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20.女心

「うわ、サイテー」

 昼休み。ざっくりと切り傷のついた僕タンの心に荒塩をなすり付けるは、我がクラスメイトにして大樹の三十七番目の女、麗美れみだ。

「純君って女心が少しも分かってないよね。ってか、デリカシーなさすぎ。そりゃ、夏菜だって怒るよ」

 荒塩を擦り付けた上から、容赦なく俺の心を足蹴にしつつ弁当をつまむ麗美に、俺は反論のはの字も言えず、机の上に突っ伏した。ってか、お前は弁当のつまみに俺の心を足蹴にするんじゃないよ!

 さて。登校して間もなく、不屈の闘志を見せ、教室で自分の席に着いていた夏菜に「お、おはよ」と声をかけたところ、見事にシカトされて教室から立ち去られました。そんで、その様子を訝しんだ大樹と麗美が昼休みまで待って、俺を尋問。そこで、腰抜けの僕は全てを白状しちゃった次第で(つっても、もちろん、俺の心理状態は伏せてだけど)、麗美に心をズタボロにされてるわけで。

「まあ、そう言ってやんなよ、麗美。純の事だって考えてやれよ」

 机に突っ伏し、光の差さない奈落の底に突き落ちた俺をかばってくれるのは、おお、心の友、大樹様。そう。なんだかんだ言って、いつだって君は最後には俺の味方でいてくれたよね。

「この先、目の前で好きな女が他の男とイチャついてんの見ていかなきゃなんねえんだぜ。俺だったら、みじめ過ぎて絶対耐えらんねえよ。自殺もんだぜ。なあ、純」

 そう言って、俺の肩に優しく手を置く大樹。っふ……。大樹。お前って奴は――。

「表出ろ、ごぉらあ!」

「うわ! ちょ……落ち着け、純!」

 全ての悲しみを怒りに変え、俺は大樹に掴み掛かった。そうだよ。大樹はそうやって俺をあおることで、自らサンドバッグとなり、俺の鬱憤うっぷんを晴らそうとしてくれてんだ。ちくしょう、大樹。お前って奴は、親友の鏡だな。

「おい! そうだよ、以降全部口に出てんぞ、お前! 勝手に都合のいい解釈してんじゃねえよ!」

「るせえ! てめえは親友の鏡として黙ってサンドバッグにならんかい!」

「なんだそりゃ!? ってか、ぶっちゃけ俺はてめえをからかいたいだけなんだよ!」

「おお、本性表しやがったなこの性悪がぁ! 親友として、その根性ぼこぼこにして海の藻屑もくずにしたらぁ!」

「上等だ、ごらあ!」

「……いい加減にしろ、二人とも」

 麗美のものごっつい低い声が、俺たちの動きをピタリと止めた。そして、俺たちは二人揃って互いの襟首を掴み上げたまま、恐る恐る声の元を辿る。すると、どうだ。俺たちのドタバタのせいでいつの間にか机がひっくり返り、麗美の弁当が無残に床の上にひっくり返っているではないか。

「も、申し訳ありませんでした……」

 俺と大樹は、取っ組み合ったままの状態で、声を揃えて麗美に謝った。

「もう……馬鹿やってる場合じゃないでしょ。冗談抜きで、夏菜相当怒ってるよ」

 せっせと床を掃除する俺と大樹を横目で見ながら、麗美はため息をつきつつ机に頬杖をついた。そして、弁当の残骸を片付け終えた大樹が、麗美の隣に椅子を寄せて座りつつ、無神経な言葉を発した。

「あれ。そういえば、夏菜ってどこ行ったの? 昼休みに入ってからいなくなってるけど」

「弁当二つ持って金田先輩のところ。夏菜もあれで、結構頑固だからね」

 そう言って、麗美はじとっと俺を睨んだ。

「――で、どうするの、純君」

「どうって……やっぱ、謝るしかねえだろ。悪いのは俺なんだからな」

「つっても、シカトされてんじゃ謝りよ」

「余計な茶々入れない」

 そう言って、麗美は大樹のわき腹に容赦ない肘打ちを入れた。しかし、悶絶する大樹を歯牙にもかけず、麗美は俺を見つめたまま、言葉を発した。

「純君は謝るだけでいいの?」

「え?」

「昨日も言ったよ。気持ち。伝えなくていいの」

 真面目な顔をしてまっすぐ俺を見つめてくる麗美の目をまともに見返すことができず、俺は麗美から目を逸らした。

「あ、あのな。俺は別に夏菜のこと」

「純君が理由もなく夏菜を傷つけるようなことするわけないよね。それでも、夏菜を傷つけるつもりじゃなかったのに、そうしちゃったのは、自分の正直な気持ちに逆らえなかったからじゃないの?」

 ……うわ。あなた様は、どこの超能力者様ですか?

 俺は、麗美の言葉に対する言い逃れを頭の中で考えてから、それが無駄であることを悟って、小さく息を吐いた。

「今更そんなこと言っても、夏菜を困らせるだけだろ。あいつは、金田先輩のことが好きなんだからよ」

 俺の言葉に、麗美は心底憂鬱そうに、深くため息をついた。

「な、なんだよ」

「ほんと、純君って女心が分かってないね」

 ――はい?

 恐らく、今の俺は随分な間抜け面を麗美に向けているのだろう。俺を見て、麗美は呆れたように笑って見せて「ま」と短く声を出した。

「今、私から言ってあげられるのはここまでだよ」

 そう言って、麗美は椅子から腰を上げた。

「まずはがんばって謝って。とりあえず、私は純君のこと応援してるから。じゃね」

 ひらひらと手を振って教室を出て行く麗美と、その後を追う大樹を見送る。

 ……いや、言ってることさっぱり意味分かりませんから。

 つーか、女心って。そんな男に装備されてねえ未知なモン分かるわけなくね?

 女心、女心、女心、女心……。一人になってひたすら考えているうちに、心地のいい眠気が俺の意識を包み込み始めた。

 女心を子守唄に、俺は夢の世界に羽ばたいた。駄目だ、こりゃ……。



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