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一巡目 ハ行 剥がし暦、非望、臥所、ペシミズム、穿る

 

 昼間の太陽の下。百を超える上半身が裸の男達が、広場に整列し、一斉に拳を振るう。

 正拳突きを繰り出し、回し蹴りをし、構えをした。

 堂々たる格闘家達の鍛錬。その様子を満足そうに眺める者がいた。


 鍛えられた肉体を誇示するように、ふんどし姿。頭は見事なまでの丸坊主

「そうだ! 武器も、物も、金も、まず肉体があってこそ! 体を鍛える事がすべてが始まるのだ!」

 ハ行の当主。名前を皮膚。

 ちなみに褌なのは、皮膚だけである。



 ハ行の者は日々を鍛錬に尽くす。

 仕事も、勉学も、最低限。それ以外の時間を総べて肉体に捧ぐ。

 男も女も子供も老人も関係ない。ただひたすら鍛錬が、筋肉こそが至上と掲げていた。


 剥がし暦が一枚目からめくり終わるまで、夏も冬もただひたすら鍛錬のハ行の国。

 それをナ行の国が、排除しに来た。

 ただその存在が気持ち悪いという理由なだけで、武力制圧に乗り出した。


 結局は両方、戦争中にワ行の国が攻撃してきて、共倒れのような形となる。

 互いの当主が死に、布と皮膚が当主を継ぎ、そして共に臥所を同じ屋敷にする羽目になった。

 基本的に虫の好かない相手同士だったが、布は共同生活にあたり、せめて鍛錬は男女を分けてくれと頼んできた。半裸の男女や老人や子供が、同じ構えを取り鍛錬する姿に我慢が出来なかったのである。

 布の穿るような理屈で丸め込まれ、それだけは皮膚は了承した。



 皮膚は皆に声をかけていく。

「どんな望みも肉体あってこそ! 肉体が無ければ非望と化す! 自分の肉体に自信が無ければペシミズムに陥る! 自信を持て、武器を失おうと、金を失おうと、誇りある肉体があればいつでもどこでも立っていられるのだ!」

 ハ行の頭領であるがゆえに、病気になった事のない皮膚が、皆を励まし歩いた。



 今日も一日、鍛錬がほとんどを占めた。

 税が払えるギリギリの働きだけで今日も済ませた。

 下手な知識、下手な財など、邪魔でしかないというのがハ行の民の昔からの考えだった。

 そのありかたから、五十音国の唯一の宗教団体と呼ばれている。

 ワヲン王もひれ伏すならば、無理に解散させようとはしなかった。


 今日も一日、いい汗をかいたと皮膚は思う。

(しかしだ)

 皮膚は夕暮れの道を、屋敷に徒歩で帰る。もちろんふんどし姿で。

(しかしだ)

 皮膚は最近、考える事があった。

 

 海外とのやり取りが多い、ナ行の者達は、もちろん外来の荷物が屋敷にも多くなる。

 物を最低限持たない主義の皮膚からすれば、それらの荷物は辟易する物だったが、ふと一枚の海外の絵が気になった。

 

 それは雲の上から太陽を背に、人を見下ろす人の絵だった。


(無駄に気にするのは主義に反する、しかし、あれがどうしてか気になる)

 皮膚は考える。

(あれはなんだ?)


 ハ行はこの島、唯一の宗教団体。

 だがそんな者達ですら知らない、忘れさせられていた存在。

 宗教であるならあってしかるべき、見守ってくれる相手、捧げるべき相手。

 皮膚は知らない、この島の者で知ってる者は数人しかいない。








剥がし暦:日めくりカレンダー。

非望:身の程知らずの望み。

臥所(ふしど):寝床。

ペシミズム:人生を悲観的に見る、悲観論。そういう人の事をペシミスト。

穿(ほじく)る:穴を掘って、つつきまわす。漢字を知らなかった。


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