NEW YEAR’S EVE
大晦日。
今年の大掃除も予定範囲を終えることはできなかった。まあ、大掃除が計画倒れになるのはいつものことだ。欲張りすぎる計画を立てる人が悪い。
その計画を立てた人は、一日台所にこもっている。年越し蕎麦とお節の準備で。もちろん台所の大掃除はまっ先に終えるよう命じられている。
「お疲れー」
という声とともに年越し蕎麦が出される。
「年越し蕎麦ってさ、何時食べるのが正しいんだっけ?」
「大晦日」
「他の日に食べるのは、『年越し蕎麦』って言わねぇよ。だから、大晦日のどこで」
「自分ちか蕎麦屋で」
「だぁーっ!場所のことじゃなくて」
他愛ない戯れ言の間にも、山盛りの天ぷらがどんどんなくなってゆく。
それでも以前よりは減るペースが落ちてきたか。
食べ盛りの十代男子が三人(うち一人は小学生だったが)もいた頃はそれこそ瞬殺だった。だから母は大晦日は大掃除には参加せず、料理に掛かり切りになったのだ。
「はーい、天ぷらはこれで終わり! 足りなかったらお節開けてね」
母が台所を引き上げてきた。自分が食べる分の天ぷら蕎麦と一緒に。
「へぇへぇ」
「あれ? 海老なんてあった?」
「あったぞ。始めの方に」
「うーん、記憶にない」
「もうボケが始まってるのか? 俺より若いのに」
相変わらず賑やかだ。いや、頭数が増えた分、余計にか。
「ごちそうさま」
大掃除に楽な仕事を割り振られている代わりに、台所の後片付けはあたしの仕事になっている。
油の後始末をして、食器と鍋を洗い、コンロを磨いていると、メール着信があった。いつもより早いけど、ヤツからだろうか。
「定時連絡?」
手を洗って、ポケットから携帯を出したところにひょっこりと母が顔を出した。
「て、定時連絡って何? 母」
「何とぼけてるんだか。帰ってきてから毎日同じ時間に同じ音がしてるんだもん、気付くわよ。すぐ切れるから、メールかなー?」
しまった。サイレントモードにしとくんだった。
「で、誰から?」
「えーと、サークルの部長? みたいな?」
嘘ではない。非公認のサークルとはいえ、一応ヤツが代表だ。
「あたし会計兼書記兼副部長みたいなことやってるから、引き継ぎとかあって」
これも嘘ではない。『ハッピーバースデー』を引き継ごうっていう奇特な奴はいないかって声をかけてるって昨日のメールにあった。
「毎日メールしなきゃならないほど用事があるの?」
嘘を言った訳ではないのに、そこツッコんできますか、母!
「後任が決まらなくて。これで最後だからいろいろと詰めておきたいこともあって。メールでやり取りすれば記録残せるし」
記録として残すには、だいぶ編集が必要だけど。
「ふーん? ……まぁいいわ。それより、メール見なくていいの?」
「……後にする」
昨日まで内容からすると、母親の目の前で見て大丈夫な内容だとは思えない。……あたしの精神的に。
「そーぉ? ま、ごゆっくりどうぞ」
納得はしてない、って顔だけど、意外な事に簡単に引き下がった。




