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6.付き合うってなんですか?

 一棟の校舎の二階の隅。そこが我が二年A組の教室だ。そんで、俺の生息域は窓際一番後ろのベストポジションなワケだが、席に着いて早々重大なことに気づいちまった。そう、いつも昼飯は夏菜が俺の分の弁当も持ってきてくれているのだ。ウチの親父は料理苦手だし、俺も朝にはめっぽう弱いもんだから、弁当持参なんて夢のまた夢だ。が、心優しき夏菜のお母様、紗枝さえさんがそんな俺のために、夏菜と俺の分の弁当を毎日作ってくれているのだ。一人分も、二人分も作る手間は同じだからと、そう言って。おお、神よ。あなたはなんて慈悲深い女神なのでしょう。しかし、欲を言えば、もう少しおかずの量を増やして欲しい。って、なにほざいてやがる、この罰当たりがっ!

 はあ、それにしても腹減った。しかし、夏菜は今頃屋上で金田先輩とイチャイチャラブラブしてんだろうし、どうしたもんか。勝手に夏菜の鞄漁るわけにもいくまい。仕方ねえ。購買にパンでも買いに行くか。

「よ、純。どうした、元気ないじゃん。その様子じゃマドンナにこってり絞られたか」

 そう言って、俺に声をかけてきたのは、我が親友、大友大樹おおともだいき。短髪に切った髪を赤く染めた素敵坊主がよくお似合いの、色男だ。ブレザーの下のカッターシャツの裾をズボンからだらしなく出し、第二ボタンまで空けて自分の肉体を見せたがれば、女ったらしの完成だ。

「おぅ、大樹。ちょうどいいや。ちょっと、お前に聞きたいことがあんだけど」

「聞きたいこと? なんだよ?」

「付き合うってなんだろうな」

「……は?」

 俺の唐突な質問に、大樹はなに言ってんだ、こいつは、ってな具合に顔をしかめた。やはり、もう少し分かりやすく解説が必要か。

「いやな、男と女が付き合うってことは一体どういうことなんだろうと思ってな」

「はあ? また、随分唐突にわけの分からん質問をするな、お前は」

「いや、分からんはずはないだろう。過去36人の女を泣かせてきたお前なら、その何たるかを知っているはずだ」

「へーえ。じゃあ私は大樹の37番目の女ってわけ?」

 おぅ。いつの間にか大樹の後ろに立っていたこの鬼神、おっと、間違えた、よく見ればその顔にはまだかすかに麗美れみの面影が残ってる。ってわけで、鬼の形相で大樹を睨み、腕組みしつつ大樹の後ろに仁王立ちしているこいつは、俺のクラスメイトにして大樹の37番目の女、大川麗美おおかわれみだ。首元あたりで切りそろえられたボブカットの髪型がよくお似合いなこの気の強い女は、夏菜と並んでクラス一の美人と呼び声高い鬼、おっと、女だ。華奢な夏菜とは違って豊満な肉体の持ち主の麗美の方が、男子連中からはやはり、若干受けがいいようだ。っと、呑気に解説してる間にいつの間にか目の前で修羅場が。

「ねえ、大樹? あなた、女の子と付き合うの私が初めてだって付き合い始めの時言ってなかった? それとも、それって私の聞き違い?」

 いや、いかにも遊び人なこいつを見てそれを信じるのもどうかと思うが。

「い、いや、もちろんそうだって! 誤解だよ、誤解! 純の冗談だから、な! な!」

 そして、必死に俺に助けを求めてくる大樹。あーあ、ただの冗談がこんなことになるとは本当に思いもよらなかったな。

「ってか、お前! 麗美がこっちに来てるの知ってて、わざと誤解受けるようなこと言っただろ!」

「いやいや、私は冗談は言わない性質ですから」

「嘘つけ! さっさと、お前の口から麗美の誤解を解け!」

 しょうがない。麗美が本物の鬼と化す前に本当のことを話しておくか。本当は大樹は過去に6人の女を泣かしてきたと。おっと、大樹が空気読めよ、お前? ってな具合に必死な目をして俺を睨んでるな。しょうがない。ここは二人の良好な関係継続を願って一肌脱いでやるか。俺って奴はなんて友達想いなんだ。

