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1.優雅な朝

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 チュンチュンチュン……。

 小鳥のさえずりが窓の外から聞こえてくる。しかし、それは朝の来訪を爽やかに俺に伝えはすれど、人間の三大欲求のうちの一つに包まれ、おまけに布団にまで包まれた俺をそこから呼び覚ます力は持ち合わせていなかった。もちろん、目覚まし時計の忌むべき能力は昨晩のうちに封じておいた。これで、目覚まし時計も、ただの置時計に成り下がったわけで、この心地いい朝を満喫しながら、俺は優雅に夢の世界を――。

 ジリリリリリリリリリリリリリ!

 夢の世界を――。

 リリリリリリリリイリリリ!

 満喫――。

 リリリリリィィリリリィリリリリ!

「だああ! うるっせえええええ!」

 唐突な目覚ましのアラーム音に夢心地を吹き飛ばされ、俺は思わず包まっていた布団を投げ捨て、上半身をガバッと起こした。そして、寝ぼけ眼の俺の目に映りこんできたのは、幼馴染の夏菜かなの笑顔だった。

「おはよう、じゅん。朝っぱらから随分ハイテンションだね」

「あ……? あ、ああ……お、おはよ、夏菜」

 俺が普通に挨拶を返すと、夏菜はにっこりと微笑んで目覚まし時計のアラームを切って、普通に俺の部屋から出て行こうとした。

「――って、ちょっと待てぇ! なんでいんの! お前がなんで俺の部屋にいんの! そして、なんで何の説明もなしにしれっと部屋から出て行こうとしてんの!」

「おお。期待通りの反応だ。さすが、純だね」

「……いや、意味が分からねえ。つうか、頭いてえ……」

「それは、朝からそんなにテンション上げてたらねえ」

 そう言いつつ、片手に目覚まし時計を持った夏菜がおかしそうに笑う。夏菜の手に持たれた目覚まし時計に目をやって、俺は自分にできうる限りの怖い顔を作りこみ、夏菜を睨みつけてやった。

「俺の優雅な朝を台無しにした犯人はお前か」

「ううん。私じゃないよ。この子だよ?」

 そう言って、夏菜は笑顔で手にした目覚まし時計を上に掲げた。

「そいつの封印を解いたのはお前だろうが!」

「誤解だよ。この子が自らの力で限界を突破したんだよ。私はほんの少しその手助けを――」

「だから、お前が目覚ましのアラームのスイッチ入れたんだろうが!」

「あはは。うん」

 怒り狂う俺を見て、可笑しそうに笑う夏菜。ちくしょう。ここでいくら怒っても、こいつを喜ばせるだけだ。にしても、相変わらず可愛い顔して笑いやがるな、こいつは。

「ん? どしたの? 私の顔に何かついてる?」

 思わず、夏菜の顔を眺めていると、夏菜がきょとんとした顔で俺に顔を近づけてきた。いや、近い、近い、近いから。

「あ、ああ……。なんか、ほっぺたにニキビが」

 苦し紛れの照れ隠しにそう言葉を発すると、夏菜は手にした目覚まし時計を容赦なく俺の顔面めがけて投げつけた。至近距離から飛んできた目覚まし時計は、見事俺の顎にクリーンヒット。

「うげ!」

「失礼ね。ニキビなんてないわよ。今朝ちゃんと顔洗ったときに確認したんだから」

「……さいですか」

 目覚まし時計って凶器になるんだ……。

「って、そんなことより、なんで夏菜が俺の部屋にいるんだよ」

「え? ……うーん。とりあえず、話せばいろいろ長いんだけど」

 そう言って、人差し指を顎に当て、上のほうを見る夏菜。その隙に俺は投げ捨てた布団を拾い、ベッドの上に寝転がった。

「あ! ちょっと、純!」

「ご苦労、夏菜二等兵。上官には私からよろしく言っておく。君は戦場(学校)に向かってくれたまえ。幸運を祈る」

「な、なにそれー! ちょっと、馬鹿純! せっかく起こしに来たげたのに!」

 いや、誰も頼んでませんから。つーか、誰だ。こいつをよこしてきやがった奴は。考えられるのは……親父か。

「ちょっと、純! 起きてよお! 私まで遅刻しちゃうじゃない!」

 布団の上からゆさゆさと俺の肩を揺らす夏菜。目覚まし時計は今俺が布団の中で抱え込んでいるので、使えまい。ザマーミロィ。

「ちょっと、純! 純!! 純ー!!!」

 布団越しに夏菜の甲高い声が響くがなんのその。その程度で俺の睡眠欲が破れると思うな、未熟者。二度寝に入った俺を起こしたければ、目覚まし時計を十個は用意して出直して来るがいい。

 やがて、夏菜の声が聞こえなくなり、しつこく揺さぶられていた振動もピタリと止んだ。夏菜が諦めて部屋を出て行ったことを確信した俺は、布団の中で一人ほくそ笑んだ。のだが――。

 なにやら、背後で布団がもぞもぞと動く感触が伝わり、その後、布団の中でまたもぞもぞと動くものが俺の聖域(布団の中)に侵入してきたではないか。ちなみに、ベッドは部屋の壁際に設置されていて、俺は壁と向かい合って寝ているわけだ。そして、何か暖かいものがヒタリと俺の背中にくっついてきたわけだ。

 その、柔らかく、不思議と優しいぬくもりを帯びたそれに、不覚にも興味を惹かれた俺は布団の中で寝返りを打った。すると、どうだ。なぜか、目の前には、夏菜の顔があるではないか。

「……起きて、ハート

「……!」

 上目遣いで俺を見つめた夏菜は、俺の胸に頭をもたげ、ぴったりと体を寄せてきた。一瞬で強制的に目覚めさせられた俺と、俺のマイサンは思わず一緒になって立ち上がっていた。

「な、な、なにやってんだ、おめーは!」

 ベッドの上に立ち上がり、横に寝そべっている夏菜をビシっと指差す。が、夏菜は悪びれもせず人懐っこく笑い「あはは。目、覚めた?」と言いつつ体を起こした。が、すぐに夏菜の笑顔は引きつり、ある一点に目を留めたまま、夏菜の表情はピシっと固まった。

 解説しよう。夏菜はベッドの上で体を起こした。つまりベッドの上に座ってる。俺はベッドの上で立ち上がり、夏菜を指差してる。そこで、注目すべきは今のやり取りで強制的に立ち上がってしまった俺のマイサン。いや、決して夏菜でこうなったわけではなく、朝の生理現象でもともと少し固まっていたのが、夏菜のせいで完璧に目覚めてしまったわけだ。そして、これは神のイタズラか。立ち上がった俺のマイサンは配置的に夏菜の目の前で元気よく朝のご挨拶 ――て、やべえ! 呑気に解説してる間に、夏菜の顔がみるみる赤くなっていく!

「い、い、いや……。か、夏菜? こ、ここ、これはね?」

「純の馬鹿ーーー!!!」

 狙ったのか、狙っていないのか。そんなことは夏菜本人に聞いてくれ。とにかく、俺から顔を背けながら放たれた全力の右ストレートは、見事に俺のマイサンにぶち込まれたわけで。

「はおおぉおぉぉおおおぉおおお!!!」

 泣きながら俺の部屋を飛び出していく夏菜の姿が、激痛の中でうっすらと見えたわけで。泣きたいのはこっちだと言う気力もなく、俺はマイサンを抱え、しばらく地獄の中をさまよう羽目になった。


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