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7.ただの幼馴染

 あー、ちっくしょう。胸くそ悪い。これも全部大樹のクソ馬鹿アンポンタンのせいだぜ、全く。今度、麗美に隠れて女とデートしてたことチクッちゃうぞ、この野郎。

「純君! ちょっと、待って!」

 ん? おぅ。こちとら機嫌悪ぃのになに馴れ馴れしく声かけてきてんだ、誰だよぶん殴るぞこら、と握り拳を作りつつ振り返ってみれば、なんだ麗美か。噂をすればなんとやらだな。けけけ、大樹め。今日がテメエの失恋記念日だ。覚悟しろぃ。

 廊下を駆けてきた麗美は、俺の傍まで来ると息を切らしながら心配そうな顔をして俺を伺ってきた。いや、私は別にあなた様がこちらに駆けて来る際に、元気よく揺れるあなた様の豊満なお胸様に目を取られていたわけではありませんよ?

「お、おぅ。どうした麗美?」

 随分と神妙な顔をして俺をじっと見つめてくる麗美。そんなに見つめちゃ、いやん。

「……やっぱり、怒ってる? 大樹のこと」

「え? いや、いや、怒ってねえよ? ただ、ヤロウは張り倒してやらなきゃ気が済まねえだけだって」

「やっぱり、怒ってるんじゃん……」

 そう言って、麗美は項垂うなだれた。って、あれ? どうした、麗美。いつもの気の強いお前はどこへ行った。ほら、あの時大樹に向けた鬼面を思い出して。

「私もあれは大樹がデリカシーなかったと思うよ。でもね、あれはあれで大樹も純君に気を遣ってたんだよ?」

「ほう。私には、奴は面白がっていただけのように見えましたが?」

「違うよ。純君なんだか辛そうだったから、大樹も純君に元気出してもらおうと思ってああやってはっぱかけただけなんだよ。大樹に悪気はないの。だから、気を悪くしないで?」

「いや、俺は少しも辛くなどないぞ」

「そう見えたの。私にも、大樹にも」

「でしたらお二人とも眼科へ行くことをお勧めします」

 俺の言葉に、麗美は「もう」と言って呆れたように小さく笑って息をついた。

「とにかく、大樹とは仲直りしてね? 大樹も反省してたから。こんなことで、二人の仲が悪くなるなんて、私ヤだよ」

「……なんだ。わざわざ、そんなこと言うために追いかけてきたのか?」

「そんなことで悪かったですね。でも、大樹は私の大事な彼氏だし、純君は私の大事な友達なの。私にとっては、そんなことじゃないんだから」

 そう言ってイーと歯を見せる麗美。なんだよ、麗美ってこんないい奴だったの?

「お前……いい奴だな」

「あら、心外。今頃気付いたわけ?」

 そう言って笑う麗美を見て、俺もつられて微笑んだ。

「ま、心配すんな。俺って見かけによらず単純だからな。明日になれば大抵のことは忘れてる」

「ってか、見たまんまだよ」

「うっせ、バカ」

 目を見合わせて、俺と麗美は一緒になって吹き出した。ああ、なんか、麗美のおかげでだいぶ気分晴れたな。仕方ねえ、麗美に免じてここは他の女とデートしたことは黙っててやるぜ、大樹。命拾いしたな。その代わり麗美を大事にしろよ、この野郎。

「よし。すっきりしたところで教室戻ろっか」

 そう言って振り返った麗美に、俺は「あー、俺、購買行ってくるから」と言った。

「え? どうして? 今日も夏菜が弁当持ってきてくれてるでしょ?」

 そう言って怪訝な表情を作って俺を見る麗美に、俺はふうとため息をついた。

「あのね、君。俺が夏菜に弁当恵んでもらっちゃ、王子様が気を悪くなさるだろ。それぐらい気がつきなさいな」

「……それはそうだけど、いきなりそんな遠慮しなくてもいいんじゃないかな。いきなり弁当いらないなんて言ったら、夏菜だって戸惑うと思うよ。そんな風に気を遣われて純君との関係がギクシャクするのが嫌で、夏菜も金田先輩の事、純君に話せないでいたんだから」

「へえ。じゃあ、麗美は知ってたんだな。夏菜と金田先輩が付き合ってたこと」

「え……それは誤解だよ。三日前に金田先輩に告白されたって事は夏菜から聞いてたけど。付き合うことにしたって事は私も今日純君に聞かされて初めて知ったんだから」

「ふうん。ま、俺に遠慮なんてする必要ねえよ。俺と夏菜はただの幼馴染なんだしな」

「ほんとに?」

 俺の言葉に、麗美はそう言って、真面目な顔して俺を見つめた。

「ちゃんと言葉にしないと、気持ちは伝わらないよ。純君は、本当にそれでいいの?」

「……じゃな」

 俺は麗美にひらひらと手を振ってから、購買に向かった。


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