CALL
零時きっかり。
携帯のアドレス帳に登録されている番号に電話する。
コール二回で相手が出た。
「お誕生日おめでとう」
『……ども、毎年毎年。言葉だけは』
「今年は、リクエストの品、あるんだけど、要る?」
『……え?』
「と・く・べ・つ・に頼んで用意してもらったの。要るの? 要らないの? 要らないんだったら」
『要る要る!』
「んじゃ、今から配達するから。待ってて」
『……は? こんな時間に?』
「だって午後からまたバイトだし」
『じゃなくて。この辺、人気のない道もあるから。一応、女の子なんだから、一人で出歩かない!』
人気があれば安心とも限らないんだけどなー。そもそも、帰り道だし。
「帰るとこだから。ちょっと遠回りになるけど。早番の社員さんは三時入りだって言うし」
『社員の事はこの際いいから』
「それに、原付だからもう着くよ」
『運転しながら電話すな!』
そう怒鳴ると通話が切れる。
点滅している赤信号を見上げて、原付をスタートさせる。まっすぐ行けばあたしのアパート。右折すれば、配達先のあいつのアパート。どっちもここからは同じくらいの距離。
原付を駐輪場の端の方に停めると、階段の陰から黒い人影がぬっと現れ、腕を掴まれた。
「ちょ…っ…待った!」
反射的に打ち込もうとした肘を寸前で止める。
腕を掴んでいたのは、黒いジャケットを羽織った長身の男。『黙って立っていればクール系イケメン』といわれるシャープな顔に焦った表情を浮かべている。
「お前が強いのはわかってるけど…っ。……そんな暗いとこに停めると、原付、いたずらされても知らんぞ?」
「んじゃ、すぐ帰る。これ配達品ね」
原付の荷台にくくりつけた籠に入った華奢な、でも大きい箱を手渡す。
「心して、よーく味わって食べるように」
「ちょっと。これ、一人で食えって?」
「食べきれそうになかったら、誰か呼べば? 知り合いに片っ端から声かければ、五人や十人は捕まるんじゃない? 暇なのが」
こう見えても知り合いだけは多いのだ、この男は。
「十人は無理だろ。それに夜になるまで判らないし」
「んじゃね。今日のバイトはハードだから、帰って休むわ。ばいばい」
二十一センチのデコレーションケーキの入った箱を抱えた男を置き去りにして、原付をスタートさせる。開けた時の顔がちょっと見たかったなあ、と思うけど、明日の――もう、今日か――バイトはホントにハードだから早く寝ないと。




