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プリンセス王子と虹色騎士団  作者: 美作美琴
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第107話 三姉妹揃い踏み


 幾何学的な光のラインが交錯する不可思議な空間にサファイアとトパーズが浮遊している。

 そして二人は足元付近にあった10㎥ほどのキューブの上に降り立った。

 それには半円状のレンズの様な物が設置された突起がある。


「さて、始めましょうかトパーズ」


「はい、サファイお姉さま!!」


 サファイアとトパーズはそのレンズの台座に両手を翳す。


「B2、Y3よりアクセス……R1応答願います」


 サファイアの呼び掛けに反応したのかレンズが徐々に光を放ち始める。


「コチラR1……長キニ亘リ休眠状態ニアリ、直前ニ不正あくせすヲ受ケタ為でーたニ損傷アリ」


 機械音の様な人工的な音声で反応が戻ってきた。

 普段無表情のサファイアの目が僅かだが見開かれた。


「お久しぶりですR1、再会できて嬉しいですお姉さま」


「オ姉サマ……理解不能」


「失礼しました、損傷データの復旧も兼ねてこちらからアップデートさせて頂きます」


 サファイアの手を翳した手元のレンズが激しく明滅を繰り返す。

 トパーズの起動の時に行ったシーケンスをここで再び行ったのだ。

 本来サファイア程の情緒を巨人が獲得するにはかなりの時間を要する。

 実際サファイアはこのR1同様片言の堅苦しい物言いで人間の感情などは全くと言ってよい程理解していなかった。

 R1にその工程を一から踏ますのは非常に効率が良くない。

 よってR1の人工頭脳にある程度ベースとなる知識や教養を与えようと言うのだ。

 やがてレンズは明滅を止めた。


「終わりましたよ、ご加減はどうですお姉さま?」


「……何て言ったらよいのかしらね、頭の中が急にスッキリした気分だわ」


 R1の発声が直前の物と違い少女のそれになっていた。

 少し気だるげに言葉を紡ぎ出す。


「あはっ!! お姉さまも進化なさったんですね!! おめでとうございます!!」


 トパーズは無邪気にはしゃぐ。


「あなた達が私の妹……で良いのかしら?」


「そうです、青のパーソナルカラーの私がサファイア、黄色のパーソナルカラーのこの子がトパーズです、以後お見知りおきを」


 サファイアが恭しくお辞儀をして見せる。


「そう、じゃあ私は何て名前なの?」


「それなのですが、我が主シャルロット様に名付けてもらおうと思います、今暫くはお姉さまで通させてもらいますが宜しいでしょうか?」


「仕方ないわね、で、そのシャルロット様とはどなたなの?」


「それは……」


『ちょっと!! 何で僕抜きで色々動いてるかな君たちは!!』


 空間にスクリーン状に映像が浮かび上がる。

 そこに映っているのは三種の神器を全て身に纏い、純白の翼で宙に浮いているシャルロットだった。

 どうやら彼女は新生虹色騎士団員たちの制止を振り切って赤の巨人のすぐそばまで来てしまった様だ。


「シャルロット様?」


『シャルロット様? じゃないよ!! みんなして僕を仲間外れにして!! 僕の身体を気遣っての事だろうけど僕はそんなに(やわ)じゃないよ!!』


「申し訳ございません、今そちらへ参ります、お叱りは後程」


「ちょっ!! まだ話は終わってな……」


 サファイアが強制的に映像の映っていたスクリーンを消去した。


「はぁ、困ったお人だ……まさか三種の神器迄引っ張り出して脱走して来るなんて……」


「ウフフフ、シャルロット様ったら面白いよね~」


「トパーズ、笑い事ではありませんよ?」


「エヘヘ、ゴメンなさい」


 キッ、とサファイアに睨まれトパーズはチロっと舌を出す。


「お姉さま、あれが我が主シャルロット様です、こうなったなら話は早い、私たちは一度外に出ます、お姉さまもどうぞ直にシャルロット様とお話ししてください」


「分かったわ」


「お姉さま、また後でね~~~!!」


 R1の人工頭脳空間からサファイアとトパーズの姿が消える。

 それと同時に外側、赤い巨人の首の端末に腕を接続しているサファイア本体の目が開く。


「お待たせしました」


「もう!! まさか君自らが計画を立案して行動するなんてみんなに聞いてびっくりしたよ!!」


 シャルロットは既に三種の神器の力を解除しており地上で腕組みをして仁王立ちしていた。

 サファイアは十メートル以上は有ろう巨人の肩口からひょいっと飛び降りシャルロットの傍ら迄移動した。


「申し訳ありません、あのままですとエイハブ様が動こうとしないのではと思いましてやむなく」


「まあいいよ、結果オーライだったしね、グラハムは重傷だったけれど救出班がエターニアまで運んでいったし」


 シャルロットは苦笑いを浮かべて首を竦めて見せる。


「そこでご報告なのですが、お姉……赤の巨人の制御を完全に取り戻しました」


「本当!?」


「どうぞ姉様とお話しになってください」


『初めまして、私はサファイアとトパーズの姉? でいいのかしら?』


 赤の巨人がゆっくりと膝立ちになる。


「ああ、初めましてエターニア国の王女シャルロットだよ、宜しくね、えーーーと……」


「シャルロット様、どうか姉に名前を付けて頂けないでしょうか?」


 サファイアは改めて姉に名付ける様促す。

 以前の世界では黒の騎士シェイドがルビーと名付けていた関係上サファイアも姉の事をルビーと呼びたかったが敢えてそれをしなかったのだがそれはサファイアなりのシャルロットへの気遣いであった。

