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異世界から来た不良召喚術士  作者: 平位太郎
第1章 異世界転移で山賊に再就職!
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第五話 行き倒れ

名前:沢渡 弘

レベル:3

職業 :不良

力:23

知力:8

賢明度:20

素早さ:20

耐久力:25

魅力:15

MP:15


 表示内容が古くさい。一昔前のテーブルトークRPGか何かか?

 ゲーム紛いの表示画面に構ってる場合ではないのだが、それでも弘の意識はステータス画面に向かう。


(いきなりレベル3? あのゴブリンとかを倒したからレベルアップしたってのか?) 


 弘のゲーム経験上、ゴブリンレベルのモンスター数匹と4回ぐらい戦ったなら、レベル2~3ぐらいになる程度だろう。


(レベルアップの概念があるとか、この世界、マジでゲーム的な異世界か? ……って、異世界ってなんだよ?)


 自分で考えて、思わず自分で突っ込んでしまう。

 アレか? 漫画とかでよくある異世界転移モノか?

 トラックに撥ねられてドーン! で、別の世界に来ちゃいましたってか?


(あったあった、そんな漫画とかアニメ……)


 高校の頃はバイクや特攻服バリエーションとか、そっち系の世界にしか興味がなかったが、中学時代の最初の頃までは漫画やアニメ、ゲームに夢中だったのだ。


(まあ、そっち系も実はおざなりだったけどな……しっかし、異世界ねぇ?)


 異世界転移系の創作物があることを知識として知っているが、我が身に置き換えるとなると納得はし難い。

 はん? 異世界転移? 笑わせるんじゃねーよってなもんである。 

 今時そんな設定じゃあ、お昼のワイドショーで笑いも取れやしないぜ!

 と、古いアニメのセリフを流用し、今起こってる不思議な現象を指折り数えてみる。

 まず、トラックに撥ねられて怪我一つしてないこと。見知らぬ山中……明るくなってわかったことだが、木々や藪の切れ間から山肌が見えている……に拉致されたこと。ゲームモンスターみたいなゴブリンっぽい連中に、何度も襲撃されていること。


(二本足で歩いて刃物を使える奴を、何体か殺しちまったんだよなぁ……思い出したら吐きそうになってきたぜ。あと、一番ヤバイのはコレだ)


 さっきから眼前で出しっぱなしの、浮きっぱなしなステータス画面。

 こんなモノを延々見ていると、やっぱり異世界に来てしまったのではないか……と思ってしまう。


(だいたいなんだよ。MPってマジックポイントって奴か? 俺、魔法とか使えるんか? それにしちゃヒットポイントっぽい、HPとかLPなんかがないけど)


 生命力は数値化されてません……ということなのだろうか? そういうゲームもあるにはあるが、体感すると不親切な仕様だと思う。


(そもそも、生命力なんて数値化してないのが当たり前だけどな。俺の世界では……)


 そして大いに気に入らないのが、『職業:不良』という項目であった。

 他人からどう見えようが、弘は不良から足を洗ったつもりなのである。まともに採用されないだけで、就職活動だってしてるし。バイトもクビになるまでは真面目にやってる。

 まあ、ゴブリンと戦ったときは本性というか、慣れ親しんだスタイルが出た感じだが、それでも自分は社会人なのだ。


「葬儀場のバイトは確実にクビだろうから、また無職だけどな……」


 ともあれ休憩終了。

 弘はステータス画面を……消えろと思ったら消えたので、そのままにして再び歩き出した。

 人間、3日間飲まず食わずだと死ぬと言うが、今のところは平気である。

 腹は減りきってきつい感じだが、まだ行動に支障はない。

 我ながら頑丈で助かったと思うが、これが4日目、5日目となると無事でいられる自信はなかった。

 野生動物とか捕まえるの無理っぽいよな。そういや、ゴブリンって食えるのかな?

 ああでも、ライターを使い切ったからナマで食うことになるのか……。


(せめて、タバコを吸うのだけでも控えておくんだったな。タバコ自体、もう無くなっちまったけどな……)


 後悔先に立たずと言うが、気晴らしの喫煙すらできなくなった弘は、鬱な気分で歩を進めたのである。




 5日目の朝がやってきた。

 わかったことは、ゴブリンの携行食糧である木の実類が割と食えたこと。

 そして、それらがあまり腹の足しにならないこと……である。

 その場その場の口寂しさを紛らわせることができたはいいが、暫くすると腹がグウと鳴るのだ。

 この2日間で2回の襲撃を撃退したが、その都度、出現するゴブリンの数は減っている。最後に現れたときは3体だけで、その場で残らず殲滅した。

 弘が木の実類の味を覚えたのは、この時のことだ。


「落花生よりマズイが、こう噛んでると唾液も出るし……」


(なんて言うか末期的だよな~)


 これを食べきったら木の皮でも囓るしかない。この木の実は一応自分でも探したが、何処のどの木になってるか見つけることができなかった。


「くそ……ナマのゴブリン肉でもいいから食うんだった」


 ゴブリンの死体の転がってるところまで戻ろうか? いやしかし、体力は限界に近づいている。


「うん?」


 開けた場所に出た。

 最初にゴブリンに襲撃された場所と比べて倍ほども広い。大きく違うのは、正面に岩山風の斜面が見え、大人が立って歩けるほどの洞窟の入口が見えたこと。

 今まで木や藪や草むら、遠くに見える山ぐらいしか見えてなかったので、初めての光景に弘は言葉を無くす。

 とはいえ、洞窟があるからといって、それがなんだというのか?

