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異世界から来た不良召喚術士  作者: 平位太郎
第6章 ダンジョン探索!
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第百十話 クリュセダンジョン(11)

 結局のところ、『警備兵調整室』の扉をこじ開ける為に、弘はバールを必要としている。開けてみて解ったことだが、自動扉の合わせ目がフック状の金具で固定されていたのだ。


「このヤロー。どうりで引いてもビクともしないわけだぜ……」


 召喚具のバールを消しながら、弘は悪態をつく。汗を掻いたので一息つきたいところだが、彼は眼前の光景に目を奪われていた。苦労して開いた『警備兵調整室』の扉の向こう……そこは十数メートル四方の何もない空間だったのである。


「ここも天井に光の魔法か? 明るいな。それにしてもサワタリ? この光景をどう思う?」


 部屋の四方上部……天井と壁の境が発光して照明となっているのを見ながら、グレースが問いかけてくる。弘は少し考えた後に、思うところを述べてみた。


「このダンジョンは色々とアレだからな。ただの空き部屋ってこたないだろ? 例えば、中に隠し扉があるとか……」


 では、中に入って壁や床を調べてみるべきだろうか?

 いや……と、弘は思い止まった。


「ズカズカ踏み込むには怪しすぎる……ってな」


 誰に言うでもなく呟き、アイテム欄から短刀を取り出す。これは、かつてこの世界に転移した頃、倒したゴブリン等から奪った物の一つだ。アイテム欄には今のところ収容限界が見られないため、随分前に収納した物がそのままだったりする。そして、この取り出した短刀をどうするかというと……。 


「見てろよ~? どりゃ!」


 顔の高さでヒラヒラ振って皆に短刀を示した後、弘は室内に短刀を放り込んだ。攻撃のために投じたのではなく、文字どおり放り込んだのだ。普通であれば、短刀は室内の床に落下するのだろうが……。


 ……フッ……。


「ええっ!? 短刀が消えた!?」


 カレンが驚きの声をあげる。そう、投じられた短刀は床へ落ちる前に音もなく消えたのである。 


「なるほどな。転移部屋ってやつだ」


 ゲーム知識ではあるが、ダンジョン探索系のRPGでは、特定の部屋間が転移ゲートでつながっている場合があった。飛ばされた先が罠部屋という可能性もあるが、皆で相談した結果、その可能性は低いだろうという結論に達している。


「元居た施設職員が、間違って罠部屋に飛ばされる可能性があるからな。そういう事態を回避する方法は色々あるんだろうが……命に関わる可能性がある以上、無茶なことはしないだろうぜ」


 IDカード等の有無で飛び先が変わるように設定されている可能性もあったが、普通に施設職員が行き来することを考えると、やはり危険だ。なので、この部屋は単なる転移用の部屋だとする。問題は、このまま進むかどうかだが……。


「今更、引き返すってことたぁないよな?」


 そう言って弘が笑うと、シルビアとジュリアンを除いたメンバーがニヤリと笑みを返した。


(シルビアは、冒険者稼業自体に良い顔してないところがあるからな。乗り気じゃないのはわかるんだが……。やっぱジュリアンの反応がおかしいよな……)


 今度は手槍をアイテム欄取り出ししながら、弘は小首を傾げた。ジュリアン……正確にはジュリアンの名を騙る何者かは、一応、『盗賊ギルド出身者ばかりの女性パーティー』で所属していた『設定』のはず。そうであるなら、金目の物が入手できるかもしれない探索続行を喜ぶべきだ。


(それがないってことは、騙った名前の人物を演じる気がないのか?)


 ここに居る者達は、ジュリアン本人がどのような人物だったか知らないのだから、無理に演じる必要はないのだろう。とはいえ、やる気が無いように見える態度からは不自然さが漂う。


(……カレンたちに悪さしなけりゃ、何だっていいか……)


 先ほどメルと相談して、弘は様子見の方針を決めていた。だから、ここでジュリアンについて考えるのは時間の無駄というものだろう。

 手にした手槍を、正面にあると思われる転送域に突っ込む。その結果、手槍だけが転移して消えるということはなく、弘の手に握られたままだった。


「押し込んでも消えない。で、この手を放すと……槍は消える……と」


 どうやら転送域に入った部分が、全体量よりも少ないときは転移が発動しないらしい。


「槍もそうだが、投げ込んだ短刀についても、転移先から反応が無いな。……誰も居ないのかな?」


「ねえ、ヒロシ?」


 色々と試している弘にノーマが声をかけた。そういった調査や偵察は、偵察士である自分の仕事。どういうつもりなのか? とのことである。弘は手槍をアイテム欄収納しつつ、ノーマを見た。


