プロローグ
「ハァハァッ」
一人の男が荒い息遣いで、正方形の空間を一陣の風の如き速さで疾走する。
荒く乱れた呼吸は、足を鉛に変え思考を奪って行く。
それでも止まりそうな足に発破をかけ、前へと強く踏み込んで行く。
疾走する男の背には焔が迫り、男のいた所を通過すると、壁に着弾し瞬時に赤熱し爆散した。
爆散した小石の破片が男の頬を掠め、切り傷からは紅き血が流れる。しかし男は出血したのにも、気づく余裕すらなかった。
男の右手に青き光の粒子が集い、禍々しい一つの拳銃が顕現する。後ろを振り返り、迫り来る二つの黒影を視認し、一つの黒影に向けて発砲する。
銀の糸引く弾丸が、一つの黒影に飲み込まれる。
飲み込まれた弾丸は、黒影から赤い体液を撒き散らしながら、貫通して行き、弾丸は地面に着弾すると、土埃を立ち昇らせた。
土埃が晴れると、黒影は一体になっている。
紅き双眸は常に男を見据えており、タイミングを見計らっているようだ。
男が拳銃を黒影に向け発砲するのを待っていたかのように、紅き流星の尾を引く黒影は、弾丸を避け男に向け鋭爪を突きつける。
「チッ!!!」
男はとっさにバックステップを踏むも、鉛の足が思うように動かず転倒した。
黒影は畳み掛けるように、大口を開け鋭牙で男の喉元を狙う。
目前に迫る黒影は次第にスローモーションになって行く。
そして男はすぐに察した。これは走馬灯であることを。
(終わりか……くそっ!)
黒影の動きが完全に止まるまで、時間が引き伸ばされる。
すると、男の脳裏に一人の女性の笑顔が映り、体に電流が走ったと錯覚した。
決して諦めてはならない、生きてこの地獄から這い上がるまでは……
「まだ、俺死なないんだよぉ!!!」
心臓の鼓動が全力で警鐘を鳴らし、永遠に引き伸ばされた1秒が、次第に元の速度に戻って行く。
動かない足を無理やり動かし、黒影を蹴り上げる。
動かないのに動かしたため、筋肉の繊維が千切れる感覚が男を襲う。
それでも止まらない。右手で拳銃を掲げ、落下してくる黒影に向けて、最後の弾丸を放つ。
黒影は穿たれ亡骸と化し、重力に逆らわず地面に落下する。
「絶対生きて、ここから這い上がってみせる!」
薄暗い空間には、血を啜り肉を貪る音が響き渡った。
この作品はまったり投稿していきたいと思います!(1週間以内には毎回更新します)
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