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異世界から来た不良召喚術士  作者: 平位太郎
第8章 王都へ
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第百四十七話 召喚魔法VS召喚術

 数日後、弘は都市ダニアで昼食を取っていた。

 ディオスクを出て北上……2つ目の都市であり、もう1日程バイクを走らせれば王都へ到着が可能。そう言った地点の都市でもある。


「あと、王都に近づくにつれて『都会度』って言うのか? そういうのが上昇してる感じだな」


 それは、クロニウスからディオスクに移ったときも感じたことだが、このダニアはディオスクと比べても雰囲気が違う。まず目に付くのは、街行く冒険者達の武装だ。ディオスクではチラホラ見かけただけの板金鎧装備の戦士を、ここでは数多く見かけた。言い方を変えると、道行く戦士職のほとんどが板金鎧を装備していると言って良いくらいだ。

 その光景を見た弘は「ん~ん? 景気がいいのかな?」と思ったものだが、冒険者ギルドの支部へ足を運んで、自分の感想が外れていなかったことを知る。依頼掲示板を見たところ、高額の冒険依頼が多いのだ。銀貨千枚クラスの依頼がゴロゴロしているし、中には金貨や宝石が報酬となっている依頼もあった。

 ギルド受付で聞いたところでは、強いモンスターの出現率が高いことで、何を依頼するにしても難易度が跳ね上がっているらしい。しかし、その高難易度依頼を目当てに、腕利きの冒険者達が集まっているのも事実で、それが高品質装備の冒険者をよく見かけることに繋がっていた。


「あと、騎士もよく見かけるな……」


 少し硬めのパンをスープに浸しながら、弘は呟く。騎士と言っても、ケンパーやカレンのように御領主様騎士(あるいは騎士志望者)ではなく、貴族の二男坊や三男坊などが多いようだ。直接に誰かと話をしたわけではないが、道行く騎士の顔つきを見ていると「浮ついた感じだな」と思ってしまうのである。


(クリュセダンジョンで会ったケンパーは気取った感じの騎士だったけど。一応、腕は立ったんだよな。奴と比べたら、この辺で見かける奴は、なんつ~か……)


 柔らかくなったパンをモシャモシャ頬張りながら、弘はギルド酒場の天井を見上げた。


(時代劇の旗本奴……みたいな感じ?)


 騎士を名乗る以上、弱くはないのだろうが……。どうも人格が伴っていないように思える。それに、ここへ来るまでに人から聞いたりして知ったことだが、この国における騎士というのは『身分が高い腕利きの戦士』ではなく『身分が高い、何かしらの魔法具で強化された戦士』であるらしい。


(騎士になったら、記念……みたいな感覚で魔法具を貰えるとか。そんな感じらしいしな……)


 とは言えアイテム頼みの騎士ばかりかというと、ケンパーのような実力者も居るわけで……弘としては「よくわかんね~けど。面白そう」と思ってしまうのだ。 


「ファンタジーRPGによくある『普通の王様国家』かと思いきや、色々と個性が出てきやがっ……ん?」


 突然、ギルド酒場の外が騒がしくなる。酒場内に居る他の冒険者達もざわめきだしたので、その会話に耳を傾けると……。


「また、冒険者同士の喧嘩らしいな」


「この都市の奴ら、お高くとまってるからなぁ」


「稼ぎが良いからだな。お互いイイ気になってるから、肩がぶつかったとかで剣抜きやがるし……」


「都会の方が荒くれ者が多いって、どうよそれ?」


 最後のセリフに関しては、弘も同意したいところだ。クロニウスなどでは、冒険者同士の喧嘩などほとんど見たことがない。少なくとも酒場で騒ぎになる程度。こういった人目につきやすい通りで冒険者同士の喧嘩というのは、やはり見かけない。もっとも、田舎都市では依頼報酬が少なくて懐が寒いため、喧嘩している暇があったら新たな依頼を請けるのが先……という空気ではあったのだが。

 続いて入口付近の会話を拾ってみると、今聞いたような内容を同じように話し合っているのが聞こえた。


「あの魔法使い、ダニアで一番の使い手じゃなかったか?」


「ああ、知ってる。召喚魔法が得意とか言って、他のパーティーの魔法使いを馬鹿にしてる……嫌みったらしい阿呆な」


「相手の若い奴は誰だ? 見かけない奴だが……」


「さあ? 俺も見たことは……。さっき『だったら、こっちは召喚術を見せるだけだ』とか言ってたかな」


「召喚術? 召喚魔法の言い間違いじゃないのか?」


 ガタンッ!


