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異世界から来た不良召喚術士  作者: 平位太郎
第1章 異世界転移で山賊に再就職!
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第三話 出くわしたものは

 そして、体感時間で一時間ほども歩いた頃だろうか?

 さすがの弘も、これはおかしいと思い出した。

 舗装道路はおろか、なんの人工物も見えてこない。


(う~わ、完全に迷っちまったかな? マジで、ど~するよ?)


 こうなると、自分を拉致した連中のことなど頭から飛んで消えてしまう。バイト予定については頭の片隅に残っているが、とにかく今は木々や藪しかない場所から脱出したい。

 これまでは拉致されたことによる『怒り』、この状況から簡単に脱することができるという『楽観』があった。

 そして現在、弘の意識を『焦り』が塗りつぶそうとしている。

 バイトを諦めて朝になるまで待つか?

 そういった考えも浮かぶが、ここで弘は少し開けた場所に出た。

 五メートル四方と言った広さであろうか、正方形とまでは行かないが四角に近い状態の空間。朽ちた落ち葉が堆肥となっており、膝髙ほどの若木が点在している。

 山中、あるいは森の中で迷子という自体が解決したわけではないが、それでも弘は少しばかり落ち着きを取り戻していた。


「へっ、なんだよ……空き地みたいなの、あるんじゃん?」  


 引きつった口元を歪ませて笑うと、ポケットからタバコケースを取り出そうとする。

 休憩がてら、またも一服するのだ、

 誘導灯を左手に持ち替えると、空いた方の手で新たに一本くわえ、若干震える手でライターを口元に……。

 ガサガサッ!

 突然、周囲の藪で物音がした。

 何かが動いている。その音が何カ所からも聞こえるのだ。

 野犬、あるいはイノシシだろうか?

 だが、弘は今の物音を、自分を拉致した連中が発したものだと思った。

 こんな状況で出くわすのはできれば人間であって欲しい。また、現れるのが拉致犯人らであるなら、殴ってストレスを発散したいと考えたのである。


「おう、こら! びびってんじゃねーぞ! 出てきて俺にボコられろ!」


 弘自身が大いにびびっているのだが、そこはそれ元ヤンキー少年。怖くとも声は出るのだ。

 ところが、言われて出てきたのは野犬やイノシシではなく、ましてや拉致犯人でもなかった。


「キキッ! ギイイ!」


 猿のような声、弘の腰より少し低いぐらいの背丈。

 身にまとっているのは薄汚れたボロ切れを巻き付けて、腰の位置で縛っただけの衣服。

 誘導灯により照らし出された体色も変だ。全身が深緑、同じ色の御面相(ちなみに頭髪は皆無)は、見てて胸がムカついてくる。だが、何よりも弘の目を引いたのは、洋風ファンタジー漫画に出てきそうな両刃のナイフを持っていることだった。


(全員ナイフ持ちで、五人もいるのかよ! 囲まれちまったぞ!)


 弘は暴走族にいた頃、喧嘩でナイフを振り回したことがあるし、相手がナイフを持ち出したこともある。しかし、今目の前で相手が持つ刃物は、かつて見たどれよりも幅広の物だ。


(何考えてんだ、こいつら! あんなので刺したら死ぬだろーが!)


 刃渡りは二十センチほど、そして刃幅は五センチと言ったところか。まさに、ちょっとした鉄板である。

 体格の違いから一対一で負ける気はしなかったが、相手は五人で全員がナイフ持ち。

 勝てる要素が見あたらないどころか、滅多刺しにされて死ぬ気しかしない。

 じゃり……。

 後ずさるのだが、囲まれているために後背のチンピラ(?)に近づくだけで終わってしまう。

 どうするか? 多少怪我するのを覚悟して突っ切るか?


(ん?)


 弘は、左斜め前のチンピラが眩しそうにしているのに気がついた。その手で覆おうとしている顔には白い光が当たっている。


(そういや、これがあった!)


