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異世界から来た不良召喚術士  作者: 平位太郎
第6章 ダンジョン探索!
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第百九話 クリュセダンジョン(10)

 ガラス扉を打ち破った後、最初に到達した扉。こちらは簡単に開いている。

 元は横スライド式の自動扉だったのだろうが、例によって電源オフ状態だったので、弘が腕ずくで開かせた。ちなみに、インスンが「俺がやろうか?」と申し出ていたが、彼を前に出すには通路が狭すぎたので、弘は断っている。

 さて、部屋の内部は相変わらず真っ暗闇であったが、ノーマが入って後ですぐに明るくなった。


「ええっ!?」


 とは、ノーマの声である。この声を受けて弘が室内へ駆け込み、続けてインスン以外のメンバーが入室した。そこは左右に扉があり、中央にはビリヤード台を大きくしたようなテーブル型パネル。奥には壁際に設置されたデスクがあって、埋め込み型のレバーやボタン類が並んでいた。


(えらくメカメカしい……いや、アナクロで中途半端な感じがするな。いや、それより、ノーマは大丈夫なのか?)


 見回したところ、右方手前の壁際で彼女を発見する。ノーマは壁に背をつけながら天井の照明を見上げていた。


「すごく明るいけれど……光の魔法、なのかしら?」


「……かもな。まあ無事で良かったぜ」


(見たところLED照明に似てるな……)


 天井の照明パネルは眩しくて、光点がどうなっているかは視認できない。ただ、蛍光灯や電球といった見た目ではないので、弘はLED照明かと思ったのだ。とはいえ、このダンジョン……施設は随分と昔から存在しているらしく、長持ちが売りのLEDでも今の今まで機能を保ち続けられるとは思えない。


(日本より科学技術が進んだ文明とかだったのかもな……てか、この部屋って電気が通ってるんだ?)


「ぐお、狭っ! 腰に来るじゃねーか!」


 振り返ると、インスンが苦労しながら室内に入ってきていた。先ほどまでの通路は腰を低くすれば移動可能だったが、この部屋の扉は人間用である。そのため、いったん膝を突いてから肩をねじ込むようにしなければ、彼の体格では入室できないようだった。


「……そもそも、ダンジョン探索系の依頼に向いてないんじゃね?」


「うっせぇ。モンスターなんかは大型のがうろついてんだから、俺みたいなのが探索したっていいんだよ!」


 やけくそ気味に言うインスンを「はいはい」と流し、弘はメルを呼ぶ。弘が見たところ、科学技術と魔法技術が混在するような機器が並んでおり、メルの意見を聞くべきだと判断したのだ。どのみち、各所に見られる文字は魔法文字のようなので、この場に居る者だとメルでなければ読み解けないだろう。


「メル? この部屋のレバーとかボタンとか、調べられる?」


「ふむ、よし。まずは見てみよう」


 頷きながらメルが、中央の巨大パネルや、奥のレバー類を見ていく。そして数分後、彼が皆を呼んだ。


「大まかにだが、各所の文字は読めた。みんな、こっちに来てくれ」


 メルは壁際のデスクと、テーブル型パネルの間にある操作盤前で立っている。そして皆が集まると、操作盤を指さした。


「この操作盤を操作すると、まずテーブル型の台に各層の地図が表示されるはずだ」


 言いつつボタンの1つを押すと、テーブル型パネルが点灯。黒い画面に、白線で地図が表示された。


「上手くいったか。『パネル起動』と書いてあるボタンを押してみたのだが……。で、こっちの円形のツマミを回すと、階層の表示が変わるはずで……」


言いつつパドル上の突起を回したところ、今度は地図表示が次々に変更されていく。


「奥にある、壁際デスクのレバーやパネル類。あれは、このダンジョンのどこかにある警備兵の待機所を管理するためのものらしい。それで、兵士を選び……この操作盤で迷宮各所に転送する……というのが、私の推測するところだ」 


