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まほろばの守護者  作者: おずなす
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第11話 貴神

 荒野だった。広く、所々大きな岩があり、時々弱く吹く風に砂埃が舞っていた。

 ひとりの男?と蜥蜴の様な妖魔が闘っていた。

 生死をかけた戦いではなく、闘術の稽古をしているようにタケルは感じた。

 しばらく闘いを観ているとふたりは徐ろに距離を取り、一礼した。

 男?はタケルの方へ向かって来た。

 妖魔は反対方向に進み、やがて見えなくなった。

 2メートルくらいの身長、筋骨隆々、髪は黒々と肩まで伸びて、無精髭、眼光炯々とし、括袴、上半身は何も着けず、裸足の男?はタケルの側に来ると不機嫌そうに言った。

「よう、やっぱり来たか。」

 タケルは片膝をつき頭を下げ、自分の推測を口にした。

「自由神スサノヲ様、

 鬼族長が子、聖獣犬神ロウの弟、

 タケルと申します。

 スサノヲ様の分身に稽古をつけていただき、ありがとうございます。」

「俺の正体もバレバレか。

 俺について来い。」

 スサノヲは踵を返すと、しばらく歩いた。

 タケルは後に続いた。

 すると前方の空間が黒く青く赤く交互に光り出した。

 そのまま、ふたりは光る空間に入って行った。


 大きな大きな神社であった。少なくともタケルは神社だと思ったが、スサノヲの住まいなのかと思い直した。

(なんか、無駄にでかいなぁ。)

 沢山の巫女に出迎えられた。

 タケルは一礼し、鳥居をくぐると巫女が両側に並んだ本殿までの参道をスサノヲの後に続いた。

 巫女達は、白衣に緋袴姿であったが、人間、人外の者の混成であった。

 皆、頭を下げていたので顔を見ることは出来なかったが、きっと神様に直接仕える者達なので美人なのだろうとタケルは勝手に思っていた。

 タケルが本殿と思った建物にスサノヲは入り、タケルも後に続いた。

 本殿、拝殿も一緒になっているような構造であり、無駄に大きかった。

 大きな身体の人外の者でも部屋の中で不自由ないような構造であった。

(ある程度までの人外でも入れるようになっているのかな?

 でも、オロチ様、ラメガ様は無理だな。)


「座れ。金砕棒はしまっておけ。」

 不機嫌そうにスサノヲが言い、自分は本殿区画の一番奥に座った。

 タケルは、金砕棒に小さくなれと願うとシュレイが懐に入れていた時の大きさに戻った、そして拝殿区画に座った。

「タケル、俺はまどろっこしいのは好かない。

 単刀直入に言おう。

 聖アモン帝国の剣、鏡、玉は「そぐわぬ物」だ。」

 タケルは予想していた答えが神に肯定されたことで、より疑問が湧いて来た。

「スサノヲ様、「そぐわぬ物」は「気」の増幅を促す物なのでしょうか?」

「違う。説明するのは面倒だ。」

 スサノヲは、それっきり黙ってしまった。

(メチャクチャ面倒くさがり屋さんだ。言い方も不機嫌そうだし………。)

「参ったなぁ、ロウ姉上に甘噛みされる………。」

 つい、心の声が出てしまった。

「なんだ、甘噛み?」

「そうなんですよ、何かやらかすと姉上は俺に甘噛みするんです。

 聖獣になる前でも、かなり痛かったので………。

 今や聖獣!想像しただけで身体が痛くなります。」

「ほう!姉が怖いか?」

「姉上にはビャクヤ様以上に面倒みてもらってますけど、拾われて間もない頃は、甘噛みの傷が絶えたことはありません。

 スサノヲ様から色々教えていただけないと確実に甘噛みの刑です………。」

「そうか、そうか!それで?」

 スサノヲはニコニコした表情になり、不機嫌そうな物言いも変わり、楽しそうに話し出した。

(喰いついた?スサノヲ様も立派な姉上アマテラス様がいるんだっけ?

