雪の降る夜に
とっても短いです。
雑踏の中に立っていると、ひらりと一片の雪が舞い降りた。
綿毛のようなその結晶はふぅわりと溶ける。
見上げると、闇の中にはらはらと白が舞い散っていた。
妖精の涙みたいだと感じた。
深い深い、ため息を吐き出す。
とても寒い夜の空気に、僕の吐息は真っ白に濁った。
霧のようにたなびいて、次第に薄れて消えてゆく。
いつかの彼女のようだと、僕は呟いた。
空を見上げる。
人混みに紛れて今も僕は一人だ。
美しい雪化粧を見ても、感動を覚えない自分がいるのが嫌だ。
彼女の最期、病室を思い出すから。
白の持つイメージは儚げな美しさじゃない。
何もない、希望の欠片も見当たらない虚無感だ。
寒い夜の闇が広まってゆく中、僕の目頭は真っ赤な鉄みたいに熱かった。