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30.意外な顔合わせ

 さて。本日の合コンはカラオケ合コンということで、俺と大樹は「カラオケ・パラダイス」というカラオケボックスに到着。そして、女の子四人と引き立て役の哀れな男二人の待つ個室を外から覗いてみると、そこには想像以上の悲惨な光景が広がっていた。

 ソファの端っこに身を寄せ合って座り、無言でうなだれている野暮ったい男が二人。そして、向かいのソファには、仏頂面で携帯をイジッている女の子が三名と、なんか、気まずそうに俯いてる女の子が一名。はい。カラオケボックスにまで来て、歌を歌わない現場に立ち会ったのはこれが初めての経験でございます。その光景を見て、さすがの大樹も一言ボソッと呟きました。

「や、やりすぎたか……」

 しかし、こと女関係においては転んでもタダでは起きない大樹のこと。気を取り直して部屋のドアを開けると、大樹は威勢良く個室の中に入っていった。

「いよー! お待たせー!」

 ただでさえ高かったテンションを更に上げ、戦場へ赴く大樹のアホ面を目の当たりにし、俺は早くもここに来たことを後悔した。いや、だって、ほら。大樹の登場で女の子たちが途端に機嫌直してはしゃいでるよ? ソファの端っこで縮こまってる彼らは、その瞬間、正真正銘の引き立て役に。うう、なぜか、お前らの無念の気持ち、俺には痛いほど分かるぜ……。いや、分かりたくねえけど、どっちかというと、俺もそっち側の人間っぽいからね?

 などと、悲しいことを考えていると、大樹がドアを開けて、中から顔だけを出して「おい、なにやってんだよ。早く入って来い」と、外で突っ立っている俺に声をかけてきた。

 いや、いや、この腰抜けにこの気まずい空気(あくまで、引き立て役男視点)の中、突撃しろと?

「わ、悪ぃ、大樹。俺やっぱ、帰るわ」

「あ? 馬鹿言ってねえで、さっさと来いって」

 そう言って、大樹は俺の腕を掴み、無理やり俺を部屋の中に引っ張った。

「お、おい……!」

 抵抗するも、あえなく部屋の中に引っ張り入れられる俺。そして、女の子たちの視線が一斉に俺の元に。

「はい! こいつ、俺のダチの長谷川純でーす! ちなみに、こいつ失恋ほやほやの身だから、みんな慰めてやってね!」

 って、うぉい! 何余計なこと口走ってやがんだ、てめーは!

 しかし、大樹に掴みかかる前に、女の子たちの好奇の視線にさらされ、俺は固まった。いや、だって、女の子みんなよく見れば、めっさ可愛ゆいんだもん……って、ん?

 女の子の中で一人だけソファに大人しく座っている女の子にふと目を向けて、俺は驚きのあまり、目を見開いた。そして、彼女は俺と目が合うと、おずおずと俺に頭を下げてきた。

「み、南……?」

 ……うそぉん?







 いや、いや、いや、人は見かけによらないというが、まさかこのような俗な場に南がいるなどと誰が想像できただろう。いや、大人しそうな人間ほど裏ではなにをしているか分からないというし――。

「先輩にカラオケ行こうって誘われて来たんです。こういう集まりだなんて知らなかったから……」

 ――なんて、疑ったりしてすいませんでした。

 さて。只今、大樹君は女の子三人を相手にくっちゃべりまくり、両隣に女の子を座らせたそれは、もはやキャバクラの様相を呈しています。そして、俺はというと、南の隣に座り、とりあえず、お話でもというわけで。

 それにしても、今日の南はいつもとかなり雰囲気が違った。普段制服姿しか見たことがないから、私服姿の南を見て雰囲気が違うと感じるのは当然なのだろうけど。それにしても、アイボリーの明るめのワンピースに、フリルのついた黒のカーディガンを着こなす今の南は相当可愛かった。おまけに、いつもおさげにしている髪を、今日は普通に下ろしてるものだから、遠目からは(部屋の外から中を覗いた時とか)南だとは気付かなかったぐらいだ。

「な、なんていうか、今日はいつもと雰囲気違うな、南」

 といっても、南と会うのもおよそ一週間ぶりなのだが。うん。裏庭で相談を受けて以来、南とは一度も顔を合わせてませんから。

「あ、急に呼び出されたから、髪を括る暇がなかったんです。や、やっぱり、変ですかね……」

 そう言って、南は自分の髪を恥ずかしそうに撫でながら、目を伏せた。

「え? いや、変なことないぞ。可愛いって」

「え……」

「普段おさげにしてる南もいいけど、俺はどっちかというと、今の方が好きかな」

「ど、どうも……」

 そう言って、顔を赤くする南に俺は、ぽりぽりと頭を掻いた。いや、それにしてもこれが合コンというものか。まあ、これが標準とは思わないが(大樹が女独占して、端っこで男二人が落ち込んでるし)、やっぱり、こういうのは俺の性に合わないみたいだ。いや、もちろん馬鹿騒ぎするのは嫌いじゃないが、やっぱり、それも気心の知れた奴らとじゃねえと、落ち着かねえよ。