「見えてる通路とかならまだしも、そこに転送域があるんだろ? 飛ばされた先で何が待ち受けてるかわかんねーときたら、いくらノーマが偵察士って言っても危ないだろ? 俺が行った方が安全じゃね?」


「そ、そうかもしれないけど!」


 なおも言うノーマを「いいからいいから」と制し、弘はカレン……そして、グレースを見て言う。


「じゃあ、ちょっと行ってくる」


「じゅ、充分に注意してくださいね!」


「うむ。気をつけてな」


 祈るように手を組んでいるカレン。一方、グレースは普段と変わらぬ表情であり、心配している様子はない。自分のことを好きだと言ってくれる女性2人。その対照的な姿に、弘は吹き出しかけたが何とか堪えると頷いて見せた。

 そして、転送域に向き直ると、何もないように見える場所へ向けて歩を進めたのである。



◇◇◇◇



 一歩踏み込んだ。

 空間が歪むとか、車酔いの感覚だとか。そういった漫画でよくある現象を予想していたのだが……まったく何も起こらない。ただ単に前へ進み出ただけだ。

 拍子抜けした弘は、皆を振り返る。


「なあ? 人間は転移しないんじゃ……おっ?」


 転移しないことを報告しようとしたのだが、その言葉を途中で切った。なぜなら、振り返った先にカレン達が居なかったからだ。


「ああ? ああ、そうか。もう転移してたのか。何にも感じなかったけどな……それに……」


 今居る部屋を見回したところ、先ほどの転移部屋とデザインが変わらない。見える景色がほとんど同じなので、転移したことにも気がつかなかったというわけだ。大きく違うのは、転移前は後方にあった扉が今は前方にあり、こじ開けられた様子もないこと。その自動式らしい扉に近寄るが……やはり反応はない。手をかけてみても、なかなかに動きがたいようで、先の扉と同じようにフック式金具でロックされているようだ。


「もう俺だけで開けちまうか?」


 ここの扉も魔法結界が無いらしい。ならば、腕ずくで何処までやれるか試してもいいし、刃物系の武器の威力を試してもいいだろう。いっそRPG-7で大穴を開けても……。


「いや、RPG-7を使うには距離が近すぎるか……」


 それに、後方噴射炎が背後の転送域に当たった場合。そのまま転送されて、カレン達に後方噴射炎が届きかねなかった。まずは刀剣類で何とかできるか試すべきだろう。そう判断した弘は、長巻を召喚する。


「じゃあ、バッサリいけるかどうか試し……んっ?」


 ぎぎ……ガシャン!


 金属音が聞こえた。音がした方を見ると、それはどうやら自動扉の方から発生した音らしい。嫌な予感がすると同時に、見ている前で扉が左右にスライドしだした。


「俺が何かして開いたわけじゃ……あ~、なるほど。向こうから来る奴がいたのか」


 扉向こうの光景を見た弘は、引きつった笑みを浮かべながら呟く。扉のすぐ向こうには、十数体からのモンスターが居て、険悪な目つきで弘を見ていたのだ。巨大カマキリにリザードマン。オークのような雑魚モンスターが居るかと思えば、外皮の硬そうな牛型モンスターも居る。そして、どのモンスターも地肌に装甲板を直付けされていた。中には腕に刃物を装着しているモンスターがいて、果ては肩にガトリング銃のようなモノを装着したモンスターまでいるようだ。おまけに……。


「あ、アーマーライノスぅっ!?」


 モンスター集団の後方に、見覚えあるシルエットを確認した弘は目を剥いた。ディオスク闘技場で戦った強豪と同種族の者が居たのだ。手前のモンスター達の影になって顔は見ないが、あのシルエットは間違いなくアーマーライノス。


「あいつら口がきける種族じゃなかったのか? なんでモンスターに混ざってるんだ?」


 考えてみたが理由がサッパリ思いつかない。いや、仮説なら幾つかは思いつく。発狂して獣同然になっているとか……そんなところだ。しかし、確証がないので、そうと決めつけられないのである。


「おい、そこのアーマーライノス! お前、何してるんだ? 話ができるか?」


 呼びかけてみたが、返ってきたのは荒々しい吐息のみだ。


「やる気満々ってわけか……ボディアーマー。あと特攻服……」


 弘は、つい先頃修得したばかりの召喚具を召喚する。それが出現すると同時に革鎧が消失し、衣服の上には元世界の軍隊が使用するボディアーマーが装着された。次いで黒地の特攻服が召喚され、ボディアーマーの上から着付けられる。

 いつになく防御に気をつかった召喚であるが、これは眼前の敵集団を危険視したことと、自分1人で対処するという決意の表れであった。


(正直言って、後ろの転移域に飛び込んで皆のところへ戻りたいんだが……駄目だよな?)


