第三十七話 お誘い(下)
それにしてもカレンは堅物なのだろうか?
短い間だったが一緒に旅をしていて知り得たのは、普段は女の子っぽいのに、戦闘となると張り詰めた武道家のように戦う姿だ。
(ああいうの堅物って……言うんだっけ? でも今、身持ちが堅いって言ったよな?)
よくわからない。が、ここはジュディスの話に耳を傾けることにする。
彼女が言うには、カレンとジュディス、そしてシルビアは王都では学友同士の間柄であるそうだ。
「あ、シルビアは神学院ね。先に卒業して尼僧になったのよ」
「ほうほう」
一方、カレンとジュディスは貴族学院で、学年数に関しては神学院の方が多いらしい。
……。
今のジュディスの話、何かおかしくなかっただろうか?
「今、カレンと同じ学校って言ったか?」
「言ったわよ? 2人とも休学中なんだけど」
「貴族学院って、貴族だけが通う学校だったりする?」
「それ以外の何かに聞こえた?」
……。
「……お付きの侍女も一緒に入学できるとか、カレンってマジ貴族って感じだな」
「その侍女って、まさか……あたしのことじゃあないわよね?」
かなり怒っているようなので、ここは素直に謝ることにした。
再度確認してみたら、ジュディスも貴族の御令嬢らしい。
(自称だから、信憑性に関しては何とも言えんけどな)
「今、失礼なこと考えたでしょ?」
弘は首を横に振った。
「……ふん」
ジュディスは「どうだか……」と言いながら、エール酒……ではなく白湯を追加注文する。ひょっとしたら、実は酒に強くないのかも知れない。
「このことは知ってる人も多いけど、あちこちで喋り歩くようなことじゃないから。あなたも気をつけてよね?」
「へいへい」
そんな大事なことを、よく知らない俺に話していいのかよ? と思うが、彼女が言うとおり、知っている者が多いのなら問題にはならないのだろう。
「けど、貴族の御令嬢ってんなら、身代金目的で誘拐とかされたりしねーの?」
「あたしもカレンちゃんも、何度か狙われたことがあるんだけど。上手く切り抜けてるし。それに……」
ある程度の地位や身分持ちの冒険者に関しては、ギルドから有料だが護衛がつくこともあり、定時連絡を欠かすとたちどころに捜索隊が派遣されるのだという。
「完全に当てにはできないから、最後に頼りになるのは自分の実力ってわけね。ちなみに、あたしは最初から護衛は雇ってないわよ? あ、カレンちゃんもね」
わかっていたことだが、家名に権力、資金力に物を言わせて安全を買っているのではないということだ。
納得いった弘は残った料理を掻き込むようにして平らげ、再度口元を拭ってから木製コップの水を飲み干した。
「美味かった。お気に入りになりそうだ。で……だ、話を戻すんだが……」
なんで俺を仲間に入れる気になった?
