やっぱり、ツキヨちゃんは凄いなぁ。)

「ツキヨちゃん、治癒妖術してくれたんだ。

 ありがとうね。」

 すると、頭に水牛のような二本の角、牛の様な耳、手足は黒い毛で覆われ鋭い爪を持ち、紺色の胡服を着た獣人系の人外の者が声をかけてきた。

「俺、牛鬼のハッカクってんだ。

 コドウ様の自称相棒だ。

 さっきは潜んでいて、すまなかった。

 と言ってもヤラレちゃったけどな。

 ハハハハッー。」

 妙に明るい輩であった。

「こちらこそ、拳を入れてしまい、申し訳なかった。

 鬼族長が子、タケルと言います。

 よろしくお願いします。」

「犬狼族のツキヨ。」

 ツキヨはいつものようにボソッと呟いた。

「タケル殿、いいってことよ!

 スゲー拳だったぜ!

 ツキヨちゃんって言うのか!

 さっきは治癒ありがとうな!」

「ちゃんって呼ぶな………。」

 ボソッと呟きが聞こえた。

「………。そりゃ、すまない!

 ツキヨ殿、よろしくな!

 コドウ様ー!」

 ハオは先頭を歩くコドウを追いかけるように小走りで行ってしまった。

「ハッカク殿も良い方みたいだね。」

 ボソッとした呟きは無く、ツキヨは大きく頷いていた。

 最後尾でカゲトモは大きくため息をついた。

(本来なら、私の「気」はこの辺りで尽きて倒れていたはず………。

 私はロウ様、タケル殿のお役に立てるように頑張る!

 魅一族の誇りかけて!)

 一行は本陣に到着し、一番大きな天幕の中へと入った。


 浩宇ハオユーが満面の笑みで迎えてくれた。

 浩宇ハオユーは一見、神経質に見える顔立ちで身体も痩せており一軍の将には見えなかった。

 しかし、眼の輝きと全身からみなぎる気迫は凄まじいものがあった。

 主要者の紹介が始まり、ロウにより遊撃隊の面々の紹介も行われた。

 賀王国の面々は人間、人外の者の混成であり、聖獣もいるようであった。

「それでは、現状の説明をしますので地図をご覧下さい。」


 王都河南の東には平野が広がっている。

 この平野を挟むようにして国王派と反国王派の軍勢が睨み合っているのが現状である。

 国王派10万、反国王派7万と人外の者300名であり、人外の者の力を考えるとほぼ互角である。

 しかし、国王派の後ろには第1司教率いる聖アモン帝国軍10万が控えている。

 しかも極大魔法を使う魔法師の3小隊が含まれている。

 数での不利は明らかであった。

 さらに聖アモン帝国軍の援軍は時間はかかるが無限に近い数が大陸西側各地に駐屯している。


 現状説明の後、自然と作戦会議になった。

 正面突破を主張する者、後方の聖アモン帝国軍へ陽動攻撃を主張する者、色々な意見が出てまとまりは見えなかった。

 タケルは優先するべきは悪しき三種の神器の破壊、それと同時に行われる王都制圧と考えていた。

 10万の聖アモン帝国軍が動く前に王都が制圧出来れば最善である。

 ロウが口を開いた。

「極大魔法とやらを実施する時に棺の様な3つの箱が魔法師達と一緒に現れると聞きました。

 これの破壊、魔法師達の無力化を実施し、同時に王都制圧を行う必要があります。

 聖アモン帝国軍の10万が動く前に!」

「それはそうなのですが、王都の後方の咸陽に駐屯する帝国軍に工作を行うなど不可能に近いのです。」

 浩宇ハオユーがそんなことは分かりきっているという顔をして言った。

「我々はそのために来たのです。

 日ノ国遊撃隊から選抜し、少人数でなら国王派に悟られず可能でしょう。」

 コドウはタケルならば1人でも可能かもしれないと考えていた。

 あの力は、ほんの一端に過ぎないことを身体を持って感じていたからだ。

 浩宇ハオユーはチラッとコドウを見た、コドウは瞳で可能性があることを語った。

「分かりました。………。

 日ノ国から3名、我軍からは2名の選抜で聖アモン帝国軍への工作をし、成功と同時期に王都制圧という線で作戦を練りましょう。

 ロウ隊長とスサ副隊長は残っていただき作戦の立案をお手伝い願います。

 他の方は待機天幕の方で待機を願います。

 ハッカク御案内を! 」

 浩宇ハオユーが言うや否や反国王派軍の参謀達は口々に自分の意見を言い出した。

 ロウとスサ老師もその輪へと入って行った。


「案内するぜ!ついて来な!腹減ってないか?