 今必要なのは食料、そして水である。

 それ考えてみれば、これが熊の巣だった場合、一刻も早く距離をとった方がいい。

 だが、もはや弘は歩くことができなくなっていた。


「腹減るのも行くとこまで行くと……」


(吐くモノもないのに吐きそうな気分だ……)


 意識の途切れる前に弘が考えたのは、そんなことだった。

 



「おら、起きろ!」


 野太いオッサン声で呼びかけられている。

 頭がガックンガックン揺れているのは、実際に揺さぶられているからだろう。


(何てことすんだ、俺は行き倒れだぞ)


 文句の一つも言ってやらなければ!

 だが、弘の口から出たのは次のようなセリフだった。


「水……水くれ……」


 なんとも情けないが、体力的な限界などとっくの昔に突破している。

 その一言を発しただけで、残った気力も使い果たした弘は再び気を失いかけた。

 遠くの方で、また声がする。


「おい、水だってよ!」


「なんだよ面倒くせえな。ほれ、これかけてやれ」


 数秒後。弘の顔面に液体が浴びせられた。

 流れ落ちるそれは口の中にも入ってくるが、味からすると……味はないが真水のようだ。

 また、相手が誰かは不明だが、弘の下顎を掴んで口を開けてくる。そこへ水を流し込まれ、弘はむせながら何度か喉を鳴らした。

 うまい! 叫びたくなる。

 水だけで、こんなに嬉しくなるものか。

 そうして人心地がついた弘は、むせながら身体を起こした。

 最初に目に入ったのは、自分の顔を覗き込んでくるヒゲもじゃの男性。

 ただし、その身なりはファンタジーRPGで見かけるような衣服の上に、革鎧を装着した姿。そして、自分が寝かされているのは、最後に見た洞窟前のようであった。


「おお、躰動かして大丈夫か?」


 革鎧のオッサンが話しかけてくる。

 改めてみると、やはりファンタジーRPGで言う山賊っぽい。周囲には似たような格好の男が4~5人居て、胡散臭そうな目つきで弘を見ていた。

 ……。


(あ、俺、助けてもらったんか!?)


 ようやく思い当たった弘は、その場で正座をすると水をくれた男に頭を下げる。


「水、美味かったです。ありがとうございます」


 礼儀というのは大事だ。

 弘は幾つかのアルバイト経験、そして暴走族での上下関係から、それを学んでいた。

 正座の姿勢に関して男達は怪訝そうにしていたが、頭を下げて礼を言うと、困ったように苦笑する。


「こんな丁寧に礼を言われたのって、生まれて初めてだぜ」


「お前、ひょっとしてイイとこのボンボンか?」


 イイとこのボンボン?

 人相の悪い……顔面に大きな斬り傷がある……男を見て、イイとこのボンボンとは。

 弘は首を傾げたが、そこは素直に答えることにした。


「いや、実家は普通の貧乏暮らしで、俺は……よくわからねーうちに、この辺に迷い込んじゃって」


 ここは何処なのか、本当に居世界なのか?

 あんたら、日本って国を知ってるか?

 そういったことを聞きたかったのだが、グッと堪える。

 こういう時、このような質問をしたら馬鹿にされ笑われるか、頭がおかしい呼ばわりされるのがセオリーだ。なので弘は、当たり障りのない話をしつつ、遠回しに状況を探ろうとした。

 だが、洞窟の奥から声がする。


「おう、お前ら。目がさめたんだってな!」


 大きな声で言いながら出てきたのは、外にいた男達と比べると、かなり大柄な男。

 革鎧を着込んだ服装なのは同じだが、若干、他の者より豪華な印象を受ける。


(このオッサンがリーダー格なのか?)


 筋骨隆々でスキンヘッドの……眼が青い白人に見えた。

 よく見ると周囲の男達も皆、欧米人風の顔立ちで、日本人っぽい人物は一人もいない。

ここで弘を除外して見てみるなら、完全に西洋ファンタジーRPGな1シーンになっている。


(ここまで揃えて、実はドッキリ番組でした……とかだったら、怒りを通り越して笑うところだな。いや……やっぱ怒るか)


 刺したら人が死ぬような刃物で散々斬りつけられて、怪我までしているのだ。これが怒らずにいられようか。

 ともかく、リーダーらしき人物に何か言わなければ……。

 ぐぎゅうううるるるる。

 腹が盛大になった。

 周囲の男達が大笑いする。リーダー格の男も笑っていた。

 流石に気恥ずかしくて弘が赤くなっていると、リーダーは笑いながら眼前で腰を落とし、弘の肩を叩いた。


「いやあ笑わせて貰ったぜ。そんなに腹が減ってるなら、飯ぐらい食わせてやる」


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