 シスコン?それなら………。)

 タケルは甘噛みの刑のこと、パシリのように使われていること、転移妖術が使えるようになるとアッシーくん扱いのことなどを少々大げさに盛り付けて話した。

 そして最後に付け加えた。

「でも、優しい姉上です。」

「そうか、そうか。

 そうなんだよ、優しいんだよなぁ。

 タケル、お前も苦労しておるなぁ、俺の姉上もな………。」

 スサノヲの姉アマテラスの話が延々と続き、タケルは時々相槌を打つ程度で懇々と話を聞かされた。


「………。

 あっそうそう!「そぐわぬ物」は「天ノ気」を作り出す。

 つまり、「気」が大したことなくとも膨大な妖術を使えるということだ。

 そして時と生命を司ることができる可能性が高くなる。

 本来、神のみが「天ノ気」を使える、そして、それは天上界にしかない。

 しかし、「そぐわぬ物」によって地上界でも使えるようになり、使用する者によっては時と生命を司れるようになる可能性がある。

 その形状により使い方は色々あるみたいだが、別天津神にしか詳しいことは分からない。

 しかし今は御隠れされているからなぁ………。

 まぁ、その中でも二重の円に十字の紋様が付いた物は悪しき物だ。

 日ノ国の三種の神器は無印物だ。殆どが無印なのだが、たまに二重の円に十字の紋様が刻まれたヤツが発見されて来た。

 天逆毎の話は聞いたことあるか?」

「はい。」

(えっ、日ノ国の三種の神器も「そぐわぬ物」だったんだ。)

「あの娘は本当、いい娘だったんだけどなぁ。

 ある日、真っ黒で手に乗るぐらいのまん丸な球を見つけたんだ。

 それには二重の円に十字が刻まれていた。

 後はお前が聞いている通りだ。

 その時は、ヤマト タケルがその球を破壊した。

 「そぐわぬ物」は「そぐわぬ物」でしか破壊できない。

 お前にこれを授けよう!」

 スサノヲはどこから取り出したのか、いつのまにか短剣を持っていた。


「オロチのヤツが暴れてた頃、俺が諌めた事がある。

 その時、ヤツの身体から出て来たのが天叢雲剣あめのむらくものつるぎだ。そいつは姉上に献上したんだが、一緒に出て来たのがこれだ。

 剣と呼ぶには小振りだが、俺は八重垣剣やえがきのつるぎと呼んでいる。」

 それは、まるで軍用ナイフのようであった。タケルはアイトールのジャングル・キングによく似ていると思い、自分には短い剣の方が向いているとも思った。

 見たことのない緋色の輝きを放っていた。

 タケルはスサノヲの前まで行き正座して、垂れた頭の上で両手で受け取った。

(軽い!)

「これで普通に戦え。なるべく「天ノ気」には頼るな。

 ましてや、時や生命を司ろうとするな。ロクなことにはならない。」

「はい、承知いたしました。」

「平和になったら、ロウと一緒にまた、来い。

 今度はゆっくりと姉上の話を聞かせてやる。

 根ノ国はいつでも歓迎する。」

 スサノヲの話し方には不機嫌さは無くなり、笑顔の似合うシスコン・オヤジになっていた。

「はい、かしこまりました。」

(まだ聞かされるんだ………。

 まっ、いっか!

 根ノ国って、ここのことか?後で姉上に聞いてみよう。)

(ロウ様に聞くまでもございません。このシロが御教えしますがワン?)

(そうだね!後で頼むよ。)


 気付くとオロチの闘技場にいた。

 八重垣剣は懐にしまってあり、代わりに金砕棒を持っていた。

 金砕棒はスサ老師の喉元寸前で老師の両手で止められていた。

 ふたりが消えてから数秒しか経っていなかった。

(スサノヲ様は時間も操れるのか。三貴神のおひとりだものなぁ。)

