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60.さじ加減

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「また派手な夫婦喧嘩だったわね、純君」

「……からかわないでくださいよ。マジ、へコんでんすから」

「まあまあ。で、あんたたちいつから付き合ってんの? ケンカの原因はなに?」

 あれだけ大声を出していれば、当然階下にいた紗枝さんに喧嘩の内容は筒抜けだった。夏菜との事を別に隠すつもりはなかったけど、今更改めてというのも照れくさかった。それに、紗枝さんがまだ俺たちのことを知らないということは、夏菜がまだ話してはいないということだ。それを、勝手に俺がここで告白してもいいのか少しの躊躇はあったけど、今は誤魔化すことに専念できる心の余裕はなかった。

 昨日から夏菜と付き合うことになったことを告白しても、紗枝さんは全く驚く素振りを見せなかった。それどころか、やっとくっついたか、などと言われてはこちらとしては恐縮するしかなかった。

「ほんっと分かりやすいのよね、あの子。今朝は幸せ独り占めって顔して家出てったくせに、帰ってきたら一言も口利かないのよ。あの子、機嫌悪いとすぐ口利かなくなるからね」

 リビングのソファに隣り合って座りながら、紗枝さんは俺の気などまるで無視して随分楽しそうだった。紗枝さんにデリカシーなんてものを求める方が無理な話なのは分かってはいる。

「で? 焦りすぎちゃった?」

 分かってはいるが、酒のつまみにそんなことを口走らないでもらいたい。

「なに言ってんだ、あんた」

 すかさず言葉を返す俺に、紗枝さんは片手に持った缶ビールを呷った。それから、酒臭い息を吐き出しながら、足を組み「あれ、違うの?」とあくまで意外そうに声を出した。

「当たり前ですよ。なに言ってんすか」

「なにって、純君ぐらいの年頃の男の興味なんて九割がセックスで占められてるもんでしょ。ま、私は放任主義だし、相手が君なら口挟む気ないから安心して。でも、ちゃんと避妊はして――」

「違うっつってんでしょ!」

「分かってるけど、からかわせてよ」

 けらけらと笑いながら、またビールをあおる紗枝さんに、俺は閉口するしかなかった。この期に及んで俺をからかって楽しむ紗枝さん。どうやったら、この人から夏菜のような生真面目な娘が生まれてくるんだ。おそらく、夏菜は親父さんの方の遺伝子を大幅に受け継いだのだろう。それが幸か不幸かはあえて言わないが。

 ほろ酔い状態の人間に相談に乗ってもらおうとは思わなかったが、あれやこれやと絡まれて、結局あれやこれやと白状してしまった。もちろん、喧嘩の理由を知った紗枝さんは腹を抱えた。あんたら小学生か、と笑われた。

「なんか、友達にもそんなこと言われましたけど、俺らって、やっぱ幼稚なんすかね……」

「あれ、もしかして気にしてんの? 気にしない、気にしない。誰だって最初はそういうもんよ」

「はあ……」

「ま、あの子も融通利かないとこあるかもしれないけど、今回は純君が悪いよ。君が軽い気持ちで言葉を選んでないにしても、相手に軽く受け取られちゃったら、それまでなんだから。大事なのは、言葉じゃなくて気持ちだろうけど、気持ちなんてやっぱり言葉にして伝えるしかないんだから。まあ、言葉以外の手もあるけど、あんたらにはまだ当分先の話でしょ」

 紗枝さんの言葉に「はあ」と相槌を打つことしかできない俺を見て、紗枝さんは小さく笑った。

「ね、純君。夏菜はきっと、君のことが好きでしょうがないのよ。顔も見たくないって思っちゃうぐらいね」

「はあ……?」

「好きと嫌いは切り離せないってね。純君も、その癖今のうちに直しとかないと、後々苦労するわよ?」

「癖?」

「誰にでも優しいその性格。さじ加減間違えると、取り返しつかなくなるかもよ」

「……脅かさないでくださいよ」

「クス。ま、不束ふつつかな娘だけど、これからもよろしくね」

 俺の肩に腕を回しながら、紗枝さんは一気に残ったビールをあおった。

 







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