 このまま後退して転送域に入ったら、それで元の部屋に戻れるだろう。しかし、あの部屋に仲間がいる状態で、このモンスター集団が転移してきたらどうなる?

 元居た転移室は、双方の数を収容するには広さが足りない。押し合いへし合いの乱戦になることは、弘にも予想ができた。


(狭い場所で乱戦になるのは絶対に駄目だ。防御力が低そうな……シルビアやメル。それにジュリアンが危ないぜ)


 何より、アーマーライノスが転移したら、それだけで皆が弾き飛ばされかねない。唯一対抗できそうなのがミノタウロスのインスンであったが、他の者に被害が出るのは防ぎきれないだろう。


(つか、あのインスンが躰を張って、グレースやシルビア達を守るとは思えねーしな)


 結論、この場に踏みとどまってモンスター集団を排除する。

 一番良いのは、戦闘音を聞きつけてカレン達が転移してくることだ。皆の支援を受けて弘とカレンが、そしてインスンやケンパーも揃って突撃をしたら……眼前のモンスター集団を蹴散らすのは難しくないはず。


「けど、期待できそうにないか」


 背後の転移域には、音声だけを転移する機能がないようだ。それが可能であれば、先程までの呼びかけ等、弘の発した声を聞いて今頃は皆が駆けつけているだろう。

 弘は手榴弾を召喚すると、安全ピンを引き抜いた。


「やっぱ俺だけでやるしかねぇな!」


 モンスター集団の頭上を越す形で投じる。そして、アーマーライノスと集団の間に落下した手榴弾は、少しの間を置いて爆発した。


「ギャアアアアアア!」


「ギピィイイイ!」


 形容しがたい絶叫が聞こえ、モンスター集団の後方で数体が倒れる。地肌に装甲版を直づけしているとはいえ、全身を覆っているわけではないため、やはり破片型の手榴弾は効果があるようだ。みれば、ガトリングタイプの銃を背負っていたモンスターも倒れている。


「いや~、良かった。こっち逃げ場とかないのに、あんなの撃たれたら洒落にならんしな」


 続いて弘は、日本刀を召喚した。攻撃力としては長巻の方が上だろうが、乱戦になったら日本刀の方が取り回しが楽だろうと判断したのだ。そして、飛びかかってくるモンスターらを相手に……。


「……飛びかかって来ねーな? てゆ~か、なんで入って来ないんだ? 入ってきた端からやっつけるつもりなのに……俺の方から出てこいってか?」


 けっこう長考していたつもりであったが、いつまでたってもモンスター集団が入室しようとしない。それどころか、隊列の後方で手榴弾が爆発したのに、入口前で騒ぎ立てるのみである。物は試しと左手にトカレフを召喚し、手前に居る何体かを射殺したが、それでもモンスターらは転移室に入ってこようとしない。


「どうなってんだ? ……ん?」


 今まで気がつかなかったが、室内側の入口上部に横長のパネルがあり、幾つかの文章が流れていた。


「魔法文字か……読めねぇんだよな」


 パンパンパンパン!


 更に発砲を続けて数体を倒した弘は、相手側に飛び道具らしき装備持ちが居なくなったのを確認すると、今度はRPG-7を召喚する。敵数も減ったことだし、後方のアーマーライノスを始末しようと考えたのだ。

 召喚していた日本刀を投げ捨て、トカレフをベルトに差した弘は、床に落ちていたRPG-7を拾い両手で構えた。


「おっと。後方噴射が、転移域に飛ばないようにしないとな」


 声は転移しないようだが、爆風や熱風についても同じかは不明である。帰りを待つカレン達に爆風を浴びせる可能性があるため、弘は横移動して斜めの射角を取った。そして、本体付けされたアイアンサイトを覗き、その先に居るアーマーライノスを見据える。