 食事も用意しよう!」

 他の遊撃隊の面々はハッカクの後に続いて本陣天幕を出て行った。

「タケルっー、そう言われると腹減って来たな!」

「そうですね姉御、俺も腹が減りました。」

 ハッカクはその会話を聞いて案内の歩みを止めることなく会話に割り込んで来た。

「ちょっ、ちょっと、タケル殿は聖獣ロウ様の弟で、この方の弟なのか?」

「アタイは鬼族長が第一子シュレイってんだ。

 よろしくな!

 タケルは第二子さ!」

「えっ、それは分かった。

 だけど聖獣様は普通、寿命が尽きる前に一人で子を生んで一子相伝だろ?

 何で弟がいるんだ?」

「なんだ賀王国の人外の者は「契り」を知らないのか?」

 それから待機天幕に着くまでの間、シュレイの「契り」についての説明が延々と続いた。

 ハッカクは真剣に、そして和かに、シュレイの乱暴な口調の説明を聞いていた。

(コドウ様の心以外の知と技を引き継いで家族となる…………。

 いゃー、最高に素敵じゃないか!)

 ハッカクは「契り」への憧れを抱き始めた。

「おっと、ここが待機天幕だ。

 ゆっくりしてくれ。

 俺は食事を運ばせてくる。」

 ハッカクは皆を案内した後、天幕を楽しげに出て行った。

 コドウに認められて「契り」を交わす、自称相棒からも卒業出来る、未来への希望が増え明るい性格を更に明るくしていた。


 幼い頃、ハッカクはある村の外れに住んでいた。

 村の周りは深い森に覆われ、その森と村との境辺りで両親と一緒に暮らしていた。

 その頃の賀王国は比較的人外の者への迫害は少なかったが、やはり少しの差別はあった。

 人間の子供達は人外の者とは遊ぼうとはしなかった。

 しかし、ハッカクは生まれつき明るい性格で積極的な行動をとる子供であったので毎日のように人間の子供達の遊びの輪に行っては「遊ぼう!」と言った。

 村の子供達は相手にしなかった。

 それでもハッカクは毎日のように「遊ぼう!」と言った。

 ある日、村の子供達の遊びの輪に6人の人間の野盗が偶然遭遇した。

「こいつら人質にして村からガッポリ稼くか!」

「へっふっへっふっ、大人しくしな!」

 剣、斧、槍などで脅され子供達は泣き恐怖で身体は震えていた。

 その日も一緒に遊ぼうと声をかけに来たハッカクは、その光景を見て怒りに我を忘れて野盗達に挑みかかった。

 子供とはいえ人外の者である、2、3人は殴り倒した。

 しかし、多勢に無勢、捕らえられてしまった。

「人外がっ!

 お前は人質にもならねー!