……カチャカチャカチャ……。
女給が食器類を引き上げていく。
テーブル上に残った物は、ジュディスの白湯入り木製コップと、支払いの残っている弘の伝票だけだ。
聞かれたジュディスは人差し指を唇の下に当て、あらぬ方を見た。
「え~? 冒険者としてのアレやコレやを知らない新米君に、ちょ~っと手助けをしてあげようかな~って」
「嘘だな」
「嘘? 嘘だとしたら、あたしが何を狙って嘘をつくって言うの?」
「そんなの知るかよ。見ず知らずの人相悪い男を、女ばかりのパーティーに入れるって時点で裏があると思っただけだ。さっき言った囮云々だって、半分は本気で言ったんだぜ?」
数秒間、弘とジュディスの視線がぶつかり合う。
先に表情を崩したのはジュディスの方だった。
「じゃあ、胡散臭い勧誘は断ることにする? あたしは別に構わないわよ?」
「いや? ありがたく誘いに乗らせて貰うが?」
弘の返事を聞き、ジュディスは呆れ顔になる。
「あ、あたしの話に嘘があると思ったのよね? なのに誘いに乗るわけ?」
「俺が嘘だと思ったのは、先輩の親切心で誘ったって点だからな。普通に冒険をして、普通に分け前を貰えるなら、俺の方で断る理由はない」
「そ、そうなの? でも……あんたのこと何かに利用するつもりなのかもよ~?」
悪戯っぽく笑うジュディスに対し、弘は平然と言ってのけた。
「さっき言った条件さえ守ってくれるなら、俺が加わることで……俺の知らないところでアンタらが得することがあっても、それは関係ねーよ。好きにしてくれたらいいさ」
「ふ~ん。わかった……今晩のうちに他のメンバーに話を通しておくから、明日の朝、この酒場の営業が始まる頃に、ここで待ち合わせっていうのはどう?」
そして、適当な依頼を見繕って、お試し冒険に出かけるのだ。
「いいぜ? 明日の朝、この酒場が営業開始する頃だな? 了解した」
きちんと復唱し、弘は伝票を持って会計に向か……と、ここで弘が白湯をチビチビ飲んでいるジュディスを振り返った。
ジュディスが「ん? なに?」と見上げてくる。
「こいつは好奇心って奴なんだがよ。あんた、なんで冒険者なんてやってるんだ?」
少し間を置いて、ジュディスが口を開く。
「秘密よ。こういった仕事をしてる以上、身の上話なんかベラベラ喋るわけないでしょ?」
「そりゃそうだ。つまらんこと聞いて悪かったな」
今度こそジュディスに背を向け、弘は歩き出した。
(言われてみりゃそうだよな? ゴメスさんやカレン達には、反応見たさに喋っちまったが……今後は異世界関係のことは喋らない方がいいか。……シルビアには説教までされちまったしな)
とはいえ、武具召喚などを見られたら、やはりアレコレ聞かれるのだろうが……。
ジュディスと別れた後、弘はブルターク商店に向かった。
用件は、ここまでに入手した物品の下取りと、新たな剣の購入だった。暫くは鉈で頑張ろうかと思ったが、ジュディスパーティーに加わることになったので、剣を新調する気になったのだ。
なるべく武具召喚を知られたくないというのが、その理由である。
「おはよ~っす。店長、いる~?」
気安い声と共に入って行くと、前に見たときと同じで、陳列台の向こうに店主が居た。
引き締まった体で腕組みをしている。
「なに? 剣が欲しい? 前に買ったのはどうした?」
「それが……でかいトカゲの下敷きになって、その……折れちゃって……」
事情を聞いた店主は「そうか」とだけ答えると、今度はどういった剣を買うか聞いてきた。
「一口にバスタードソードと言っても品質によりけりだからな。その分、値段も違うが……」
「だったら前よりイイのが欲しいな」
もっとも弘には武具の目利きなどはできないので、店主を全面的に信用することになる。
「わかった。ちょっと待ってろ……」
弘の申出により店主は、店の奥から一振りのバスタードソードを持ってきた。
そして陳列台の前に回ると、弘の見ている前で剣を抜いてみせる。
「こいつは前のに比べると、少しばかり頑丈だ。切れ味にも配慮があるが……どうする? 買うか?」
「へえ~……」
よく切れて頑丈。
なかなかに心惹かれる文句である。
(前の剣みたいにデカいモンスターの下敷きになったら、やっぱり折れちまうんだろうけどな……)
苦笑しつつ、弘は新たなバスタードソードの購入を決定し、ついでに前に買ったのと同じ木盾も購入した。
お値段は2点合わせて銀貨11枚と銅貨30枚。
高く付いたが、なぁに暫く依頼遂行を続けていれば元は取れるだろう。
その後、オーク討伐等で得た戦利品を下取りして貰い、弘はブルターク商店を後にしたのである。




