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いせかいにて  作者: 夏野 千尋
第一章 王国の中心
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揺らぐ安寧

見切り発車です。春休みの宿題が終わりません

 薄暗いランプの光だけが、鈍く輝く地下室で、私は屈強な男達に囲まれて尋問されていた。狭く薄汚れた部屋は、罪人を尋問する場所なのだろう。壁には黒光りする金属の、凶悪そうな形が目に痛い。

 こんな所に私を呼び出して何をするつもりなのか。緊張と恐怖で体が強張るし、目の前にいる人も問題だった。


「スミが魔王の封印の宝珠を持ち去り逃亡した。何か、知っていることはないだろうか」


 美声が私に問う。私は驚きを隠せない。

 なぜ、かの人がこのような場所に居るのだろうか。だが、それよりも。


「まさか、彼が?何故……」


 澄が、何をしたと王太子殿下は仰ったのだろうか。澄が、宝珠を盗み出して逃げた、と?

 嘘に違いない。だって信じられない。

 澄はとても冷静で真面目で賢い人だ。殿下を裏切って、そんなものを盗む必要も理由もない。


 動揺を隠せもしない私に、殿下は重ねて問いかける。その顔は無表情で、一切の感情を押し隠しているように見えた。だが、隠す、ということは、隠さなければならないだけの感情があるということ。澄は殿下の護衛騎士で、殿下と仲が良かったことを思い出した。


「お前が手引きしたのではないか」

「そんな。わたしにそんなことできっこありません」


 魔王の封印の宝珠が置かれていたのは魔術師塔だ。確かに魔術師である私に分がある領分ではあるが、同じ時期に城勤めを始めてさっさと昇進している澄とは違って、私は未だ下っぱの下っぱなのだ。出来る筈がなかった。


「……でも、本当に澄がそのような大罪を犯したのですか?信じられません」


 私の問いに、次期魔術師長と目されているヴァル=サクリトフ魔術師が答えた。彼も居たのか、と初めて気がつく。私は自分で思っていたよりも動揺しているらしい。

 サクリトフ魔術師の声はは中性的で刺々しい感じがする。


「真実は変わらないよ。確かにそいつがやったって目撃証言もあるし、封印の場所に残る魔力の気配はスミのものと一致したしね」

「それにしたって、澄が馬鹿なことを…?」


 私の言葉に返事はない。ただ部屋の隅に落ちる影が濃くなったような気がした。沈黙が重苦しく、私は顔を両手で覆う。

 澄と私はまるで家族のようなものだ。全てを突然失ったもの同士、それなりに仲良く育った。そんな彼が、世界を揺るがす大罪を犯したのだと言う。


 息を吸う音がして、サクリトフ魔術師が私を追及した。その言葉は刺々しく攻撃的で、身を竦ませる。


「その日の深夜、お前の部屋にスミが入っていったのを見かけたヤツがいる。何を話した?」


 最後に澄にあった日を思い出す。相変わらず彼は冷静で、私にはよくわからないことで悩んでいるようだったかもしれない。けれど、それが変わったことのようには思えなかった。