 皆、わかったような、そうでないような微妙な表情をしているが、弘は何となくわかる気がした。


(奥の機械で、幾つかあるモンスター部屋を管理して……使えそうな奴をロック。それを操作盤で各階層の好きな場所に転送させるのか。ますますタワーディフェンスだな。てゆーか、ボタン脇の文字とかだけで操作を読み取ったメルって……凄ぇわ) 


 ネットゲームに関してほとんど経験がないものの、無料で遊べるブラウザゲーム等は、少しだがプレイ経験がある弘。その経験を生かして大まかに自分を納得させたが、驚くべきはメルの推理力、そして納得力だ。……こっちの世界出身で科学技術関連に疎いはずのメルが、ここまで操作を読み取ったのは、やはり魔法使いという『頭脳職』だからだろうか?

 さて、気になるのは、これらの装置を自分達で操作可能かどうかだ。今は、簡単な各階層のマップ表示ができたが、自分達で操作が可能だとしたら、これは面白いことになる。


「メル? 今操作して、どこかのモンスターをダンジョンへ転送できたりできる?」


「む? そうだな。やってみるか……」


 その後、数分間。メルは操作盤をいじっていたが、各階層のマップを見る以外のことはできなかった。


「おかしいな。モンスター選択とかロック解除とか、そういった表示のあるレバーやボタンを操作しても何も起こらない」


「そう簡単にはいかないか……」


 メルの報告を受けた弘は、自分もレバー等を操作してみたが、やはり新たに何かが起こる様子はない。操作盤を見回しても、よくわからない……そもそも魔法文字が読めないのだ。そのため、操作盤から離れて中央のテーブル型パネルを観察してみる。


「ぬうう。やっぱ、わからねーな。メル? ここに浮かんでる文字とかは、何て書いてあるんすか?」 


「待ってくれ。いま行く」


 操作盤をいじり続けていたメルが駆けてきて、畳3畳分ぐらいのテーブル型パネルを覗き込んだ。


「中央上部に出ている大きな数字は、第何階層かを示しているようだ。そっちの縦横に配置された数字は……地図における座標のようなものかな? あとは第7層を表示してみると……あった。魔法物品資料倉庫が表示されている」


「その点滅してる文字は?」


 弘は、テーブルパネルの左隅で滅している表示文字を指さす。それが弘にはゲームセンターのゲーム機で、デモ画面中に表示される『INSERT A COIN』のように見えたのだ。


(たぶん書いてる内容は違うんだろうが……気になるぜ)


「そう言えば気がつかなかったな。ええと……自動配置中と書いてある。……ヒロシ、これは!」


「ああ。モンスターを配置する転送とかは自動でやってる。言い換えると、そいつを解除しなけりゃ、俺達の操作でモンスターを配置したりはできないってことか。この部屋のどこかに、そういう装置がないかな……」


 その後、パーティー総出で室内を調べ、何か見つけるたびにメルに見て貰う……というのを繰り返したが、結局は『自動配置システム』(?)を解除する方法は見つからなかった。

 そうこうしているうちに昼時を迎えたので、昼食休憩を取ることとする。

 食材に関しては、弘がアイテム欄収納して持ち込んだ物を使用した。それは燻製肉をスライスしたものやシチューなどであり、特にシチューに関しては、ギルド酒場で頼んで用意して貰ったもの(もちろん有料)である。そして驚いたことに、取り出してみると作りたてのまま湯気が立っていた。


「これを見る限り、ヒロシの『アイテム欄収納』は収納中、内部で時間が止まっていると見ていいな」


 シチューに舌鼓を打つメルが言うと、皆が感心したように弘を見る。もっとも、インスンのみは『時間停止』について興味を示さず、大量の物品を持ち歩ける能力として、アイテム欄収納を評価しているようだ。中でも、料理をできたてのまま保存できる点について絶賛している。


