表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/23

PRESENT FOR ...?

 アパートに入る角を曲がったところで原付が追い付いてきた。アパートにつくのはほぼ同時。先に上がって部屋の鍵を開け、玄関の明かりをつけて待っていると、ケーキを提げ、自分のトートバッグを肩にかけたあいつが上がってきて怪訝そうな顔をした。

 取り敢えず中に入るように促し、ドアを閉め、鍵をかける。

「まあ、上がって」

 それだけ口にするのにも緊張でのどがカラカラだ。

 おじゃましまーす、と小さく呟く彼女に手を伸ばしてそっと後ろから抱きしめる。軽く身をこわばらせたが、不意打ちなのに昨夜のように反撃はされなかった。

 玄関の明かりを消して、短い廊下を奥へ進む。奥のワンルームに入ると、つけっぱなしのエアコンでむっとするほど暖まった空気が流れ出てくる。

 片手で彼女を確保したまま、もう片方の手で明かりをつける。

 困惑した表情の彼女の顔にキスを落とす。寒い中、原付を走らせてきた彼女の唇は冷たかった。舌を入れたかったが嫌がられたら思いきり噛まれそうなので思いとどまった。

 顔を離すと、驚いたように見開かれた目がそこにあった。

「……目くらい瞑れよ」

「……あ。……なんか、びっくりして」

 瞬きする事を急に思い出したかのように何度も繰り返す。……ずっと見ていたんだろうか?

 彼女がしっかり掴んでいたケーキの箱を取り上げ、キッチンの冷蔵庫の上に載せる。

「ええと……いったい何がどうなってるの、かな?」

 抱きしめたままラグの上に座らせると、困惑を隠せない、といった表情で訊いてくる。

「ケーキのほかに、プレゼントも欲しくなった」

 言いたい事を口に出すと、すごくベタなセリフになってしまうが、一応前置きをする。

「ほかに、って。リクエスト聞いてないけど」

「……お前」

 あまりにベタ過ぎて、恥ずかしい。何か言い返される前に口を塞ぐ。

 さっきは冷たかった唇が温かくなっている。そっと舌で唇をなぞると、小さく体を震わせる。

「…ん……ふ…ぅ…っ」

 わずかに唇を離したすきに甘い吐息が洩れる。愛おしさが募って思わず抱きしめる腕に力が籠もる。

「ん……だ、め…っ」

 強く抱きすぎてしまったのか、不意に彼女がもがき始める。

「……厭か?」

「……いや、じゃない……から、困るの」

「どうして?」

 厭じゃない。だけど困る、なら解る気もする。女性には都合の悪い日がある、というのは理解している、つもりだ。

 でも、厭じゃないから困る、とは?

「だって……そういう関係じゃなかったでしょ? あたしたち」

「じゃあ、どういう関係?」

「……少なくとも、恋人とか、そういうのじゃなかったはず。でしょ?」

「恋人じゃなきゃ、ダメ?」

「あたし、面倒な奴だもん。ノリや勢いだけじゃできないもん」

 つまり、都合のいい時だけ体をつなぐような事はできない、と言いたい訳か。……それに。

「……うん、知ってる。……と思う」

 泣きそうな顔をそっとついばむ。

「だから、そういう事、考えないようにしてた」

「なら、どうして?」

「あのケーキ。『お誕生日おめでとう』が二十三枚乗ったやつ。あれにやられた」

「……は?」

 素っ頓狂な返事が返ってくる。こっちはあれでとどめを刺されたも同然だというのに。

「毎年零時きっかりに『おめでとうコール』よこす律義なとこも。……そういうのはラヴな相手にするもんだぞ、って最初の時に言ったのにな」

「……そう、だった?」

 言ったとも。仕返しに同じことしようとしたら電源切ってやがるし。

「だから、二年目にまた掛かってきた時は、軽くパニクったんだぞ? ……なのに会った時も全然態度変わんねーし。あー、これはお前んとこに来る『あけおめメール』と同じような感覚なんだな、って思った」

「あたし、それ嫌だから電源切っとくもん。……知ってる人はそんなもの寄越さないし」

 だから、そんな事、とっくに知ってる。

 いつの間にか伸ばし始めた艶やかな髪を指で梳く。

 確か二年くらいまでは肩より長くはなってなかったはずだ。

「……就活のせいだか何だか知らねーけど、この一年、どんどん綺麗になってくし。気が気じゃなかった」

 他の誰かのためだったらちょっと口惜しい、とか。

 誰かに告白されたら、こいつウブだからあっさりOKしちゃうんじゃなかろうかとか。……そんな隙、なかったみたいだが。

 抱き寄せた頭を撫でながら耳朶を甘咬みする。腕の中の体がかすかに震え、あえかな吐息を洩らす。

 こんな顔やこんな声、他の男の前でさせたくない。

「知ってるか? 俺が自分から手を出したくなったのって、お前が初めてなんだぞ?」

 寄ってくる女なら少なからず、いた。

 どいつもこいつもよほど自分に自信があるのか自分のわがままばかり通そうとした。

 予めお前の優先順位は一番じゃない、と言ってあっても、だ。

 ……こいつもそうじゃない、という保証はない、か。

 でも。

「だから、……大事にするから」

 彼女の前に両手を揃えて出す。

「……頂戴?」

 こいつのわがままなら、きいてやってもいい気がする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