「それまで!」

オロチの声が響いた。

「勉強になりました。」

 タケルは一礼して観覧席に帰って来た。

 観覧席に戻るとツキヨが寄って来てボソッと呟いた。

「5発づつ入ったね。」

 この娘には見えたんだと思い、タケルは笑顔で言った。

「ツキヨちゃん、観ててくれて、ありがとう!」

 ツキヨはまた、下を向いて行ってしまった。


 遊撃隊はカガの手配による夕食をいただき、ロウ、シュレイ、タケルはオロチに呼ばれ別室で食後のお茶をご馳走になっていた。

「八重垣剣を賜るなんて、スサノヲ様よっぽどタケルくんのこと気に入ったのね。」

 オロチは、タケルがスサノヲに会い挨拶できれば良いと考えていたようだ。

 それが「そぐわぬ物」しかも天叢雲剣の兄弟のような八重垣剣をタケルが賜ったことがオロチを上機嫌にしていた。

「オロチ様、明日の勅命のこと、何か聞いておられるのですか?」

「タケルくん、概略は天子様に聞いているけど、明日直接受けた方がいいわ。」

「聖アモン帝国の三種の神器を一刻も早く破壊したいです。

 あれがある限り、いつ誰が襲撃されるか心配です。」

「それなら、スサノヲ様に教えていただいた結界を日ノ国全土の要所に展開しているから、心配いらないわ。

「天ノ気」を少し使うのでスサノヲ様と天子様から分けていただいているし。」

 黙ってお茶を啜っていたロウが口を開いた。

「タケル、心配だろうが天子様はもっと心痛められていると思う。

 天子様にお任せしようぞ。」

(姉上、聖獣になって貫禄出たなぁ。

 これは冗談じゃなく甘噛みされるのはさけなくちゃ!)

「はい!」

 タケルは元気に返事をして、お茶を啜った。

 横ではシュレイが目を輝かせながらブツブツと独り言をいっていた。

「天子様に会える!光栄だ!

 鬼族としちゃぁ、オヤジ以来の快挙だな

 楽しみ!楽しみ!」


 タケルは、オロチが用意してくれた寝室で横になって外を見ていた。

 虫の声が微かに聴こえ、星が綺麗に瞬いていた。

(シロ、根ノ国について簡単に教えて。)

(はい。

 根ノ国はスサノヲ様が治める国ですワン。

 場所は地底と言われておりますが、この世界と時間的に同系列で密接した異空間と思われます。

 ゆえに転移妖術か転移門からしか行けません。

 黄泉ノ国に隣接し、黄泉ノ国の入口を守るように接していますワン。

 住まう者達は、荒ぶりスサノヲ様や四聖獣に諌められた人外の者、地上界に飽き飽きした人外の者、死んだ人間や人外の者で黄泉ノ国に行かず修行や鍛錬を続けている者など一癖も二癖もある者達ですワン。

 根ノ国は生と死が曖昧な世界ですワン。

 私の分析では、スサノヲ様は、シスターコンプレックス以上にマザーコンプレックスなお方ですワン。

 母上であるイザナミ様が統べる黄泉ノ国に接して母上様の国を守っておられると考えますワン。)

(シスコンでマザコン?そうなんだ。

 なんで「そぐわぬ物」天叢雲剣と八重垣剣はオロチ様の身体から出てきたんだろう?)

(そのことに関してはヒルコ様とアハシマ様が誕生される以前のお話なので情報量が足りませんが、推測するとオロチ様、ラメガ様は空白の時代に栄えたと伝えられている文明の頃、つまり「そぐわぬ物」と同時代から御存命かと思われますワン。

 あくまで推測の域を出ませんが………。)

 シロの話はまだまだ続く勢いであったが、その時、眺めていた庭に気配を感じた。

 知っている気配だった。

「ツキヨちゃん、今晩は!」


「タケル、稽古の時、どこ行った?」

 ツキヨがボソッと呟いた。

(そこまで見えていたのか!この娘、結構凄いのかも?)

 タケルは正直に答えた。

「根ノ国だよ。」

「わかった。」

 ツキヨは、いつものようにボソッと呟き、下を向いて行こうとした。

 タケルはその背中に声をかけた。

「ツキヨちゃん、おやすみ。」

「お…や…す…、み…。」

 ツキヨの蚊の鳴くような声がタケルにとってはとても嬉しかった。

「おやすみ」を言える相手が、また増えたのである。

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