「凄いって言うか、とんでもない奴だったんだな! いやあ、ダンジョンの中で店屋物のメシが食えるなんて最高だぜ!」


「言っとくけど、シチューは試験的に持ってきただけだからな。これを食べたら、あとはパンと生肉に野菜ぐらいか……アイテム欄の性能上、傷んでないと思うんだけど」  


「それだって大したものだ。ふむ、ディオスク闘技場を沸かせた強者だと聞いていたが、まだまだ秘密がありそうだな」


 ケンパーが口髭を揺らしながら言っている。こういった能力に注目されることこそ、弘的には避けたいのだが、行動を共にする以上は隠し通すことができない。 


(こういうのは、もっと俺が強くなってからの方が良いんだけどな~)


 だからこその単独修行である。誰にも見られない場所でレベルを上げ、今後の行動を楽にするのだ。いわゆる『ぬるゲー化』を目論んでいるのだが、レベルのカンストが何処に設定されているかが解らないので、取りあえずは今の倍くらい……レベル60が目標値である。

 今のレベルが29で、RPG-7を召喚できるなら、レベル60では何が召喚できるようになっているだろうか?


(アレだな。巨大ロボとか召喚できるようになってるといいよな!)


 子供のようなことを考える弘であったが、自分の考えが荒唐無稽だとは思っていない。

 この世界に転移した最初の頃は、不良向けの小道具しか召喚できなかったのだ。それが今では、手榴弾やロケットランチャーを召喚できるようになっている。メリケンサックがRPG-7になると言うのなら、巨大ロボだって召喚できておかしくはないだろう。

楽しい未来図にニヤけていた弘は、ふと女精霊使い……ジュリアンを見た。何となく気になったのだが、今居るメンバーの中で一番正体が掴めないのが彼女である。盗賊ギルドメンバーで構成された女性パーティーの生き残り。しかし、彼女は身分を偽っている。少なくとも『魔法使い』のジュリアンではない。


(どうすっかな? ここで、正体あばきとかしてみるか?)


 彼女がニセモノだと判断できる根拠は、対象物解析によるものだ。従って証拠提示が出来ないため、これこれこう! と畳みかけるように論破できる自信が弘にはない。こういうことは頭脳労働者たるメルに丸投げしたいのだが、それでも事前に打ち合わせぐらいはした方が良いだろう。

 それとなくメルを呼び出し、離れた場所で相談をしたところ……「今は、その時期ではない」という返答を得た。


(「え? なんで? 招き入れる決断した俺が言うのもアレだけど、不審者抱え込むのも限度があるんじゃね」)


(「気持ちはわかるが。ジュリアンが巧みに言い逃れしようとしたら、私だって言い負かされるかもしれん。なにしろ、相手の方は嘘をつき放題だが、こちらには物的証拠がない。更に言えば、彼女が元居たパーティーのことだって噂以上のことは知らないのだからな」)


 こう言われると、弘としては一言もない。他に考えられる手段としては、かつてグレースを縛っていた『隷属の首輪』。あれを使って、ジュリアンに真実を語らせる手があるが……。


(「さすがに気分が悪いだろう? それに、インスンやケンパーが『お前が都合の良いように、彼女に言わせてるんじゃないか?』などと庇い立てするかもしれない。彼らとて、途中加入組だ。ジュリアンの肩を持ちたくなるだろうな」)


 反論の余地すらなくなった弘の肩を、メルがポンと叩く。


(「まあ、気を揉まないことだ。ジュリアンのことについては、一度相談済みで皆警戒しているし。インスンやケンパー達を警戒すべきなのも、皆が理解している。リーダーたる君が注意してくれたおかげでな」)


 そう言ってメルが、車座で皆が座っている中……ノーマの隣へ歩いて行くと、弘は独り離れた場所で立ち尽くすこととなる。


(ジュリアンやインスン立ちをパーティーに組み込む。そうやって一度決めた方針は、簡単に変えられねーし、状況が許しちゃくれねーってわけか)


