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35.説教

 一棟の校舎は二年の教室のエリアだ。と言っても、別に縄張りを主張する猿でもあるまいし、昼休みには他の学年の生徒もうようよ二年のエリアにはいるので、別に南がここにいてもそれは何の不思議もない。

 ただ、昼休みにわざわざ南がこちらにまで出向いてくることを予想していなかっただけだ。だって、前も傘返してくれた時、南は昇降口でずっと俺が来るのを待ってくれてたし。

 とりあえず、南に気付いた俺は挨拶がてら、声を出した。何のために南がここにいるのかなんて、南の性格を思えば考えるまでもない。

「よ、よお、南。昨日は大変だったな。もう、平気なのか?」

 俺の言葉に、南はおずおずと声を返してきた。

「あ、はい……。あの、昨日は――」

「ああ、いいよ。気にすんな。悪いのは全部大樹のクソヤロウだ」

 無意識に毒を吐いていたことに気付いたのは、南が目を丸くして俺を見ていたからだ。俺はごまかすように頭を掻いてから、はは、と笑って見せた。うん、こりゃ当分大樹とは普通に話せもしねえな。いや、だって、八つ当たりって分かってるけど、胸が痛いんだもん。いつの間にか「フラストレーションは大樹へ」が癖になってら。

「そ、それより、あの後平気だったか?」

 気を取り直して、俺は声を出した。

「親とか、すげえ心配してたろ。ごめんな。俺、南の家どこか知らなかったからさ。お前のケータイ勝手に開けて、自宅に電話かけて迎えに来てもらったんだ。あ、勝手にケータイいじったのも駄目か。わり」

「あ……そんなこといいです。こっちこそ、すごい迷惑かけちゃって本当にすいませんでした」

 そう言って、丁寧に頭を下げてくる南に、俺は苦笑した。

「いいって。気にすんな。俺も気にしてねえから」

「はい……。それで、あの――私、変なことしませんでした?」

 南の唐突な言葉に、俺は思わず「へ?」と間抜けな声を漏らしていた。そんな俺を見て、南は言いにくそうに声を出す。

「昨日、私お酒飲んじゃってから先の記憶が曖昧なんです。なんだか、すごく恥ずかしいことしちゃったような覚えがあるんですけど……」

(私……先輩のことが、好き……)

 って、ええ! 昨日のこともしかして覚えてんの!?

「あの……先輩?」

 冷や汗をかきながらうろたえている俺を、不安そうにうかがってくる南。うん、そうだよ。君は昨日の夜俺に(ってか、別の先輩だよね?)告白したんだよ。って、言えるかっ!

「い、い、いや……べ、べべ別に何もなきゃた――な、なかったぞ? き、きっと夢でも見てたんじゃないのかにゃ――なあ……」

 少しの間俺をじっと見てから、南は息をついた。

「そう……ですか。やっぱり、そうですよね」

「うん、うん。そうだ。そうに違いない」

 ……た、助かった――!

「と、ところで、南」

 はい。ここぞとばかりにすかさず話を逸らすは、腰抜けの奥義だってばよぅ。この呼吸をマスターしたければ、君も精進したまえ、はっはっは。

「わざわざ昼休みに来てくれなくてもよかったんだぞ。ほんと律儀だな、お前は」

「あ……いえ。今日、朝起きて昨日のこと聞いたら、合コンのこととか、お酒のこととか、お母さん気付いてなくて。それで、話聞いてたら、私の友達がどうこうって言ってたから――」

「ああ、それはな」

 そう言って、昨日の出来事を南に話してやる。

 昨日、南の親が迎えに来る前に、夏菜が南を自分の家に運ぼうと言い出したのだ。昨日、南のことを夏菜に話したのだが、その話から察するに、南はおそらくこういうことで親を心配させたことは一度もないだろうと夏菜が言い出し、だったら、余計な心配をかけさせないために、と夏菜が一計を案じた。

 まず、夏菜が南の友達のふりをする。そして、今日は夏菜の誕生会を家で開いていたと嘘をつき、羽目をはずしてコップ一杯のアルコールを南に飲ませてしまったことにする。そこでその嘘に安心感を持たすのは、紗枝さんだ。保護者が一緒だとそうではないのとでは、その印象に雲泥の差が出るというものだ(つーか、昨日紗枝さんが電話に出なかったのは、その時に限って、たまたま外にビールを買いに出てたからだとか)。

 案の定、南の母親はそれを聞いて、眠っている南を車に寝かせながら、苦笑していた。あの様子なら、大丈夫そうだと思っていたが、どうやら、うまくいったようだな、うん。

 さて。説明を終えると、南はほっと息をついた。

「ありがとうございます。ウチの親、そういうことにすごく厳しい人だから助かりました」

「はは。じゃあ、合コン行って酒飲みましたって言ったら、南のお母さんどんな顔したかな。それはそれで見てみたかったな」

「もう……先輩」

「はは、冗談だって。それより、その友達役を演じてくれた夏菜にも礼を言いに来たってワケか」

「あ、はい。放課後だと、私も部活があるし、すれ違いになっちゃうかもしれないから」

「なるほど。だったら、俺から夏菜によろしく言っといてやろうか」

「そんな。ちゃんと直接お礼しなきゃ」

 そう言ってくる南に、俺は「はは」と笑った。

「そう言うと思った。さすが、忠犬ハチ公だ。今日からお前のことをハチと命名しよう」

「犬と一緒にしないでください」

 そう言って、控えめに俺の腕を押してくる南。ってやべ。膨れてじゃれてくる南に、一瞬ドキッとしちまった。いや、だって、今まで南がこんなに俺に近付いてくることなんてなかったしっ(シラフの時でね)!

「あっと……。じゃあ、夏菜のとこ案内してやるよ」

「あ、はい。すいません」

「――っと、その前に一つ説教していいか」

 そう言って、俺は南に目をやった。南は、きょとんとして俺を見返した。

「お前さ。もっと自分を大切にしろ」

「え……」

「いや……なんつーのかな。お前って、いつもなんか周りに遠慮してるっぽいし。あんまり、自分の意見周りに主張しないタイプだろ」

「あ……はい」

「それを否定する気はねえよ。それって南が人のこと思いやれるってことじゃん? でもさ、昨日みたいに、嫌なことも断れずにずるずる周りに流されるってんなら、それは直した方がいいと思う。だって、昨日お前を連れて帰ったのがもし俺以外の奴だったら、今頃お前、すっげえ傷つくような目に遭ってたかもしれねえだろ」

「先輩……」

「そんなの、自分だけじゃなくて、お前のこと大事に思ってる人だって悲しむぞ。だから、これからは嫌なことは嫌だってきちんと言えるようになったほうがいいと思うんだ」

 俺の言葉に、南は申し訳なさそうに顔を伏せた。

「……はい」

「……よし。分かればいい。説教終了」

 そう言って、ポンと南の頭を叩いてから、俺は笑った。

「いこうぜ」

「はい」

 顔を上げた南は、嬉しそうに微笑んでいた。





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