 弘は音高く椅子を蹴って立ち上がる。今、入口付近の冒険者達は何と言ったか。


(片方が召喚魔法の得意な魔法使いで、もう1人は……召喚術? おいおい……)


 ひょっとしたら、噂に聞いた召喚術らしき魔法を使う男……キオ・トヤマかも知れない。

 いったんカウンターに寄って精算を済ませ、弘は入口に駆け寄った。そこには十数人ほどの冒険者が居たが、超人的な腕力で掻き分けていく。


「はい、ごめんなさい。ちょっと、お邪魔しますよ……っと」


 このときの弘は、いつもの黒服に黒革鎧姿。強引に退かされた者達は、板金鎧すら調達できない冒険者……のような弘の姿を見て、格下に舐めた真似をされた! と憤った。しかし、それも一瞬のことで、自分達が押し退けられた際の『力』を思い出し、文句を引っ込める。


「チッ。まあ、一言断ってるみたいだから良いんだけどよ」


 そうでも言わないと格好がつかないのだ。一方、喧嘩の当事者らを見ることに夢中だった弘も、周囲の苛立ちは感じており「まずい事したかな……」と思ったが、やってしまったものは仕方がないと判断する。


(今度から気をつけるし、文句を言われたら謝るとするさ。で、どれどれ……)


 最前列に出たので通りを見まわしてみた。すると、左方十数メートルの位置で2人の男が対峙している。奥側、こちらに顔を向けているのは金髪碧眼、頬のこけた男でローブ着用。背丈ほどもある杖を構えているので、彼が魔法使い……召喚魔法の使い手なのだろう。


「召喚術士なら杖とか必要じゃないっぽいしな。そうなると、こっち側で背中向けてる奴が……召喚術士かもしれん奴か……。あいつがキオ・トヤマか?」


 背は弘よりも低く、弘と同じように黒髪。そして、対峙する魔法使いと同じくローブ姿だが、そのローブが真っ赤である。


「うほ~。ど派手だねぇ……」


 感心するように呟いていると、奥の魔法使いが腕を伸ばして杖の上部で相手を指し示した。


「野次馬が集まってきたようだが……。丁度いい。さっきの言葉、皆の前で訂正してもらおうか!」


「え? さっき? ……召喚術を見せるって言ったこと?」


 声からすると、手前の男は弘と似たような年頃、いや少年のように思える。話している言葉は、この世界の共通語だ。彼が同じ世界から来た人物だとすれば、弘のように誰かに教わったのだろうか。そんなことを考えていると、杖を持った魔法使いが苛立ちを隠そうともしないで叫んだ。


「その話じゃない! 私が新たな召喚獣を呼べるようになった……そう仲間に話していたら! 擦れ違いの貴様が、『召喚魔法か。僕と似た感じかな?』と言ったではないか! このダニア一の召喚魔法使い、レックス・エヴァーハートを貴様は侮辱した!」


「ああ、なるほど。似た感じと言われたのが、おじさんのプライドを刺激したわけだ」


 ようやく合点がいったらしき少年が、1つ頷く。


「やっすいプライドだね?」


「ぬっ!?」


 レックスが気色ばみ、弘の周囲の者達、それに通りの各所で見物している者達はざわめいた。囁かれる会話に聞き耳を立てると、少年の感想に同意する者が多いように思える。無論、弘も少年の言葉に同感だ。 


「この都市一番って自負があるなら、僕の呟きなんか鼻で笑って無視すれば良かったのに。その方が大物っぽいよね? それが出来ないって事は……本当は、自分に自信が無いんじゃないの?」


「言うねぇ、この子……」 


 弘は感心した。少年が言うことは一々もっともだ。多少、相手を煽り気味のようだが、一方的に難癖を付けられたのでは、何か言い返したくもなるだろう。もちろん、このような返しをされたレックスは黙っていない。