 

「いいよ、じゃあルビーでどうかしら?」


 シャルロットはあっけらかんと言ってのける。


「えっ、それで本当によろしいのですか?」


 サファイアは軽く動揺していた。


「どうして? 身体の色がルビーの様に赤いからルビー、いいじゃない……前から良い名前だと思っていたんだよ僕は」


「はぁ、そうですか、シャルロット様がそれで良い言うのなら私が意を唱える謂れは有りません」


「じゃあ決定、今から君の名前はルビーね」


『ルビー……ありがとう……ございます』


 赤の巨人ルビーの身体中の装甲が音を立てて小分けに開閉していく。

 やがてルビーの姿は十代後半の赤髪で釣り目の少女に変わっていた。

 もちろん身体には一糸ひとつ纏っていない


「わわわっ!! サファイア!! 早くルビーに服を!!」


「心得ました」


 慌てて目を背けるシャルロットに反して冷静なサファイア。

 こうなる事を見越してサファイアは自分のメイド服と同デザインの赤いメイド服を持参していたのであった。

 早速ルビーはそのメイド服に袖を通す。


「おかしな物ね、こんな物を身に着けても巨人化したらすぐに破けるわよ?」


「大丈夫です、これには私たち同様復元の魔法が掛かっているので破けても人型に戻れば服も元通りになります」


「ふーーーん、そうなんだ?」


 物珍しいのかルビーは頻りに顔を動かし服を着た自分の身体を多方面から見つめている。

 この服の復元魔法は以前シャルロットがアルタイルに依頼していたものだ。

 これは以前の世界での話だがこちらのアルタイルにも同様のお願いをしてあったのだ。

 

「ルビーを仲間に出来たことは行幸ね、でもここに来たのはそれだけが目的では無いんでしょうサファイア?」


「はい、帝国領の地下には私達巨人を建造、修理するための工場が存在しているのです、トパーズの足をあのままにはしておけませんので」


「じゃあ一度城に戻ってトパーズを呼んで来なきゃ」


「それには及びません」


「えっ?」


 エターニア側の方角にもうもうと砂埃が舞っている、何かが高速で近付いて来るようだ。

 その正体はすぐに判明する。


「お待たせお姉さま方!! そしてシャルロット様!!」


 車椅子に乗ったトパーズが横っ飛びに急停車、辺りは土埃で満たされる。

 

「ケホケホッ……!!」


 シャルロットだけが盛大に咳込む羽目になった。


「主をついでみたいに言ってはいけませんよトパーズ」


「ゴメンねシャルロット様!!」


「いいよいいよ、そういう堅苦しいのは僕は嫌いだからね」


 土埃を身体から払いながらシャルロットは微笑む。


「……っててて……何て乱暴な運転だ……」


「あれ? 君は確か……」


 トパーズの遥か奥に頬り投げられたらしい人物がいた。


「よう、姫さん」


「フランク!?」


 フランクは地面に寝転がったまま上体を起こし手を挙げて挨拶する。


「何で君がここに!?」


「巻き込まれたんだよ、トパーズのすぐ横に俺が居たんだがジャケットが車椅子に挟まっちまったんだ……それでここまで引きずられて来たって訳よ」


「身体は大丈夫なのかい!?」


「忘れてもらっちゃ困るぜ、これでも俺は耳長族の長だぜ? 風の魔法で身体を地面から少し浮かせてきたんだよ」


「そう、良かった……」


 シャルロットは胸を撫でおろす。


「で、これから何が始まるんで?」


「うん、ここの地下に彼女たちを治せるこうじょうがあるんだって、だから今からそこへ行こうかって話になってね」


「大丈夫なんですかい? 仮にも魔王の拠点の一つなんでしょう?」


 フランクは眉を顰める。


「何が起こるかは分からないけどサファイアたち姉妹について新たに何か分かるかもしれないしトパーズの足が治せるって言うのなら行かない手は無いだろう?」


「けどよ姫さん、あんたに何かあったらこの世界はどうなる? ここは一度で直した方がいいんじゃないか?」


「駄目ですよフランク殿、姫は一度言い出したら聞きませんからね」


「その声はエイハブか?」


 いつの間にか皆の後ろにエイハブが立っていた。


「エイハブ、グラハムに付き添わなくてもいいのかい?」


「心配ご無用です、叔父上はあれくらいでは死にませんよ、それこそここで姫の護衛について行かなかったのが知れたら叔父上に大目玉を食らいます」


 ニカっと微笑むエイハブ。


「エイハブ……」


 この時、シャルロットの顔が少し紅潮していた事に誰も気付いていなかった。


「エイハブ様、先ほどの援護ありがとうございました」


 サファイアがエイハブに向かって会釈をした。


「いいっていいって、お前にはでっかい借りが出来ちまったからな、あれくらいなんともないさ……それより行こうぜ、その巨人の工場とやらに」


 サファイアの表情のこれまでにない柔和なものになっていたが同じく気付く者はいない。

 

「じゃあ開けるわよ」


 再び巨人に戻ったルビーが瓦礫を持ち上げる。

 そこには地下へと向かう階段があった。


「さあ行こう」


 シャルロットの呼び掛けにより一同は次々と地下へと歩みを進めるのだった。

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