CHOCOLATE TRIFLE
年が明けて就職課に事情を告げて相談してみたが、あまり捗々しい感触は得られなかった。今来ている求人は、すべて来年度卒業予定者のものなのだそうだ。……一年就職浪人するか、派遣に登録するしかないのだろうか。
年が明けてからも人寄せパンダは足繁く通ってくる。
内定がパァになった私がやたらとバイトを入れているせいだろう。(とはいえ、さすがに毎日ではないが)
「もうこのままうちの子になっちゃえば? 歓迎するよ」
昼休み、休憩室でお弁当を食べていると(年が明けてから昼休みを挟むときは弁当持参にしている)、店長がにこやかにそう話しかけてきた。
「福利厚生は最低限しか見込めないけどね」
副店長のツッコミは的確だ。
現在、この店の正社員(と言っていいのだろうか?)はこの二人だけで、あとはすべてバイトで賄っている。バイトの主な仕事は、接客と品出しで、客が少ないときには店内清掃もそれに加わる。
……というより、現在この二人は『共同経営者』なのだ。つまり、今のところ二人とも自営業者。そこに私が入るとしたら、唯一の『従業員』で、それに伴っていろいろな事務手続きが発生するんじゃないのか?
「……っていうか、雇用保険とか支払える余裕あるんですか?」
「まあ、それくらいは何とか。フルタイムで入ってくれる人がいれば、バイトのシフトに余裕もできるし」
考えておいて、と、二人が休憩室を出ていく。
二月に入り、チョコレートケーキの種類を少し増やした。クッキーやマドレーヌも期間限定でココアやチョコレート掛けのものを置くようになった。
この時期、店内はチョコレートの匂いが充満している。
「いらっしゃいませー」
ドアの開く音に作業の手を一瞬止めて、条件反射的にお決まりの挨拶を返す。客の少ない今頃の時間は品出しの作業がある。
「チーズケーキ。ケーキセットで」
キリのいいところで作業を止める。カウンター越しに聞こえる声は、いつもの人寄せパンダだ。
「お飲み物は」
一瞬時計の方に目をやると、いつもより早い時間。そういえば、今日は例会があるのだった。
「コーヒー。ホットで」
いつもの注文を受け、会計を済ませる。
冷蔵ショーケースから注文の品を出して皿に盛る。普段ならここで飲み物をトレイにセットすれば準備完了なのだが、今日は。
ショーケースの隅に置かれた三つの密閉容器を作業台に出す。ガラスの器に密閉容器の中身を順に盛り付けてゆく。密閉容器の中身はそれぞれ、角切りのココアスポンジ(チョコレートケーキの切り落とし)シロップ漬けのフルーツ(商品には使えない、形の崩れたもの)カスタードクリーム、だ。盛り付けが終わったところで上にホイップクリームを飾る。
三つの品を載せたトレイを持ってテーブル席に向かうと、怪訝な表情をされた。注文した覚えのないものが載っているから当たり前だろう。しかもそれは注文品のチーズケーキよりもでかいのだ。
「……それは?」
「バレンタインのサービスでございます。本日限定で」
「ふうん……」
本日限定のサービス、は本当だ。
ただ、ほかの人に出したそれは、小皿に乗せたトリュフだ、というのは内緒だ。