 暴走族時代のように、「てめーらは、俺の言うことを聞いてりゃいいんだ!」的に物事を推し進められたなら、どれほど楽なことか。


「物事を決めたら、後々まで響くとか……。しかも命のかかったリーダー役だしな。マジでキツいわ……」


 これで何度目になるか覚えていないが、胃に重い物を感じながら、弘は皆の居る場所へと戻っていくのだった。



◇◇◇◇



 休息を終えて。弘達は再度、室内を調べている。

 入ってきた通路から見た場合。『警備兵配置室』は、左右方向に扉があった。いずれも自動扉のようだが、左側は人間用と思われるサイズ、右側はインスンでも立って入れるほどのサイズである。双方、扉上部に表札が掲げられており、左側は『仮眠室』。右側は『警備兵調整室』となっていた。

 調査対象が2カ所ということになるが、まずは『仮眠室』を調べることとする。理由は、部屋名の印象からして、危険度が低そうだったからだ。身体サイズの問題から扉を通過できないインスンを『警備兵配置室』へ残し、弘達は『仮眠室』へ入っていく。内部は一直線の通路が十数メートルほど続き、両側に十人程度が寝泊まりできる寝室が計2つ。奥には給湯室とシャワー室、娯楽室にトイレが並んでいた。


(ビルの警備員室と似た雰囲気だな。ここまで至れり尽くせりじゃなかったし……すぐクビになったから、あんまりよく覚えてないけどな)


 かつてのアルバイト経験を思い出しつつ各部屋を調べてみたが、これといって目を引く品は発見できない。


「駄目だな。ロッカー類の内部も、衣服などが朽ちているのみ。何やらカードのようなモノを発見したが……」


 グレースが粉々になったプラスチック片のようなものを、弘に差し出した。


「IDカードみたいなものか? かなり劣化してるみたいだな」


「あ、あいでい? よくわからないが……つまみ上げた途端、ヒビが入って砕けてしまった」


 自分が悪いわけでもないのにシュンとなっているグレース。妖艶な美女でエルフの彼女が、そういった表情を見せると……弘としてはギャップ萌えのような感覚を禁じ得ない。


「まあ古いモンだから、気にすんな。それより……」


 弘は、寝室のロッカー類を見た。ベッドなどが朽ちて崩れている中、ロッカーだけは劣化している様子が見られない。


「ロッカーがどうかしたのか?」


「いや、それが……」


 グレースに話しかけた弘は、いつの間にかカレン達が集まってきているのに気がついた。


「んお? どうした、みんな? 何かあったのか?」


「何もなかったのよ……」


 代表して発言するノーマが言うには、シャワー室はカビ等の巣窟になっており中へ入って調べる気にもなれなかったらしい。給湯室には、幾つかの食器・調理具があったそうだが、これらはグレースが発見したカードのように、触ると崩れてしまったそうだ。


「娯楽室は空でした。崩れたベンチのようなモノや、植木鉢の痕跡のようなモノがありましたが……」


 娯楽室を調べたのはカレンとシルビアで、瓦礫類しか発見できずに戻って来たらしい。

 特に残念そうでもないシルビアと、グレースのようにシュンとしているカレンを見て、弘は苦笑した。


(リクライニングチェアとか、観葉植物……そんなところか。しかし、尼さんは拾得物に興味無い感じだよな。……ウルスラならカレンみたいに……いや、もっとガックリ脱力した感じになったか?)


