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川は数時間歩いたところにあった。
川では体は洗えたものの、着いたときには白のワンピースに血が固まって取れなくなっており、どす黒い赤に染まっていた。
臭いもとれず服は替えたかったかったが、替えなどあるはずもなく、このまま過ごすことになった。
(もうだいぶ暗いし、今日はここで野宿かな)
もし夢だったとしたら危険はないだろう。
しかし、前まではこれが夢かと思っていたが、正直今は謎である。
さっき熊を倒したときの力は、普通の人間にはありえない強さだった。しかし、今自分が着ている服から漂う臭いや、この森の風景など夢とは思えないようなリアルなものばかりである。
だから俺は、これを夢だとは断定せず、慎重にかつ冷静に行動していきたいと考えた。
(でもこれが夢だったとしても覚めてほしくないねえな、どうせ起きてもつまらない日常があるだけだ)
寝転んでそんなことを考えていると、俺はすでに眠っていた。
俺は妙な物音で目を覚ました。まあこんな場所でゆっくり眠れるはずもなく、時々目が覚めることはあった。
何をするでもなく俺はまた目を閉じようとしたが、今回は何かが違うと違和感を覚え、体を起こした。
今はすっかり夜になっているが、今日は月が出ており、周りを薄暗くではあるが照らしていた。
森の奥に目を凝らしてみると、赤い点が二つほど浮かんでいた。
いや、二つでは足りない、数十にもわたる点が俺の周りを囲むように浮かんでいた。
(しまった!すでに囲まれている)
俺はここで一度、深呼吸をして落ち着く。
(こんなときこそ、慎重に冷静に行動しなければ)
俺は冷静に現状を把握した。
(おそらく俺を囲んでいるのは、オオカミなどの獣類だろう)
一匹一匹潰すのもいいが、さすがにこの暗闇だと分が悪すぎる。
少し賭けになるが、しかたがない。決めたのならすぐに動かねば。
(ここは......一転突破だ!)
俺は全力を出して、前に駆け出した。
群れの一匹を吹き飛ばし抜けようとした時、もう一匹が噛み付こうとしてきたが、俺の体は硬いようで、歯を全く通さなかった。
(よし!行ける!!)
おそらく群れの中から抜け出せただろう。
後ろから吼えて、オオカミ達が追ってきているようだ。
俺はすぐさま、近くにあった川に飛び込んだ。そして川の流れに任せ、俺は泳いだ。
バシャ、バシャ
俺は水を掻いて進もうとするが、
(あれ?あまり進まないぞ、なんでだ?)
バシャ、バシャ
(ハッ、そうか!俺は、大切なことを忘れていた)
そう、俺はとても大事なことを忘れていたのだ、それは
(そうだ!俺は......泳げないんだった!!!)
「ごぼぼぼぼぼぼぼっ!!」
(やばい!やばい!全く泳げない!!)
少しも泳げないので俺は泳ぐのをあきらめ、何とかして水から顔を出し、流れに任せ浮かんでいた。
オオカミ達は水には入ってこないようで、岸のほうから睨んでいた。
(ククク、バカめ水にも入れんのか)
バカはこちらである。
(どうにかして、反対の岸まで渡らないと)
俺はもう一度、心を落ち着かせ周囲を見渡した。
川の左右は木々で囲まれている。川上を見ると、遠方に山がいくつも連なりあっていた。
川下の方を見ると、何もなく空には月が綺麗に輝いていた。
そう、前には何もなく、木々も川の水さえもなかった。
俺はこの状況をすでに、察していた。
(これは......やばい)
よく耳を澄ますと水の落ちる大きな音が聞こえており、その音が徐々に近づいてきている。
要するに前には、滝があった。
「ごぼっ!ぼほっ!」
岸に上がるため、何とか泳ごうとするものの、息継ぎで口に水が入ってきて泳ぐなど、どうやっても無理であった。
しかも水の流れが速くなっている気がした。
(くそっ!ここは一旦冷静に......)
そんな悠長なことを考えているうちに、時は来てしまった。
俺は水から解放され、宙に浮かんだ。と、思ったらすぐに重力に従い落ちていった。
「ほげえええええぇぇぇ!!!!!」
こうして滝から落ちていき、意識を失った。