 あの後、澄は罪を犯したと言うのか。

 あの真面目で潔癖な澄が。


「………大したことは、何も。昔話を少ししたぐらいですぐに帰りましたし」

「本当に?嘘をついても直ぐに分かるんだからね」

「…嘘をついてどうするんですか?」


 私はため息をついた。澄の罪を今だ信じられないのに、どう嘘をつけと言うのだろうか。けれど周囲は私を疑ってかかっている。

 天涯孤独の澄の唯一の幼馴染み。

 多分私達の関係はそれだ。疑われるのもわかる。でも苛つかないわけではなかった。


「スミの共犯ならば嘘もつくでしょ。でもまあ、本当に知らないみたいだね」

「…そうか」


 殿下はそう言うと落胆したような、安心したようなため息をついた。




 一通りの尋問を終え、一応私は無関係であるとして解放された。勿論宝珠が盗まれたことについては箝口令を敷かれた。


 仕事に戻ると室長のフランシスカが私を心配していた。私は第四魔術室の魔術師だ。先程のサクリトフ魔術師は第一魔術室の副室長だったりする。


「それで、サクリトフ家の坊やはサヤに何の用だったの?」

「……すみません、言えません」

「ふぅん。機密事項ねぇ…」


 私の一言で正確に把握したフランシスカは本当に頭が良い。感心しながら形の良い赤い唇が動く様を眺めていると、フランシスカは私に近づいて肩を叩いた。


「ま、今は全部忘れて仕事に励んでちょうだい!…と言いたいところなんだけど、ゴメンねぇ、そうもいかなくなっちゃったのよぅ」

「……何かありました?」


 軽い雰囲気だが、割と本気で悪いと思っている雰囲気のフランシスカに嫌な予感がする。フランシスカは色々やらかすけど早々反省しない。そんな彼女が本気で謝罪しているのだから、どんなことか。


「…………多分ね、あたしが言っちゃったのよ〜。勇者ちゃんが黒髪が珍しいのを気にしてるから、うちにもいるよーって。そしたら会いたいって言われちゃってさぁ?断れないじゃない?」

「……で?」

「いや、ほんと悪いと思ってるのよ?サヤは勇者召喚にもずっと反対してたし?」

「………わかりました。勇者に会えば良いんですね」


 勇者。数か月前に異世界から召喚した、魔王を倒す力を持つ少女。

 以前には20年前に召喚された女性が成功例らしい。10年前にも行われたが、それは失敗に終わったのだと言う。

 魔王を倒す力を求めて今代の召喚は行われたが、20年前と10年前はそうではない。異世界の知識は国家に莫大な益と財産を齎し、異世界人の持つ超越した魔力は喉が出るほどに美味しい話なのだ。


 勇者はまだ10代の少女で、異世界の知識は然程無い。だが、真っ直ぐな気性は好ましく、彼女は周囲の人間に好意を持たれているという。


 彼女に魔術を教えているのはサクリトフ魔術師とフランシスカだ。サクリトフ魔術師はその実力から選ばれたが、フランシスカは勇者と同じ性別であるということも加味して選ばれたらしい。

 一から八まである魔術室の室長の中で唯一の女性がフランシスカなのだ。この世界は女性が政治や魔術の道に入り大成することは稀である。やはり、結婚して子供を産むのが女性の幸せであると思われているから。


 フランシスカは勇者と仲が良いらしい。相談にも乗っているからこんな状況になってしまっているのだろう。

 悪い人ではないし、寧ろいい人なのだけれど、それ故に今の状況になっているとごっそりため息をつく。


「ほんとゴメンねぇ。今度何か奢るから」

「じゃあ《赤いの目の兎》の新作スイーツで手を打ちます」

「げぇっ!?あれ開店15分で売り切れるヤツじゃないのっ」

「よろしくお願いしますね?」


 ひいひいいっているフランシスカは放置だ。私は重い気分を引きずりながら席に座る。今の仕事は城内の空調の魔術の簡略化だ。術式に色々手を加えながら考えてはいるが、これがなかなか難しい。

 あっちを削ればこっちが駄目になるし、こっちを削ればまた他のところに問題が生じる。無駄が多いようでこの術式は素晴らしく調和がとれているのだ。


「………澄…」


 私の兄。私の弟。兄弟弟子。友であり、家族。

 私達の関係を言い表すのは難しい。

 ただいうならば、本当にかけがえのない存在だった。

 どこに行ってしまったの?どうしてあんなことをしてしまったの?

 考えて、私は本当に今の澄を知らないことに気がついてしまった。城勤めを始めてから、随分と疎遠になっていたからだろうか。分からない。

 分からないことばかりだ。


「サヤ、何か言った?」

「いえ、何も」


 私は口を閉ざした。





有難うございました。あらすじの流れに乗れるのは当分先になります

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