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HAPPY BIRTHDAY

 車から取ってきた大きな紙袋(とても見覚えがある)を携え、実家の玄関に立ったヤツの姿には、どこか違和感を感じる。

「夜分お邪魔します。これ、大したものではありませんが」

 ……って、最初から上がる気満々だったのか。

「まぁまぁおかまいなく。どうぞあがって?」

 ……母。その妙な微笑を消してはくれまいか。

 横を見てコートを脱いだヤツを見て驚いた。なんでスーツなんか着てるの。しかも就活用(リクルート)じゃないやつ。ネクタイこそしてないけど。インナー、カラーシャツだけど。

 手土産の中身は(やはりとても見覚えのある)ケーキの箱。その下に一回り大きな、見覚えのある包装紙に包まれた四角い箱もある。このサイズだとマドレーヌあたりか。

 ……あれ?

「ケーキは、プレゼントじゃないの?」

 リビングに向かう途中でこっそり訊いてみる。

「一人で喰うつもりか? あれ」

 さすがにワンホールは無理だけど、半分くらいなら……って、違う。

「そういうつもりでは……じゃあ、プレゼントって?」

「それはあとで」

 リビングに行くと、なぜか父がいた。いつもならこの時間、お屠蘇気分でおねむなのに。

「お邪魔します」

「いらっしゃい。どうぞかけて」

 ……『いらっしゃい』だと?

 まるで来ることを知っていたかのような……

 ……まさか?


 あたしは台所に引っ込んだ母のところに詰め寄った。

「母! つかぬことをお聞きしますが、正直にお答え願えますか?」

 母はニマニマしながら紅茶を入れているところだった。茶菓子には見覚えのあるシンプルな包装のマドレーヌとクッキーが出されている。ちなみにクッキーは私が店長から『帰省みやげに』と持たされたものだ。

「何怖い顔してるの? そんな顔だと答え忘れちゃうかもよ?」

「いいから答えて。父と母はアレが来るのを知ってたの?」

「アレって何のこと?」

「今リビングにいる、これ持ってきたヤツのこと!」

「ああ」

 母はサラッと奴の名前を答えた!

 なんで知ってるんだ!

 ……いやこの流れだと、ヤツが自分から名乗ったのだろう。でも、いつそんな機会が。

「連絡があったのよ。あんたが帰ってきた日の、お昼ちょっと過ぎに。誕生日のサプライズを仕掛けたいから、内緒に、って」

 サプライズですか。そうですか。驚かされましたよ。成功してヨカッタデスネ。

「それにしても、知らなかったわあー、あんたが面食いだなんて」

 なぜ自分の親にそんな誹謗中傷を受けなければならないのだ。ヤツか。ヤツのせいか。

 いや、『面食い』を誹謗中傷と感じる自分がおかしいのか?

「べつに、面食い、って訳じゃ……」

「ほーほー、顔以外にもいいところがある、と。惚気(のろけ)てる訳ね」

「のろけ、って。いや、あの顔が客観的に見て標準よりは上だとは理解してますが、『面食い』の好物になるかというと……」

「彼が好きってところは否定しないのね」

「……」

「あんたとガールズトークができる日が来るなんて思ってもみなかったわぁ」

 うふふ、と笑いながら母が紅茶をリビングに運んで行くのを呆然と見送る。ガールズトークなんて、したいとも思わないし、する予定もありませんが。

 軽い頭痛を抱えてリビングに戻る。いっそ自分の部屋に籠りたい気もしたが、あたしのいない隙にどんな密約を交わされるかわからないので。……もう手遅れかもしれないけど。

「ああ、来た来た」

 ドアを開けると三対の目がこっちを向く。

「その恰好じゃ寒いだろ。着替えておいで」

 にこやかな笑顔で闖入者(ヤツ)がそう言い放つ。

「……は?」

 リビングは暖房が入ってるから窓際に立つとかしなければ寒いとは感じない。

「初詣に行こう。ご両親の許可は取った。厄落としだ」

「初詣って……今から?」

「ああ」

「……どこに?」

 あんたこの辺の地理に詳しくないよね?

 ナビが頼り?

 それともあたしにナビをせよと?

「おすすめの神社を伺った。回れるだけ回ろうと思う」

 ヤツが挙げた初詣スポットには、隣の県も入っている。一日で回りきるなんて無理だ。大体、方角的にもばらばらだ。

「いや、三が日はどこも混んでるし。はしごしても二件が限度」

 神社仏閣の数え方は『件』でよかったかな?

「じゃあ、もう少し絞ろう。とにかく着替えておいで」

 反論は許されませんか。出かけるのは確定、と。

 着替えてリビングに戻ると、母がどうやらご不満な様子。

「行き先は決まった?」

 母のご意見は置いとくとして、確認すべきことは確認しておきたい。

「ああ。殊に就職とか仕事運にご利益のあるところはどこか、って」

 就職にご利益、と聞いて、口の端が引き攣る。

「……ばらしたの?」

 詰め寄って小声で尋ねると、小さく首を振る。

 安堵の息を()くと、おもむろにヤツが立ち上がる。

「では、そろそろお暇を」

 そして、通りしなにあたしの腕を掴んで両親の方に向き直る。

「それではお嬢さんをお預かり致しますね」

 胡散臭い笑顔でそう言って、軽く頭を下げる。お嬢さんて誰のことだ? あたしか。

「なるべく早く帰れるようにしますが、遅くなるようなら連絡します」

 胡散臭い笑顔のままそう言って、玄関に向かう。

「いってらっしゃい。帰りの時間より、事故に気をつけてね」

 玄関の上がり框で母が言う。

「お邪魔しました」

「……行ってきます」

 ドナドナの歌が頭の片隅で聞こえるような気がする。選曲が間違ってるような気もするが、どっちにしろ実際に聞こえるわけではないので、どこに突っ込んでいいのかわからない。


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