「悪く思うなよ? 一応、話しかけはしたんだからな?」


 そう呟くと、弘はRPG-7の引き金を引くのだった。



◇◇◇◇



「サワタリさぁん! 戻ってくるのが遅いですよぅ!」 


 戻ってきた弘に対し、転移域のすぐ近くに居たカレンが抗議する。聞けば、弘の戻りが遅いので、後を追って転移域に入るかどうか揉めていたらしい。ちなみに、後を追いかける派だったのは、カレンとグレース。そしてメルだ。他の者は意見しないか、そのまま引き返すかを口にしていたらしいが……。


「いやあ、サワタリぐらい強い奴が戻ってこられないんじゃ、危ないかと思ってな」


 そう言って笑ったのはインスンであったが、その判断自体は間違っていないと弘は考えている。報酬は惜しいが、命あっての物種だ。危ないと感じたのなら、逃げればいい。


(命がけでやるほど、大層な仕事じゃないし、俺に義理があるわけじゃないからな……)


 インスンやケンパーらに対して文句を言う気もない弘は、早々に話題を変えることにした。まずは転移した先であったことについてだ。

 転移先は、この部屋と同じような造りだったが、その部屋のすぐ外にモンスターの集団が居た。弘は、転移域まで押し込まれた結果、この部屋に大量のモンスターを引き込む……ことを警戒し、その場で戦ったのだが……。


「入口を境にして、モンスターが入って来なかった?」


 メルが聞くので、弘は頷いて見せた。


「まるで透明な壁でもあるみたいにな。ただ、俺からの攻撃は普通に通ったから……」


 そのままトカレフやRPG-7での攻撃を加えて、ほぼ一方的に殲滅したのである。


「気張って防具を着込んだのに、拍子抜けしたというか……」


「その鎧……みたいなモノのことか?」


 グレースが黒色のボディアーマーを指さして言う。せっかく召喚した防具だし、わざわざ消すのが面倒なので着たままにしていたのだが……やはり目立ったようだ。インスンやケンパーなどは事情を知らないこともあってか、持ち運んでいるように見えなかったボディアーマーについて聞いてくる。しかし、それらを適当に誤魔化した弘は、メルに対して気になったことを報告してみた。


「この先の部屋で、魔法文字を見たんだけど。読めなくて……」


「なに? そうか、では行くとしよう。モンスターはヒロシが倒したと言うし、ひとまずは安全だろうからな」


 そう言ってメルが歩き出すと、他の者達も転移域に向けて歩き出した。そんな中で、カレンが弘のすぐ隣に移動してくる。ブレザー制服風の衣装に、甲冑という出で立ちが目を引く……が、このとき弘が注目したのはカレンの表情だった。


(ありゃ? 不機嫌そう?)


 眉間に皺を寄せ、少し頬を膨らませている。正直、怖いと言うよりは可愛いらしい。そして、気がつくとカレンの背後にはグレースが立っており、こちらは険しい表情で弘を睨んでいた。


(グレースは元がキリッとした顔立ちだからな。……うん、怖いわ)


 しかし、2人とも怒っている様子なのは何故だろう?

 思い当たることがない弘はキョトンとしていたが、その弘にカレンが言う。 


「サワタリさん。どうして……こっちへ戻ってこなかったんですか?」


「この向こうで戦ってたときの話か? いや、だってなぁ……」


 こちらの転送室で皆が居るのに、モンスターの大群が退去して転送されてきたら危険だ。そうならないためにも、弘は向こうの転送室で踏みとどまったのである。


「それは、そうかもしれませんけど……でも、私……悔しいです」


 途切れ途切れに言うカレンの瞳には、大粒の涙が浮かんでいた。


(よくわからんけど泣かせた!?)


 弘は、喧嘩相手を泣いて謝るまで殴ったことはあるが、女子供を泣かせたことはない。それだけに、カレンの涙を見たことで大いに狼狽えた。そして、どう対応すべきか判断できない弘に、グレースが声をかける。


「カレンの言いたいこと。我には、よくわかるぞ?」


 弘が危惧したことに間違いはないだろう。が、だからと言って一方的に守られたり、危険の排除を弘1人に背負わせたのでは、パーティーメンバーとして……そして、弘を愛する女として悔しく思うのだ。


「付け加えるなら、情けなくも感じるな。サワタリよ。今回は仕方ないことだったと我は思う。しかし……だ。もう少し、我らを頼ってくれても良いのではないか?」


「お、おう。それはわかるが……」


 納得するにしても言われっぱなしでは気に入らない。何か言い返そうとした弘であったが、ジイッと見つめてくるカレンの視線を受けて黙り込んだ。


「わかったよ。これからは気をつけることにする」


 それでも状況によるが……と内心で付け加えた弘は、他のメンバーを見る。他の者達はまだ誰も転送しておらず、痴話喧嘩めいた状況にある弘をニヤニヤしながら見ていた。


(シルビアとノーマは渋い顔してるけどな)


