第1章 逃避考
どうしよ、どうしよ、どうしよう。やっちゃった、やっちゃった、やっちゃったよ。
僕が悪いのか、でもだって、あいつが急にあんなこと言うから…。あんなこと。何で急に。
いや、考えてみれば、ごく当たり前のことなのかもしれない。でも僕には衝撃的過ぎた。あいつが、まさかあいつの口からそんな。
てか、今は理由とかそういうこと考えてる場合じゃない。とにかく逃げないと。逃げない方がよかったのはわかってるけど、逃げてしまったからには、逃げないといけない。
誰にも見つかってないだろうか。最後に見た時は…。
ああ、人の体から汗とおしっこ以外の液体が、あんなに流れるのを初めて見た。大丈夫なんだろうか。いや、大丈夫な訳ないか。何考えてんだ僕。
「戸村くん?」
うわっ。なんだ。
「な、西口先生」
「どうしたのそんな深刻な顔して」
うそ、そんな顔に出てた?
「なんでもないですよ」
まずい、早くどこか行きたいのにこんなところで話してる場合じゃ。
「それに、ここは特別棟だよ?放課後までは用はないはずでしょ」
「いやあ、こっちのトイレ人来ないし、落ち着いてできるから好きなんですよ」
「あ、わかるそれ。わたしも、長そうなときとか…あ、いや」
あ、先生赤くなってる。
「そ、そんなことより、もう授業始まるよ。教室まで、送ってあげるから、急いで戻りましょう。」
送ってあげるって何だよ。くそ、でもここで不自然な行動はとれない。むしろ、あえて放課後まで普通に学校生活を送り切った方が、あるいは。
僕がそんな考えを巡らせていたのは、もう20日も前のことだ。