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70.答え

 玄関の正面に位置する大げさなほど広いリビングの片隅に、神木沙里が立っていた。玄関を上がる俺を見てから、神木沙里はおもむろに俺から視線を逸らして、リビングに接したベランダの窓に手を置き、そこから見える景色と向き合った。

 暮れ行く街の景色を見下ろす神木沙里の細い背中は、やっぱり、俺を拒絶しているように思えた。

濃淡なオレンジは、沈み行きながらリビングに影を落としている。その影の中に立ちながら、神木沙里は決して光の中には入ろうとはせず、その背中は微動だにしなかった。

 ――そんな暗いとこに立ってんじゃねえよ。

 そう言って、神木沙里を影の中から、光の中へ引っ張り出してやりたかった。でも、そうするには神木沙里の背中は、あまりにも俺によそよそしかった。手を伸ばせばすぐそこに光はあるのに、神木沙里は決してその中に入ろうとはしない。

そうまでして、神木沙里は一体なにを求めているのだろうか。神木沙里の背中が物語る答えに、俺はいたたまれなくなって声をかけた。

「いつか、恵美が俺に言ってたこと思い出したよ」

 すぐ傍で俺の声を聞いても、神木沙里の背中は揺らがなかった。俺の口から出た恵美の名前は、自分でも戸惑うほど、言葉に託したはずの実感を伴わない。言葉では補うことが出来ない喪失感が俺の胸をよぎった。それでも、あの日、確かに恵美はそこにいた。

「お前のこと、心配してたよ。いつか、爆発するんじゃないかって言ってた」

 それが、虚しいだけの行為だと知っていても、俺は言葉を続けた。

「口には出さなくても分かるって。お前が恵美のこと憎んでるって、あいつ、言ってた。その時の俺は、恵美に何も言えなかった。今も、それは変わんねえ。だから、聞かせてくれよ。お前の……答え」

 多分、恵美はその答えを知らない。神木沙里は、伝えることが出来ずに、今もその胸に答えをしまい続けている。だとしたら、せめて、その答えは少しでも優しいものであって欲しかった。同情では埋められなくても、神木沙里を蝕んだものが悲しみや後悔であるなら、きっと、いつかは立ち直ることが出来る。そう思うのは、ただの独りよがりな思い込みに過ぎないのだろうか。

 やがて、沈黙に浸った空気に、独り言のように神木沙里の声が流れた。

「――違う」

 あの雨の日に聞いた、哀しい声とは違う音色は、静かに、しまわれた想いを吐き捨てる。

「私は、お姉ちゃんをあの日からずっと呪ってるだけだもの」

 振り返った神木沙里の瞳は、冷静に、冷静に、俺の幻想を否定した。


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