 他では、ジュリアンが無関心な様子。

 もっとも、身分査証しているような女にどう思われようが興味無いので、弘はサッサと行動に出る。


「じゃあ、向こうは今のところ安全なはずだから先に進むぜ!」



◇◇◇◇



 今のところ安全なはずだから。

 そう言った弘の言葉に間違いはなかった。

 転送された先で、パーティーに攻撃してくる者が居なかったからだ。ただ、代わりと言っては何だが、大量の死体が転がっている。

 様々な亜人や獣人、大型のモンスター。そしてアーマーライノスの死体だ。転送室のすぐ外で山積みになっていないのは、手榴弾やロケット弾で吹き飛ばしたことによる。


(RPG-7って、発射してから時間たたないと爆発しないんだな。安全装置って奴かもしれんが……死体の山にロケット弾が突き刺さったときは、何の冗談かと思ったぜ)


 そんなところまで再現しなくても……と思うが、発射してすぐ何かに当たり、それが原因で爆発されても困る。近ければ弘とて爆風を浴びるのだ。


「たまげたな。これをサワタリ1人でやったってのか……」


 室外に出たインスンが、死体を蹴る等して退かしながら呆れている。ちなみにカレン達、以前から弘のことを知っている者達は、このぐらいはやるだろう的な顔をしていた。


「まあ、連中が中に入ってこなかったから……って、そういや、メルに部屋の中の文字を読んで貰うんだった」


 転送室内、その入口上部にはパネルがあって、右から左に文字が流れている。これが魔法文字らしく、弘には読めないのだ。弘は室内に留まっているメルのところへ移動すると、パネルを見上げている彼に聞いてみた。


「で、どうっすか? なんて書いてあるんです?」


「うむ。『次グループが転送待ちのため、速やかに転送せよ』だな」


「ほうほう」


 つまり、先ほどの戦闘中、室外にいたモンスター達は『転送待ち』をしていたということになる。


「俺が転送されてきて、あの部屋に居るままだったから……連中は入ってこられなかったのか」


 念のため、2人で室外に出て確認してみたところ、室外側の入口上部にもパネルがあった。流れている文字は『転送室内に使用者あり。退室するまで待機せよ』である。今足下で転がっているモンスター達は、この指示を律儀に守っていたということになるが……。


(俺は普通に戻れたから、転送先に誰かが居ても転送移動できるんだよな? それでも入ってこなかったってのは……連中、規則を守るよう洗脳でもされてたのか?)


 深読みしていると自分でも思うが、しかし、大きく間違ってはいないとも思う。

 なぜなら、転送室を出た先は巨大な出術室のようになっており、数十ほどもある寝台には拘束具が備わっていたからだ。そして、その上部にはドリルや丸ノコ、溶接機などが取り付けられたアームが天井から下がっている。


「悪の秘密結社の改造室かっつ~の」


 幾つかの寝台にはリザードマンやケンタウロスが拘束されていて、体表に鉄板等を直付けされていた。見れば、銃器っぽい機器も確認できる。


「うげぇ。地肌にビス留めとか、えげつないな。……尻尾に熱線砲が付いた大サソリなんかも、ここで改造されてたってことか……。『警備兵調整室』……ねえ。凄いもの見ちまった気がするぜ」


 何となく納得がいった弘であるが、今回の目標は『警備兵調整室』ではない。あくまでも『管制室』だ。


「……ここにも仮眠室があるのか。じゃあ、他の部屋へ行く扉とか……転送室ってどこだろうな?」


「なんだ? もう行くのかね?」


 メルが弘を振り返り、意外そうな声を出す。もう少し調整室を調べたいそうなのだが、弘は却下した。


「こんなデカい施設なんだから、他にも調整室があるかもしれねーじゃん? そこから増援が回されても面倒だし、それにまだ近場で彷徨いてるモンスターが居るかも知れないっすよ」


 とにかく『管制室』を発見するのが先だ。そう言ってメルを納得させた弘は、皆で調整室を探し、幾つかの扉を発見する。それらは『仮眠室』『用具入れ』『トイレ』等であり、その中に『管制室』と書かれた表札のある扉があった。


「いよいよか……」


 扉前に立つ弘が呟くと、皆の顔に緊張が走る。

 背後では寝台上で拘束されたモンスター達が、全身各所を切り裂かれたり、鉄板を直にビス止めされたりして悲鳴をあげていた。こういった悲惨な状況を生んだのは、おそらくは管制室からの指示によるものだろう。

 いったい何者が指示を出しているのか?