 かつて冒険行を共にした尼僧を、弘は思い浮かべる。商売の神を信仰するウルスラなら、金目の物がないことに気落ちするであろうことは想像に難くなかった。

 一方、カレンに関しては「相変わらず真面目だねぇ」と思う。貴族の御令嬢だというのに、何事に対しても一生懸命な姿は、弘から見ると好ましいものだった。


(やっぱ……綺麗で可愛いって感じだよな)


「ワタリ……さん? サワタリさん、どうかしましたか?」


「うおっと、すまん。なんだっけ?」


 カレンに呼びかけられた弘は、その心を現実世界に戻した。どうやら長考していたらしい。皆の心配そうな視線に対し、手の平を振ることで大丈夫だと伝え、弘は寝室のロッカー……その数12台を指さした。


「このロッカーを見てくれ。ベッドや椅子なんかが朽ちている中で、こいつだけは傷みがない。普通の素材で出来てる風じゃないと思うんだが……」


「ふむ。言われて見ると、確かに。この朽ちた部屋の中では浮いた存在だな」


 ケンパーがロッカーを覗き込みながら言い、次いで弘を振り返る。


「だが、それが何だと言うのだ? ただのロッカーだろう?」


「おいおい。気の遠くなるほど長い間放置されて、劣化しない金属ロッカーだぜ? 珍しい金属で出来てるんじゃねーか?」


 呆れ口調で言ったところ、パーティー内ではメル、そしてケンパーとノーマの目の色が変わった。前者は希少物を見る目、後者は金目の物を見る目だ。


「こうして触った感じでは薄い鉄板なのに、鉄よりは頑丈な感じだろ? 錆びないわ、朽ちないわと来たら、鎧とか作るのにイイ感じの素材になるんじゃね?」


 自分達で扱いきれないようなら、高く買ってくれる者を探して売り飛ばしても良い。そこまで弘が説明するとメル達……左記に名を上げた3名は、ベタベタとロッカーを触りだした。


「むう。私の板金鎧よりも薄手なのに、確かに頑丈だな。それに軽い……」


「こういうのって魔法使い的にどうなの? 珍しいわけ?」


「私も詳しいわけではないが。古代文明期の家具で、これほどのモノが使用されるという話は聞かないな……」


 興味津々といった様子で語り合っている。

 弘にしてみたら、ロッカーでここまで凄いと言うのなら、通路等の壁材だって相当なものではないかと思う。


(あ~……でも、頑丈すぎると、どうにもならないかもな)


 RPG-7で穴を開けられるだろうし、破片だって入手できるだろう。だが、それを持ち帰ったところで加工ができなければ、ゴミにしかならないのだ。ダンジョン施設の建材自体は一先ず置いて、カレン達を見たところ……どうやら、ロッカーを持ち帰る方向で意見が一致したようである。


「いくら珍しい金属で出来てるとは言っても、ロッカーを大量に抱えて移動するのは無理よね? でも……」


 ノーマが弘を見ると、他の者達も追従して弘に視線を向けた。


「ヒロシが言う『アイテム欄』なら、このロッカー全部だって持ち運べるんじゃない?」


「おう。そうするつもりで、ロッカーを話題に出したんだしな」


 弘はステータス画面を開くと、アイテム欄を展開して眼前のロッカーを指定する。表示された名称は、『高耐久ロッカー』というもの。


(高耐久か……。このダンジョンに人が居た頃は、こういうのが普通だったのかね?)


 あるいは試験用に回されたのか? だとしたら、ロッカーの他に机とかあってもいいんじゃないか? それらが無くてロッカーだけ残されている理由は何だろう? 施設を引き払う際に、持ち出し損ねたのだろうか?

 今となっては想像するしかないが、そんなことを考えつつ収納を選択すると、眼前のロッカー12台が瞬時に姿を消した。それを見たメルが「いつも思うんだが、どういう仕組みなのかな? 魔法使いとしては大いに気になるところだ」と言い、皆が頷く。それは弘自身も気になることだったが、理屈を知ってる者が居たとして、説明を受けても理解できるとは思えない。なので、そこで考えるのをやめている。


(都合よく使える能力。それだけ解ってりゃ充分だしな)


「で……結局、金目の物はロッカーぐらいか。切ったり叩いて曲げたりができたら、イイ感じの鎧が出来るんだろうが……。そういや、ここへ来るまで今収納したようなロッカーは見かけなかったな?」


