……AND WOULD YOU TAKE MY HOPE?
二時間ほど車を走らせて着いたのは、県央にある商売繁盛の神社だった。
不景気だから、なのか、不景気にもかかわらず、なのか判らないが、結構な人出だった。
「うわぁ、混んでる……」
あたしがうめくと、ヤツはあたしの腕を掴んで自分の腕に絡ませた。
「はぐれたら困るからな」
ベタだなぁ、と思いつつも、なんだか嬉しい、と思ってしまう自分は、以下略。
露店を冷やかしながら初詣を終え、おみくじを引いたりお守りを買ったり(商売繁盛の神を標榜しているのに、交通安全とか安産祈願のお守りまであるのはなぜだろう)して神社を堪能すると、いつの間にか空が明るくなってきた。あいにく曇っているので、初日の出は拝めそうにないが。
車まで戻って次はどうするのか、と訊ねると、大きく息を吐いた奴は、スーツの内ポケットから白い封筒を取り出した。
「何?」
「あー……誕生日プレゼント、のようなもの、だ。開けてみろ」
のようなものってなんだ、と思いながら、言われたとおりにする。
封筒には薄い、緑色で印刷された紙が入っていた。
既に記入済みだ。……約半分は。
これを役所に提出すると……
改めてヤツの顔を見返す。
「だって、言っただろう? 『プレゼントに、お前が欲しい』って」
そういえば、言われた、ような気もする。
「そ、そういう意味、だった、の?」
「あん時は、そこまで考えてなかったけど、な」
ふうっと息を吐き出す。
「……手放したくなくなった」
ふわりと温かい腕に包まれる。
「いろいろ考えたけど、ストレートに言うのがいいかな」
「ちょ……ちょっと待って! ……早すぎない?」
「何が?」
何がって、何もかもが。
「だ、って。……好きだ、とも、付き合おう、とも……聞いてないし」
「そうだっけ?」
例会がぴったり予算内に収まった時とかに、「えらい! よくやった! 愛してるぞ!」とは言われた気はするが。
「酔った勢い、とかは、ノーカウントで」
あ、顔が歪んだ。ちゃっかりカウントに入れてたんだ。
「……わかった。言えばいいんだな」
っていうか、既に勢いでそれ以上のことまで言われてる気がする。
……それに、それ以上のこともシテる。
「待って! 段階を踏んで、でお願い」
「……話の腰を折るやつだな。……まあいい。ちゃんと聞いとけよ?」
言うなりあたしの手を握り締める。
「好きだ。お前の傍は居心地がいい。手放したくない。友人としてだけじゃなく、……女としても」
掴んだ手を、そっと口元に運ぶ。
「最初で最後の男にしてほしい。俺もお前を最後にする。……愛してる」
指先にそっと口づける。
「今すぐ、とは言わない。……結婚してほしい」
長身の男が上目遣いする。これは大変に心臓に悪い。
「……心変わりしない、っていう保証は? ……これから出会う、誰かに」
素直じゃない自分が恨めしいが、つい憎まれ口を利いてしまう。
だって、まだ社会に出る前のひよっこでしかない。これからきっと、たくさんの出会いがある。他に心惹かれる人が現れないとも限らない。
目を見開く男に、続けて畳み掛ける。
「……それに……最後の男にするには、あたしより長生きしないとダメなんだよ?」
不意に視界が遮られる。しばらくして抱きしめられたのだと気付く。
「お前、なんでそういうかわいいこと不意打ちで……まあいい。返事は?」
かわいい?
どこにそんな要素が?
っと、返事を求められているんだった……
「えっと……前向きに検討します、とかじゃ?」
ヤツの顔が歪む。
「それは婉曲的な断りって知ってたか?」
「そう、なの?」
返事を先延ばしにしたいだけ、なんだけど。
「そうなんだ。ちなみに、イエスかノーかでしか答えは受け付けないので、心して答えるように」
「二択?!」
っていうか、もしここでノーを選択したら、どうなるのだ。
訊いてみた。
後悔した。
大変に恐ろしい微笑みとともに、「出来るもんならどうぞ」と返された。実質一択じゃないか。
「……あー……ええと……」
何て答えりゃいいんだ? 何て答えるべきだ?
正直、あたしにはいろいろと(主に女としての)自信がない。
だいたい、就職問題だってまだクリアになっていない。
そもそも、この『プレゼント』だって、ものの弾みではないかと疑っている。
でも。
「…………………………よろしくお願いします?」
実質一択なら、こう答えるしかない、よね?