 そういった謎が、この扉の向こうにある。

 弘は扉前に立って自動的に開かないのを確認すると、後ろで立つインスンに目を向けた。


「開かないってんなら、また引っぱがすまでだ。インスン、手伝ってくれ」


「おうさ!」


 手を組んで指関節を鳴らしながら、ミノタウロスが進み出る。現パーティーの怪力コンビにより、扉はあっけなく開かれた。そして、またもや内部は転送室である。


「中が個室で、他に扉もないってことは、そういうことなんだろうな」


 呟いた弘は、再び何かを投げ込んだり、手槍を突き込んだりした後、皆と共に転送域へ踏み込もうとした。


 くいっ……。


 歩き出した弘の両袖を、何者かが引っ張る。両肩側を交互に振り向くと、右側にカレン。左側にグレースが居て弘の服の袖を掴んでいた。


「……なんだよ?」


「いえその……サワタリさんが1人で行っちゃわないかな~って……」


「今度は付いて行くからな」


 2人とも少し頬を赤く染めて言う。カレンは恥ずかしそうであり、一方、グレースは真剣な表情だ。こうまで心配されると男冥利に尽きるが、皆の目もあるため、弘は咳払いしつつ2人をふりほどいた。


「そんなことしなくたって、置いて行きやしね~よ。ほれ、行くぞ?」



◇◇◇◇



「こりゃまた。なんて言うか……秘密基地の作戦室って感じだな」


 飛ばされた先の転送室を出た弘は、目の前に広がる光景を見て呟いた。最初に踏み込んだのは、部屋の左前位置だが、左手には壁一面の巨大パネルがあり、右手側にはひな壇状にオペレーター席らしきものが並んでいる。そして最奥、最上段には、指令席のようなものがあった。これを見た弘の脳裏には、子供の頃に見た特撮ヒーローものの作戦室が思い浮かんだのである。

 さて、ここが目指す管制室であることには違いないのだが、特に誰かが居て何か操作をしている様子はない。


「ぐぬ……ここもまた天井が低いな……」


 遅れて転送室から出てきたインスンが、中腰になっている。その様子を見て苦笑した弘は、再度室内を見回した。冒険依頼の目的地だというのに、誰も居ない。

 この依頼を請けた当初、弘は『管制室』にボスキャラのようなモンスターが居ると考えていた。そいつを倒して万事めでたしめでたし……のはずが、これでは拍子抜けである。


(本当に誰も居ないのか?)


 弘は皆に指示を出し、あちこちを調べさせた。結果、幾つかの仮眠室と給湯場等、そして司令室と朽ちた資料室が発見される。この中で弘が注目したのが司令室だった。


「組織のトップの私室だろ? 何かあるんじゃねーかな? もっとも……」


 後方で肩を落としているメルに、弘は気の毒そうな視線を向けた。資料室を発見した際、最も喜んだのが魔法使いのメルである。そして、内部が朽ちておりゴミの山となっているのを確認したとき、最も落ち込んだのもメルであった。


「学会に名前が残せる機会だったかもしれんのにな……」


 ブツブツ呟いてる姿は実に痛々しい。

 かける言葉が見つからないので、弘はこれから向かう司令室に意識を向けた。管制室からしてこの有様では、個室にモンスターが居る可能性は低いだろう。ならば部屋主不在のところをお邪魔して、勝手に家捜しするまでだ。


「インスンは管制室で……いや、転送室で待っててくれ。後からモンスターが押しかけてきても、誰かが転送室にいれば入って来ないみたいだしな」


「わかった」


 インスンが頷くのを確認すると、弘はトカレフを召喚して歩き出す。向かう先は巨大パネルを正面と見た場合、右側の壁にある通路。その先に司令室があるのだ。


「幾つかある仮眠室の、そのまた奥か……。みんな、場所柄的にモンスターは居ないと思うけど、一応気をつけていこうな?」


 そう言って弘が先頭……ではなくノーマについて歩き出すと、他のメンバー等は一様に頷いたのである。


御無沙汰しております。仕事等が落ち着いてきましたので、ボチボチ書いていきます。

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