 殺すか!」

 野盗のひとりが剣を振り下ろそうとした時、何処からか弓矢が射られ、振り上げた剣はその手首ごと地面に落ちた。

「うわっー、痛えっー!」

 子供達を囲んでいた野盗は、あっという間に弓矢を射った一団に囲まれてしまった。

「賀王国東海岸人外警備隊である!」

 人外の者10名で編成された警備隊であり、強さ、正義、忠臣で賀王国にその名は轟いていた。

 普段は人間の形に変化しており人外の力を発揮、変化を解いた時は無敵だという噂と共に。

「コドウ隊長、捕らえた野盗は如何いたしましょうか?」

「領主様の裁きまで警備隊の牢屋へ!」

「はっ、了解しました。」

 コドウはハッカクへと歩み寄った。

「ボウズ、頑張ったな!怪我はないか?」

「うん平気、おじちゃん、ありがとう!」

「おじちゃんはよしてくれ!コドウって言うんだ。

 よろしくな!」

「うん、俺ハッカク!」

 コドウは微笑んでハッカクの頭を撫でていた。

「よし、皆んなと遊んでこい!」

「うん!」

 ハッカクは村の子供達の輪に駆け寄った。

「遊ぼう!」

「うん、遊ぼう!」

 村の子供達は口々にハッカクに歓迎の言葉を発していた。

 聖獣白虎コドウと牛鬼ハッカクの最初の出会いであった。


 10年前、大陸一の賢王と讃えられ民からの信望厚い賀王国の2代目国王が老衰のため穏やかに亡くなられた。

 3代目国王は始めのうちは父先代国王に習い、民を思う善政を行った。

 しかし、1年前に聖アモン帝国と友好条約を結んだ頃から様子が一変した。

 次第に悪行が目立つようになり、領主に一任していた税の徴収も国王が行うようになり、増税 を重ねた。

 領主の中には反発する者もあったが、国王は自身に反対する一派を粛清し、独裁体制を強化した。

 東海岸地域中部の領主であった浩宇ハオユーは粛清を免れ、民を圧政から守るため国王に反旗を翻した。

 次第に浩宇ハオユーに賛同する領主、人外の者、民衆は増えていった。

 元々、浩宇ハオユーの領地の人外警備隊の隊長であった聖獣白虎コドウ率いる人外の者達が中心に王国の人外の者達を束ね、大きな戦力となった。


 それはまだ浩宇ハオユーが反旗を翻したばかりの頃、ある村が国王軍に襲われた。

 領主浩宇(ハオユー)に対する制裁であった。

「急げー!村を守るんだ!」

 コドウ率いる人外警備隊は急報に、各員に変化を解かせて村に向かった。

 白い毛が銀色に艶を放ち、黒い虎模様を鮮やかに浮き上がらせていた。

 体長は5メートル程、太い手足の筋肉は脈動し美しささえ感じさせていた。

 聖獣白虎を先頭に連なる人外の者達は、いずれも大型な蜘蛛、蛇、百足、様々な獣人と10名から成る一団を形成していた。

 人間の形で馬に乗るより数倍の速度で村に到着した。

 村は所々の家屋が焼かれ、道には村の男達の屍が転がっていた。

 ある者は槍で刺され、ある者は剣で切り裂かれていた。

「これは酷い!」

「コドウ様ー、あちらの広場に国王軍が集まっているようです!」

 コドウ達は広場に向かった。

 村長の家であろうか大きな家屋の前に数十名の女、子供達が恐怖に震え座り込んでいた。

 その者達を守るようにひとりの人外の者が孤軍奮闘していた。

 頭に水牛のような二本の角、牛の様な耳、手足は黒い毛で覆われ鋭い爪を持ち剣を手にしていた。

 ハッカクであった。

 100名程の国王軍に囲まれて、前に出て来る者を剣で一撃という守り方をしていた。

 周りにはハッカクが倒したと思われる国王軍兵が十数名倒れていた。

 満身創痍であった。

(あの時の小僧か!ハッカクと名乗っていたっけ………。

 偉いじゃねぇか!)

 コドウはハッカクと国王軍の間に躍り出た。

「小僧!いや、ハッカク!良くやった!」

「コドウ様!」

 ハッカクは安心したのか、その場にストンと腰を降ろした。

「ハッハッハッ、腰が抜けちゃいました。」

「後は任せろ。」

 コドウの右前足の一振りで国王軍兵の十数名は吹き飛んだ。

「人外警備隊のコドウだっ!

 敵う相手ではない!撤退だ!」

 国王軍の指揮官らしい男が叫んだ。

 兵達は散り散りに撤退を始めた。

 しかし、待ち構えていた人外警備隊の餌食となった。

 国王軍が全滅に至るまで、そう時間はかからなかった。

「治癒妖術の使える者は怪我人の救護にあたれ!

 残りは燃えている家屋の消火だ!」

 コドウをはじめ人外警備隊の者は変化して人間の形になっていた。

 村人達からの見た目に配慮してのことであった。

「ハッカク、大きくなったなぁ。

 そして良くやったぞ!」

 コドウは微笑んでハッカクの頭を撫でていた。

「コドウ様、よしてくれ!もう子供じゃないやい!

 それより俺もコドウ様と一緒に戦う!

 警備隊に入れてくれ!」

 腰が抜けていたのを忘れたかのようにハッカクは立ち上がりコドウに頼み込んだ。

「険しい道ぞ。」

「分かってます!」

「よし!早速、消火活動に参加せよ。」

「はっ!」

 ハッカクは嬉しそうな顔をして、大きな声で叫びながら消火活動へと向かった。

「コドウ様〜、俺は今日からコドウ様の相棒になるー!」

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