「ふ、ふふふ。はーっははは! ……指導だ……」


「お、おい!」


 少し離れて見ていた戦士職らしき冒険者が、レックスを止めようとする。レックスの言う『指導』とは、弘が知るところのヤンキー用語で『ヤキを入れる』に相当するらしい。問題は、冒険者同士(?)の諍いで、しかも双方が魔法使い系であること。口論から始まり、最終的に天下の往来で魔法が飛び交うことになりかねない様子だ。これには、幾人かの冒険者が距離を取り出したが、それでも野次馬は残っている。怖い物見たさか、あるいは珍しい見世物だと判断したらしい。


(危なくなったら逃げりゃあ良いんだものな)


 そう思う弘が見ている前で、レックスは自パーティーのリーダーと思われる戦士の言葉を振り切った。


「止めるな! 殺しはしない。魔法使いの先達として……少し痛い目を見せるだけだ!」


 小者臭全開であるが、この辺、弘には共感できるものがある。街でチンピラ同士がかち合った場合。あるいは気に入らないことがあるからと相手に因縁をつけた場合。相手側が折れなければ、後は拳で語り合うしかないからだ。


(心情的に、エリート様ってのは気に入らないんだがなぁ……。……でも、そのエリート様に喧嘩売られた側の肩も持ちたい。ん~……どっちも死なない程度に頑張れ?)


 所詮は無関係な第三者である。この場に居残った多くの野次馬達と同様、弘も面白い喧嘩が見たいだけなのだ。

 そうして見ている間に、レックスが杖を掲げて呪文詠唱を始める。呪文詠唱。この世界の魔法使いは種類職種を問わず、魔法を行使する際には呪文詠唱が必要だ。そして、高度な魔法になるほど呪文詠唱は長文化していく。かつて行動を共にした魔法使い、メルが言っていたところによると、熟練の度合いによっては高速詠唱が可能であったり、本人の研鑽次第で短文化が可能であるとのことだ。弘には良くわからないが、周りの冒険者達が「おお! あの速い呪文詠唱、すげぇ!」だの「あれ、かなり高度な召喚魔法じゃないか?」とか言っているので、どうやらレックスは凄いことをしているらしい。

 やがて、レックスの前に5体の召喚獣が出現した。炎で構成された鷹のような猛禽タイプで、それぞれが緩やかに羽ばたきながら、レックスの顔の高さで滞空している。


(実際に、羽ばたきで飛んでるんじゃないな。そんなことより……)


 弘は目の前で起こった現象に感動していた。これまでに会った魔法使い達は、呪文詠唱によって魔法の矢を射出したり、ファイアーボールを撃ち出したり、雷を落としたりする。そういう魔法を行使する者が多かった。だが、目の前のレックスは、呪文詠唱によって炎の鷹を召喚している。


「おお~、すげ~。ああいうのが本当の『召喚』ってやつだよな~」


 弘のファンタジーRPG知識で言うと、召喚魔法と言えば、現実世界では有り得ないような異界の獣を召喚するイメージなのだ。しかし、この世界に来て弘が得た能力は召喚術。召喚して出てくるものは、MP武器とは言え銃器や刀などが多い。なんか思ってたのと違う……と言うのが、弘の本音であった。

 さて、レックスは呪文詠唱によって炎の鷹を召喚したが、少年の方は、何ら魔法や術を行使していない。この状況に到り、野次馬冒険者達がざわめき出す。本来、魔法使いの呪文詠唱は、戦闘中に行えば自身が隙だらけとなる悪手だ。余程の短文呪文であるか、高速詠唱が出来るかでもしなければ、呪文を唱え終わる前に攻撃されてしまう。だからこそ冒険者パーティーは、詠唱中の魔法使いをパーティーメンバーで守るのだ。ただし、こういった魔法使い同士の決闘では、純粋に詠唱能力が勝負の決め手となる。つまり、先に詠唱を終えた者の勝率が高い。


(先に攻撃当てちまえば良いんだもんな~)


 一方、攻撃された側は、魔法を回避するか耐えるかの選択肢を迫られる。どちらかに成功すれば、遅れて詠唱している呪文を完成させて反撃……となるのだ。もちろん、回避することも耐えることも出来なければ、相手の魔法攻撃によってダメージを受ける。あるいは倒されてしまうわけだが……。