 弘が首を傾げていると、シルビアが挙手した。


「このダンジョンが無人になった頃に、備品類が引き上げられたのでは? それに、第7階層あたりまでは探索の手が入っていたようですし。冒険者によって持ち去られた可能性も……」


 やはり、そんな感じだろうな……と弘は思う。特に指定がない限り、冒険依頼中の拾得物は冒険者の好きにして良い。となれば、これまで通ってきた階層にあった物だとて、他の冒険者達が持ち去ったと考えるのが自然だ。


(持ち運びに難がある家具類だって、他に拾得物がなければ、無理してでも持って帰ったかもな。ダンジョンの入場受付を、どうやって通過したか興味深いところだけど……。……ああ、普通にロッカーを持ってきたぜ! って言えばいいのか)


 見た目が普通の家具と変わらないのなら、とにかく目に付くモノを持ってきた……ようにしか見えないはずだ。多少は目立つだろうが、ダンジョン外に持ち出せれば後はどうにでもなるはず。


「だけど、この辺まで到達したのは俺達が初めてだろう? だったら、この先には手つかずの何かがある……可能性が高いってことだな」


 ある! と断言しないのは、これまで冒険者が踏み込んで居ないはずの『仮眠室』でさえ、ほぼ何もなかったからだ。しかし、弘自身が言ったように、未踏破区域には値打ちモノが残されている可能性が高い。皆が頷いたのを見て、弘はおどけるように肩をすくめて見せた。


「……なんてな。探索期間には期限があるんだし、まずは依頼目標の管制室を探そうじゃねーか」


 皆の気をほぐすつもりで言ったのだが、どうやら上手くいったらしい。気配……と言うのかどうか弘にはわからなかったが、カレン達の雰囲気が和らいだような気がする。


「じゃあ、次は『警備兵調整室』だな。扉がデカかったから、インスンも連れて行けるだろ?」


 次なる行動について特に反論がないのを確認した弘は、『警備兵配置室』へ向けて歩き出すのだった。



◇◇◇◇



 『警備兵配置室』へ戻ると、中央のテーブルパネル前でインスンが横になっていた。大きなイビキが聞こえるので、気分良く就寝中らしい。


「いい気なもんだぜ……」


 さすがに呆れた弘が呟くと、ケンパーがスッと前に出た。何をするつもりなのか皆で背を見送っていると……彼は脚甲を装着した足で、インスンの頭部を蹴飛ばしたのである。


 どげしっ!


 どれほどの力で蹴ったものか、インスンの巨大な頭部が床から浮き上がった。当然ながら、この一撃でインスンは目をさまし、すぐ後ろにいたケンパーに食ってかかっている。


「テメェか、クソ騎士! なんて起こし方しやがる!」


「ああ、すまんすまん。牛が惰眠をむさぼってるのはいいが、中途半端に人の姿なのでな。ちょっとイラッと来たんだ。悪気はない」


「悪気ありまくりだろうが!」


(こういうのもパーティー内不和になるんかね。他人事じゃないよなぁ……)


 弘は内心呟いた。自分自身、カレンとグレースの件で火種を抱えているので、インスン達の不仲を悪く言えないのだ。とはいえ、パーティーリーダーとして、メンバー同士の喧嘩は止めるべきだろう。 


「だから、お前ら喧嘩すんな! てか、今のはケンパーが悪いぞ! 無闇に手や足を出すんじゃねえ!」 


 そう一喝すると、ケンパーはインスンにではなく弘に対して頭を下げ、インスンには背を向けて戻ってきた。反省の色が皆無である。勿論、インスンは収まりがつかないが、その彼を宥めつつ、そして話題を変える意味で弘は話を振った。


「で? そうやって寝てたところを見ると、特に問題はなかったんだな?」


「お? おお、平和で退屈極まりなかったぜ」


 インスンは弘達が『仮眠室』に入ってから、今の今まで寝ていたが、誰も『警備兵配置室』に入ってこなかったと言う。もっとも、弘達が戻ってきても起きなかったのだから、他に誰かが入室したとしても寝たままだった可能性は高い。