 ――そういや、夏菜ともよくカラオケ来たよな……。

「あの……長谷川先輩?」

「ん? あ……な、なに?」

 一人でブルー入ってるところで、横から聞こえてくる南の声に気付き、俺は慌てて南の方へ顔を向けた。

「さっき、先輩の友達が言ってたこ」

「ねえねえ、君さあ。彼女に振られたってほんとなのぉ〜」

 南の声を遮り、突如割り込んできた無遠慮な声に、俺は慌てて右隣に顔を向けた。すると、さっきまで大樹とくっちゃべっていた女の子の一人が、いつの間にか俺の右隣に座っているではないか(南は左隣に座ってる)。ついでに、大樹の奴は女の子二人を引き連れ、なんかテンションのやたら高い歌を歌い出した。

「ねえねえ、どうなの?」

 やたら、露出度の高い服を身に着けたその女の子は、遠慮のえの字も知りませんというような顔をして、俺の肩にタッチして、ゆさゆさと揺さぶってきた。

「は? い、いや、別に彼女とかそんなんじゃないから――」

「えー、じゃあ、片思いだったんだ?」

「え……いや、まあ……」

 って、南の前で何白状さすねん君! とは思いながらも、その後の女の子の質問攻めに、僕の心は丸裸にされた次第で。

「ふーん。そっかー。好きな娘に彼氏ができて、間接的に振られちゃったんだ。でも、私だったらちゃんと自分の気持ち伝えると思うな〜。ね、南ちゃんはどう思う?」

「え……!」

 突然の女の子の無茶振りに、俺は慌てて南に顔を向けた。

「え……わ、私は――」

 俺と目が合って、気まずそうに目を伏せながらも、南は声を出した。

「――黙ってると思います。好きな人を困らせたりしたくないから……」

 ……おお、南。君はなんていい子なんだ。まさに、僕も君と同じ答えだよ。

「ってか、南ちゃんって好きな人がいても絶対気持ち伝えられないってタイプだよね〜」

「……」

 ……確かに。

「で? 南ちゃんは今好きな人いるわけ?」

「え……!」

 突然の女の子の質問に、南は慌てた様子で俺に目を向けた。って、いや、そこでなぜ俺を見る南よ。そして、なぜ、うな垂れる?

「はい……。います」

 ――って、いるの、君!

「え、マジでー! 南ちゃんったら、好きな人いるのに合コン来てんの! 見かけによらず、軽いんだー!」

「ち、違います! そんなんじゃ――」

「へえ? じゃあ、今日来てる男の子の中にその好きな人がいるとかー!」

「……!」

「あ! 顔赤くなってる! 図っ星〜!」

 そう言って、南を指差して無邪気に笑う、女の子。そして、南はその場の空気に耐えられず、「トイレに行ってきます」と言い残して、逃げるように部屋を出て行ってしまった。

 いいように遊ばれてるな、南……。

「あはは。見た、あのリアクション。あの子、絶対男と付き合ったことないよ」

「……君ね。南は生真面目なんだから、あんまりからかうなよな」

「えー、からかってないよぉ。だって、南ちゃんの好きな人って、ほんとにこの中にいるもん」

「え……!」

 女の子の言葉に、俺は思わず女の子に顔を寄せて、小声を出した。

「マ、マジで?」

「うん。ってか、この合コンもあの子のために開いてるようなもんだし。あの子、見るからに奥手だもんね〜」

「……」

 マ、マジか……? この中に南の好きな男が――。い、一体誰だ?

 俺は素早くソファの端っこで落ち込んでいる引き立て役の男二人に目を走らせた。うん。こいつらは却下だ。ということは消去法でいくと――。

 俺は女の子二人と仲良く熱唱している馬鹿に目を向けた。

 ――み、南……止めとけ……あいつだけは、止めとけ。お兄さん、悪いこと言わないから……。

「――で? 君的にはどうなの? 南ちゃんみたいな子」

 愕然とノリノリの大樹を見ていると、横で女の子がそんなことを言って、俺の肩に手を置いた。

「は? ……俺?」

「うん」

「いや、なんで俺が出てくるわけ?」

「え? だって、南ちゃんが好きなのって君だし」

 女の子の爆弾発言に、俺の意識は一瞬宙をさ迷った。


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