 こういった知識は基礎的なものであり、普通の冒険者であれば有している。弘もゲーム知識として知っていた上に、これまでに会った魔法使い達から改めて教わったことでもあった。もちろん、このことはレックスも知っており、得意げな笑みを浮かべて少年に降伏を促している。


「私の呪文の高度さに驚いて、呪文詠唱が出来なかったか? 魔法使いであれば、詠唱速度でピンと来るのだろうが。で……だ。ここで謝罪し、『自分にはレックス・エヴァーハートと似たことなど出来ませんでした』と、そう言うのであれば……勘弁してやらんでもない」


 うわ、大人げない。だけど、そういう落としどころか。そんな空気が通りに蔓延したが、弘のみは勝負がついたと思っていない。何故なら、召喚術士には呪文詠唱など必要ないことを知っているからだ。


(俺は武器の名前とか叫んでるけど。実際は、叫ばなくても召喚できちまうしな。となると、この後の展開は……)


「アーチャー……」


 少年がボソリと呟く。それを聞いたレックスは「む! 今更、呪文詠唱か!」と身構えたが、次の瞬間、少年のすぐ前に1人の弓兵が出現した。ただし、それは人間ではない。身にまとった装具も手に持った弓矢も。そして、全身余すこところなく炎で構成されてる。


「なにっ!? それは召喚魔法か!? まさか、本当に似たようなことを……」


 驚くレックスの声を聞く弘は「驚くとこ、そこかよ……」と思っていた。本来なら、呪文詠唱無し。いや、召喚対象の名を呼んだだけで効果が発動したことについて、驚くべきなのだ。野次馬冒険者の幾人かは、その点に気がついたようだが、肝心のレックスはと言うと地団駄踏んで癇癪を起こしている。


「くっおおお。もういい! 少し痛い目を見せてやる! フレイムバードよ! 攻撃開始だ」


 号令と共に炎の鷹たちが舞い上がり、上空を旋回し始めた。考えられる攻撃法としては、そのまま急降下してクチバシや足の爪で攻撃すること。その躰は炎で構成されているのだから、単なる傷では済まず、重大な火傷を負うことになるだろう。が、少年側も召喚したアーチャーに命令を下している。


「撃ち落としてくれる?」


「了解、マスター」


 喋った! そんな声が、そこかしこで聞こえた。中でも、「人語を話す召喚獣など、見たことが無いぞ!」と言った男性魔法使いの声が、弘としては印象深い。


(……俺の『自律行動5』より上か?)


 弘の解放能力『自律行動5』は、召喚設置した銃器類に敵を自律攻撃させるというものだ。しかし、少年が召喚したアーチャーのように会話をさせることはできない。

 ここに到り、弘は少年の能力を見極めようと対象物解析を行ったが、解析エラーが出て何も解らなかった。この解放能力も、バージョンアップを繰り返したことで5段階目になっていたが、それでも上手く機能しないことがある。


(召喚術士システムってやつに不具合でもあるんじゃね~か? って、システムと言ったら……芙蓉だ!)


 時代劇のお姫様のような容姿を持つ、召喚術士システムの補助システム……芙蓉。彼女ならば、少年の正体を見破れるのではないか。そう考えた弘は、アーチャーが上空のフレイムバードを瞬く間に射落としていくのを見つつ、脳内で芙蓉を呼んだ。


(芙蓉。芙蓉! ちょっと出てきてくれ!)


(なんじゃ騒々しい。妾は今忙しい……む、またもや召喚術士がおるではないか。……と、メインシステムから招集がかかった。妾は補助をせねばならぬので戻るぞ。気をつけてな)


 弘の眼前に出現した芙蓉は、何やら文句を言いかけていたが、すぐに表情を引き締めて召喚術士の存在感地を報告。そのまま姿を消した。かつて森のオーガーと戦ったとき、オーガーが召喚術士であることを見抜いたのは彼女である。その事例に期待して彼女を呼んだ弘であったが、どうやら一応は上手くいったらしい。さて、ここで気になるのは、最近になって立て続けに召喚術士の情報に遭遇していることだ。


(やっぱり変だ。グレースやクロムが言ってたじゃね~か。召喚術士は何百年に1人って間隔で、異世界……俺の場合で言う、日本なんかから召喚されるって。ちょっと多すぎるんじゃね~の?)