 話半分で聞いていた弘は、適当に相づちを打ってから未探索の扉……『警備兵調整室』の方を見た。つられてインスンも扉側を向く。


「次は、あっちを調べるのか?」


「ああ、中の状況次第だけど。扉は大きいし、インスンも来てくれるんだろ?」


「もちろんよ! なにしろ今の俺は、お雇いの冒険者なんだからな。しっかり働かせて貰うぜ!」 


 インスンは板金鎧の胸部を叩き、ゲハハハハ! と大笑した。こういう姿だけ見ていると、見た目がミノタウロスなだけに頼もしいのだが……。


(素行が悪いって話だしなぁ……)


 弘は、その『素行の悪さ』を目の当たりにしていないわけだが、ともかく、インスンが戦闘に加わってくれるのは大きなプラスだと考えている。


「よし、『仮眠室』に行ったメンバーは連続で悪いが、このまま『警備兵調整室』を調べにかかるぞ!」


 弘の号令により、皆が動き出した。と言っても、最初にしたことは全員で『警備兵調整室』の扉近辺に立つことだ。まず扉の向かって左側に、インスンとケンパー。右側にノーマと弘が居る。他のメンバーは弘側の後方に居た。扉は『仮眠室』の扉と同じ両開き式だったが、誰かが前に立ったからと言って自動的に開いたりはしなかった。


「右側にある、このテンキーみたいな奴で開閉するんかな?」


 十数個ほどあるボタン。今はノーマが触っているが、それでも開く気配はない。弘は「テンキー型ってことはパスワードが必要なのかもな……」などと考えていた。そして、そのパスワードの手がかりが無い以上、やはり力ずくで開くしかない。試しに手をかけてみたが随分と厳重に閉ざされており、これまでの扉のようにはいかないようだ。

 弘は後方を振り返ってメルを見た。


「メル? 警備兵の調整室ってことは、この中で警備兵に何かしてるってことだよな?」


「字面からすると、そうなるな。単なる医務室かもしれんが……」


(医務室……ねぇ)


 弘の脳裏に、少し前に戦った巨大サソリが思い浮かぶ。あの巨躯だけでも相当な脅威であったが、尾の先に備え付けられた熱線砲には冷や汗をかかされたものだ。ああいった改造が、この中で行われているのではないか?

 そういう妄想が浮かんだわけだが、ここでアレコレ考えていても事は前に進まない。暫くたってノーマが解錠を諦めると、弘はインスンに声をかけた。


「インスン、さっそく出番だ。あんたと俺で、この扉をこじ開けるぞ?」


「うほっ! そういう解りやすい仕事なら、お安い御用だぜ!」


 インスンは戦斧を背負い、指の関節を鳴らす。そういう仕草を、鎧をガッチリ着込んだミノタウロスがやるのだから、いかにも力強そうに見えていた。


「いいねぇ。力仕事ができる奴が他にも居るってのは助かるぜ」


 カレンの力をあてにすることも考えたが、インスンが居る以上、まずは2人で何とかしてみようと弘は判断する。


「じゃあ、俺は右側……インスンは左側で扉を引いてくれ」


「わかった」


 移動したインスンが反対側に立って扉に手を掛けると、弘も扉の隙間に指を差し込んだ。魔法結界のようなモノは張られていないらしく、簡単に指が入る。


(インスンと2人なら行けるか? 駄目ならバールも使うしかないな。最悪、RPGで吹っ飛ばしゃあいいか)


 ちなみに、最初からバールを使わなかった理由は、同時に扉へ手をかける者が居るのに、バールを使うと危ないのではないか……と思ったからだ。信用がおけないはずのインスンを気遣ったことになるが、それを意識することなく、弘はインスンと共に扉を開きにかかったのである。


クリュセダンジョン編が間延びしてます

あと3~4回で終わればな……と

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