 とっさに左手を動かすと、弘は誘導灯を大きく振った。

 白色LEDの光線が、チンピラ達の顔面を高速で撫ですぎていく。

それだけで充分だった。

 闇夜の中、誘導灯の光で多少は明るかったとは言え、LEDライトをもろに照射されたのでは溜まったものではない。

 五人のチンピラは「ぎい」だか「ぎゃあ」だか叫びながら、もだえ苦しんだ。

 相手の人数とナイフに腰が引けていた弘であるが、この機会を逃すほど腰抜けではなかった。素早く駆け出すと、真正面のリーダー格と思しきチンピラの顔面を蹴飛ばす。それが仰向けに転がるのを最後まで見ることなく、反時計回りに駆け出すと、相手に誘導灯の光を浴びせながら一人、二人と近い順に殴り倒していった。

 しかし、四人目の顔面に膝を入れて吹っ飛ばしたところで、左腕に焼けるような痛みを覚え、弘は足を止める。


「うあちっ!」


 見ると、左手の手首と肘の間あたりに赤黒い線が走っており、血が流れ出していた。

 斬りつけられたのだ! 

 どうやら最後の一人は、他の者の有様を見て危険を感じたのか、光を浴びせられないように避けていたらしい。

 カーッと、弘の頭に血が上った。


「てっめえええ! 痛ぇえじゃねえか! このクソがああああああ!」 


 なおも斬りつけてくるのを一歩二歩と後方へ飛んで避ける。その際、前に突きだし気味だった誘導灯を斬りつけられてしまった。

 漫画のようにスパッと斬り飛ばされはしなかったものの、断線でもしたのかライトが消え、周囲が闇に包まれる。こうなると先程まで光源があっただけに、やたらと暗い。


「ギ、ギギ!?」


 相手も戸惑っているようだが、次はどうするべきか。


(怪我しちまったし、逃げるか?)


 思い起こせば、もう自分は現役の暴走族構成員ではないのだ。そして未成年でもない。

 これ以上は正当防衛じゃないかも……あとバイトが……。

 サーッと血の気が引いて、思考が社会人っぽくなった弘は、踵を返して走り出そうとした。

 そこへ背後から一撃加えられたのである。

 ざしゅっ!


「ぐぎっ!?」


 背骨付近から左腰にかけて斬られ、弘は片膝をつき、腰を落とした。 

痛みからすると、浅く長く斬りつけられたらしい。


(足が!? 力が入らねぇ!)


 人はビックリするほど痛い思いをすると、腰が抜けてしまうのか?

 それとも単に腰が抜けただけなのか?

 どっちにしろ立ち上がれない事実に変わりはない。


「ぎい、ぎゃぎゃぎゃああ!」


ガサリ……。

 一歩歩み寄る、そんな音が聞こえた。


(まずい、追い打ちする気だ! それもナイフでかよ!)


 相手が殺す気満々であることに、弘は震え上がる。

 殺す。ぶっ殺す。死ね。くたばりやがれ。

 喧嘩の上で、そういったセリフを吐いたことは何度もあったが、刃物を持って本物の殺意をぶつけられるのは初めてだ。


(だってよお、喧嘩に負けて自分が本当に死ぬとか……考えたことなかったし)


 震えながら見上げる正面の暗闇から、徐々に相手の輪郭が浮かび上がってくる。

 このまま間近にまで詰め寄られたら、相手の攻撃をかわすことなどできない。いや、怪我しつつ逃げ回ることはできるかもしれないが、そのうちに体力が尽きて……。


(い、嫌だ……。こんな……)


 後ろ手に這いながら距離を取ろうとしたとき、弘の右手指に何かが触れた。

 それは二番目、あるいは三番目に倒した相手の躰だった。

 殴って倒しただけなのだが、まだ起き上がれてはいないらしい。


「ひいっ!」


 慌てて手を引っ込めたが、同時に弘はあることを思い出していた。


(ナイフ……こいつら、みんなナイフ持ってたよな!)


 すぐ後で倒れている相手も、ナイフは持っていたはず。

 弘は無我夢中で後方の地面をまさぐった。

 ときおり呻く相手の躰に触れるが、構ってなどいられない。その間にも足音は近づいてくるのだ。

 ガッ!

 何か、固い物を掴むことに成功する。

 手触りからして石ころでもなければ、木の枝でもない。ナイフだ!

 それを引っ掴んだ弘は、昔テレビで見たヤクザ映画の主人公のように、躰ごと正面の闇……今となってはうっすらと見える、相手のシルエットに突っ込んでいく。

 いや、立ち上がることができなかったので、膝立ちの状態から前に倒れ込むような感じだ。そして……。

 ぞぶり。

 鳥肌が立つような気色悪い感触とともに、ナイフの刃が相手の躰に滑り込んだ。


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