表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/25

一巡目 ナ行 内示、入貢、抜け荷、佞人、野太刀


 布はスーツ姿で港にたった一人で立ち、海の上を行きかう船を眺めていた。

 タンゴ島には古くから海外との交流があり、四方に港にある。

 しかし最も海の向こうと交流があるのは、タンゴ島西のハナの地であった。

 表面上は無関心に、ポケットに両手を突っ込み、船を眺めていた。

 

 布という男は海が好きだった。

 その果ての世界が、それを進む船が、あるいは空を飛ぶ飛行機と呼ぶ物が好きだった。

 地を這うだけではわからない。その先の、どこまでも自由に行ける、その解放感を考えるだけでも幸福を感じていた。

 自身がこの島から出られぬがゆえに、妄想の自由だけでも、自身の心を慰めていたかった。



「おお、ここでしたか、布さん、お待たせしました!」

 港の遠くから楽し気な声が聞こえる。

 その男は目を細め、口角を上げ、満面の笑みで布の元に歩み寄ってくる。

 男の周りには黒服の、屈強なボディガードの男が五人ほどついてきていた。

 布は無表情のまま、内心で悪態をつく。

(佞人が)

 布もまた、笑顔の男の元に歩いて行った。




 布は紙の束を地面に叩きつけた。

「あなたの所の内示の資料だ」

 港の石の地面にバラまかれた紙には極秘資料と書かれている。

 多数の、銃や火薬などの取引に関するモノだった。

「この島の外の人が住む事を、この地は受け入れている。だが取引内容の開示が条件だ。このような危険物の取扱いは報告を受けていない」

 無表情だが、その目は鋭く、笑顔の男を睨んでいた。

 しかし睨まれていたほうは、笑顔のままであった。

「……それは変ですねえ。こちらは報告したはずなのですが」

「金を握らせる事が報告か? これらの抜け荷は許されていない、いますぐ持って船で帰れ」

「いえいえ、報告していたのですよ。あなたに対してだけは」

 周りの男たちが、懐から拳銃を取り出し、布に対し向けた。

「密貿易したのも、それを指示したのも、私を騙し取引させたのも、布さん、あなたですよ」

「……貴様も共に罰されるだけだと思うが?」

「入貢という形でこの国の王に引き渡しますよ。代わりに取引の拡大を持ち掛けます」

 張り付いた笑顔のまま、男は含み笑いをした。

「知っていますか? この国の物は高く売れる。水は寿命を延ばし、作物は万病を治し、細工物は永遠に壊れないと噂されている」

「ねえよ」

「ええそうです。ただの噂です。この島が、秘術を用いる民の国、悪魔の島と呼ばれているがゆえ」

 

 笑顔の男が一歩近づく。布は懐から一瞬にして、野太刀を取り出した。

 銃声が響き、銃弾が布を貫いた。



「てめえも商人なら、少しは相手の事も調べたらどうだ?」

 笑顔を崩し、絶句する男。

 スーツに穴を開けた銃弾が、地面にいくつも落ち転がった。

「はあ!? なな!?」

「以前、お前たちがこの島に住居を求めた時の書類、覚えているか?」

 布は驚愕する笑顔の崩れた男に対し、短刀を振り下ろした。

「そこに”ニンゲン”と書かせたよな、”ヒト”ではなく”人間”と」


「”ニンゲン”の”ナマリダマ”じゃあ俺には傷をつけられねえよ」



 服を真っ二つにされた笑顔だった商人が、悲鳴を上げながらボディガードの男達と共に去って行った。

 逃げる男達の背を見送る事なく、野太刀をしまい込み、ナ行の頭領は海を見た。

 布は水平線の向こうに消えていく船を、羨ましそうに眺めていた。

「あ~、島を出てえなあ」






内示:非公式に示す。

入貢(にゅうこう):外国からの貢ぎ物。

抜け荷:密貿易。江戸時代限定の言葉らしいけど。

佞人(ねいじん):上辺は親切だが、心根は醜い人。

野太刀:外に持ち歩く、護身用の短刀。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