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31.突然の告白

 事の発端は、一週間ほど前。南が二年生の部活の先輩に、俺のことを知っているかと訊いたことから始まったらしい。その二年生の先輩が随分な姉御肌で、南が俺のことを好いていると勘違い。そして、俺がちょうど失恋していることを知ったその姉御が大樹と結託。この合コンの開催に至った――と。

 それで、南が先輩にここに呼び出されたという話にも納得がいく。新しい出会いなどとうそぶいていた大樹の魂胆もつまりそういうことだ。

 しかし……。

 なぜ、俺は今、酔いつぶれた南を背に担ぎ、家路を辿っているのだ……。

 いや、分かってる。こうなった経緯はもちろん分かってるけどもさ。

 ――あの後、合コンも終盤に差し掛かったところで、大樹が「ゲームしようぜ!」と言い出し、なぜかビールを注文。そして、一人ずつ歌を歌って、一番点数の低かった者が罰としてそのビールを飲み干す、という至ってシンプルなゲームのルールを説明した後に、早速ゲーム開始。しかし、カラオケなど今日来るのも初めてだという南が、人前でまともに歌など歌えるはずもなく、あえなく最下位に。そして、その場の空気に逆らえず、中ジョッキ一杯のビールを飲まされた南は、その場でバタンキュー。流れから、俺が南を家まで責任を持って送るハメに。はい。敵の思惑通りに事は運ばれました。

 しかし、一番気の毒なのは俺などではなく、南だ。部活の先輩からの誘いでは、断るわけにもいかず、仕方なく向かった先は、なんと合コン会場だったというのだから。そして、よりによって好意を抱いていると勘違いされてる相手が、よりによって俺。俺だもの。お兄さん、この娘が不憫ふびんで仕方ないよ。ほんに、こんなええ娘がなあ……世の中ほんとに間違っとるわぃなあ……。

 そして、何より情けないのは、そんな敵の魂胆を知りながら、指をくわえて見てることしかできなかったこの腰抜けです……。いや、だって、俺びっくりして魂抜けてたんだもん。いきなり南が俺のこと好きなんて言うから(もちろん、本人が言ったわけではないが)。

 でも、安心してくれ南。二次会に繰り出した大樹のヤロウは、今頃地獄を見てるから。うん。麗美にこのことキチンと報告しといたんだよ。今頃、鬼にトランスした麗美に大樹はこってり絞られてるだろうさ。俺抜きの二次会、の時点で言い訳もできないしね?

 ご安心くだされ。貴殿の仇はそれがしが取っておきましたぞ……!

 はあ……しかし、困った。南の家の住所を俺は全く知らないのだ。とりあえず、今は俺の家に向かって、夜道を歩いてるんだけども……。

「んー……むにゃ……」

 時々、南が寝ぼけてほっぺたを俺のクビ元にり寄せてくるんだよなぁ……。いや、このこそばゆい感覚はなんとも言えず、心地いいのだけど、なんか南に悪いわけで……。

「むにゃ……」

 とにかく、のぼせちまう前に(俺が)速攻で帰ろうか。







 何とか我が家に到着した俺は、急いで玄関の鍵を開け、中に上がった。さすがに、三十分以上、人一人おんぶして歩き続けた俺の体力は、もはや残っていないわけで、早く南をソファにでも寝かしてやりたいのだが……。

 ソファに南を座らせて、寝かせてやろうとしたら、寝ぼけた南が俺の首に腕を回して来ました……。

「お、おい、南……」

「んー……先輩……水ぅ……」

 しかし、本人に意識はないようで、俺はそっと南の腕から逃れた。

 はあ……やばかった。一瞬、ドキッとしちまったぜ。

 とにかく、気を取り直して流しでコップに水を汲み、南に持っていってやる。

「おい、南。水だぞ。起きられるか?」

「んー……」

 ソファに仰向けに寝た南が、顔をしかめて虚空に手を伸ばす。俺は苦笑してから、コップをテーブルの上に一旦置いて、南の体を起こした。

「ほら、水だ。飲めるか?」

 テーブルからコップを取り、南の口元に持っていってやる。すると、南はおぼつかない動きでコップを両手で掴み、チビチビと水を飲みだした。

「んー……もう、飲めませんから……」

 そう言って、まだ半分以上水が残っているコップを俺に押し付けてくる南。しかし、それにはアルコールは入ってはいないぞ、南よ。

 俺は苦笑してから、南からコップを受け取り、ソファから腰を上げ――ようとして、バランスを崩した。南が、不意に背後から俺の手を掴んで、後ろに強く引っ張ってきたのだ。

「わ……!」

 思わず、手からコップを落としてしまい、水が南の服を濡らした。しかし、もっとまずいことに、バランスを崩してソファの上に倒れこんだ結果、俺は南の上に覆いかぶさる形で倒れこんでしまった。

 柔らかくて、暖かい感触が、俺の体のすぐ下にあった。南の吐息が、俺の耳をくすぐる。はっとした俺は、慌てて体を起こそうとした。でも、それを引き止めるように、南は下から俺の首に腕を回してきた。

 ほんの少しの静寂の中で、俺は金縛りにあったように動けなかった。そして、南の声で俺は完全に金縛りにあった。

「……私じゃ、駄目ですか?」

「え……」

「私……先輩のことが、好き……」


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