 自分こと沢渡弘と森のオーガー。レッサードラゴンのクロムを殺したというキオ・トヤマ。そこに目の前の少年を含めて4人目。どう考えても聞いていた話よりも多い気がする。これを偶然によるものか、意図的なものか……と聞かれた場合、弘は『意図的だ』と答えるだろう。


「そもそも森のオーガーが召喚術士だった時点で、もう何かおかしいんだよな。いったい、どうなって……」


「嘘だ! 何かの間違いだ! 私のフレイムバードは、耐魔法能力が備わっているのに、何故!? そのまま急降下して襲いかかるはずだったのに!」 


 弘の呟きを掻き消すように、レックスの悲鳴が響き渡る。自信満々で召喚したフレイムバードを5体すべて射落とされたのだから、あんな声も出したくなるだろうが。弘としては「いちいち五月蠅い奴だな」としか思えない。考えを中断して視線を向けると、少年が召喚したアーチャーは新たな炎の矢をつがえ、レックスに狙いを定めているようだ。あのまま射てレックスに命中したら、大怪我では済みそうにない。助ける筋合いのない弘としては「あ~あ、死んだかな?」ぐらいにしか思わなかったが、ここで通りの向こうから「何をしとるか。貴様らーっ!」と声があがった。その声の方向に目を向けると、統一された武装集団が居て、その先頭で立つ男が憤怒の形相でレックス達を睨んでいる。


「あ、駐留兵……。やば……」


 騒ぎを聞きつけた駐留兵が駆けつけてきたのだろう。都市の治安を乱された怒りは大きいようで、その視線の先に居るのはレックス達だけではない。この場に居る冒険者すべてに矛先が向きそう……と感じた瞬間、少年が踵を返して走り出した。通りを駐留兵が居ない方へ向けて駆け出していく。ほぼ同時に、その場に居た野次馬冒険者らが、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。


「ぬううう! 逃がすな! 全員、引っ捕らえろ!」


 指揮官らしき男が叫ぶと、10人ほどの駐留兵が一斉に剣を抜く。実のところ、彼らよりも冒険者の方が多く、しかも魔法使いなどが含まれる分、冒険者側が有利だと言っていい。にもかかわらず応戦しようとする者が居ないのは、ここで駐留兵に反撃しても何一つ良いことはないからだ。

 戦闘になった場合、間違いなく冒険者資格は取り消しになる。そして、その情報が各支部に回されて、二度と冒険者登録が出来なくなるだろう。また、駐留兵側に怪我人や死者が出た場合。前述のペナルティに加えて『お尋ね者』になってしまう。国を向こうに回すと言うことであり、少なくとも国内には居られなくなるだろう。だから、ここは逃げるのが最善の選択肢なのだ。


(大人しく捕まって、それでボコられたりしてもつまらんし。下手すりゃ、見せしめで冒険者資格とか取消されそうだぜ)


 皆と同じく逃げ出した弘は、召喚術士らしい少年の後を追って駆け出していた。それは彼を捕まえて駐留兵に引き渡す……のではなく、追いついて彼と話をするため。まだ確定したわけではないが、少年が召喚術士であるなら是非話をしてみたいと思ったのである。


「奴は……。おう、居た居た……」


 駐留兵達とは反対側に向けて逃げる冒険者達。その間を素早く縫うようにして駆けると、少し先を逃走している少年の後ろ姿が見えた。かなりの俊足だが、今の弘にとっては苦も無く追いつける。やがて彼が、通りの路地に飛び込んだのを見ると、弘も後を追って路地へ飛び込んだ。


 ゴアァウ!


 突然、既に召喚されていた炎の剣士が、炎で構成された剣を振りかざして斬りつけてくる。後を追っていることが察知されており、路地に飛び込むにあわせて待ち伏せ攻撃をされたのだ。しかし、弘は更に加速すると召喚したメリケンサック装備の右拳で、炎の剣士を殴り飛ばす。この一撃で、炎の剣士の頭部が吹き飛び、瞬時にして全身が消失した。


「えっ? 何で? 殴って倒せるわけ……」


 炎の剣士の向こうに居た少年が驚きの声をあげる。その彼までの距離を一気に詰めた弘は、ニッカと笑いながら話しかけた。


「よう。ちょっと俺と……話でもしね~か?」


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