「おい落ち着けよ麗美今のは軽いジョークだよ」

「……なによ、その無理やり言わされてるような、棒読みの台詞」

 じとっと俺を見て、ついっと大樹に目を移す麗美。

「おい、純!」

「はいはい、もういいよ、飽きたから。大樹は至って清廉潔白。かわゆいチェリーボーイだよ」

「……本当かしら」

 いや、もちろん嘘です。

 さて。この場は無事一件落着。そろそろ本題に入ろうか。

「――でさ、大樹。付き合うってなんだろうな」

「……テメエ、コノヤロ――」

「なに? なんの話?」

 お、話に食いついてきた麗美を見て、うまく話が逸らせるぜラッキーとばかりに、ヒクついていた大樹の顔面が笑顔に一変した。

「いやさあ、なんかこいつ、急におかしなこと聞いてきてさ。男と女が付き合うのって一体どういうことなんだって」

「へえ。なんかあったの純君? もしかして、女の子に奥手な君にもとうとう春が来た?」

 そう言って、からかうように笑う麗美。いやはや、そのカワユイ笑顔の裏にあの鬼の面が隠れてるとは信じられないな。女って恐ろしや。

「なんだよ、お前。やっと夏菜とくっついたわけ?」

「いやん、ばかん。大樹君セクハラよお」

 そう言って、俺は大樹の足を踏んづけた。おもっきし。

「痛え!」

「あれ、私もてっきりそうだと思った。違うの?」

「おいおい、何のジョークだよ君たち。ってか、なんでそこで夏菜が出てくるわけ。第一、夏菜には素敵な王子様がもういるっての」

「「え?」」

 二人揃えて声を漏らす二人に、俺は事の経緯を教えてやった。もちろん、いろいろと要点は省いてな。

「そっか……。夏菜、金田先輩と付き合うことにしたんだ」

 そう言って、なんとも言えない顔をして俺を見てくる麗美。いや、なにその可哀想なものを見るような目。ってか、お前金田先輩のこと知ってんの?

「なるほど。告る前に振られたわけか。そりゃ、きっついなあ。どんまい、純」

「いやん、ばかん。大樹君セクハラよお」

 俺は大樹の足を踏んづけて、おもっきしグリグリねじり込んだ。

「痛え! マジ、痛えから止めろって!」

「馬鹿。今のは大樹が悪いよ。純君は失恋して傷ついてるんだから。茶化したりしちゃ可哀想だよ」

「いや、お前らそこに直れ。俺と夏菜は付き合いは長いがただの幼馴染であり、それ以上でもそれ以下でもない間柄だ。親同士も仲がよく家族ぐるみの付き合いをしているが、決してお互い特別な感情なんて持ち合わせちゃいないわけだ。二度は言わんぞ。これ以上口で言っても分からん奴は先生終いには殴るからな。体罰なんて先生少しも怖くないぞ、これは愛の鞭なんだ。いいか、お前ら。先生はお前らの事を本気で――」

「はいはい、分かったよ、純君。分かったから、戻ってきて」

「――おう。分かればいいんだ」

 なんだ、ほんとは素直でいい子達だな、この野郎。

「つまり、なんだかんだ言っても、夏菜のことが気になるんだろ? 友達として」

 友達を強調してそう言いつつ、大樹は俺の前の席にどっかりと座り込んだ。

「まあな。俺はまだ女と付き合ったこと一度もねえし、夏菜もそうだろ。だから、ちょっと気になったわけだ。つうか、話が唐突すぎるっての」

 俺の言葉に、大樹はクスクスと笑ってから「そうか」と言葉を発した。そして、大樹はおもむろに席を立つと、麗美の傍に立ち、麗美の腰に手を当ててぐっと自分の方へ引き寄せて、麗美の肩を抱いた。って、おいおい……。

「純。付き合うって事は、こういうことだ」

 そして、大樹は麗美の唇に自分の唇を軽く重ねた。うん。フレンチキスってやつだな。

「っへへ。分かったか、純?」

 おお、なるほど。なんて分かりやすい答えだ。さすが大樹。我が親友。

「てめえ、表出ろ、ごらあ!」

「うるせえ! さっきの仕返しだ!」

 んで、取っ組み合う俺と大樹を、慌てて麗美が仲裁に入りましたとさ。


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