WORK END/HOMECOMING
従業員出口を出ると、客寄せパンダをやっていた男がすぐ横の壁に凭れていた。
「おつかれ」
「……そっちこそ」
用もないのにケーキセットひとつで五時間だ。よく飽きもしないものだ。
……それともここは『寒い中待っててくれて嬉しい』とでも言うところか?
「さ……」
「さ?」
「さむ……」
「……寒いのか?」
言うが早いか抱き包められる。そう来るか。
タイミング良く風なんか吹いてくるし。思わず身震いすると、ぎゅっと抱きしめられる。
「だから公道上でそういう事はしない、って」
体をもぎ離そうと抵抗してみたが、敢え無く壁に押し付けられ、唇が貪られた。
「ほら、あったまった」
頬を撫でながらそう言うが、こっちはそれどころではない。日を追うごとにキスが激しくなっている気がする。
「……この間から、キャラ違ってない?」
いう事をきかない膝を立て直して顔を上げると、やつはあたしの頭に顔をうずめているところだった。
「んーん?」
洩れ聞いた限りでは、女の子に対してこんな忠犬ハチ公みたいな真似する奴じゃなかったはず。
それに年末年始はだいたいフリーで……
……だから、かな?
「別に違っちゃいないよ? 『お気に入り』は大事に扱うし」
それはナニか? 今までの『彼女』たちは『お気に入り』に入らなかったってことか?
何か期待してしまいそうになる言い草だけど。……確認するのは怖い。
「そんな不安そうな表情で煽るな。言ったろ? こんなことするのはお前が初めてだ。ずっと近くにいたから、考えてることバレバレだし、興味のあることや好き嫌いも、まぁ、把握してる。……つもりだ」
饒舌なのは、あたしが帰省準備してるのを知っているから、だろう。
彼のご実家にお邪魔、というお誘いは丁重に辞退した。だって、理由がないし。
……ない、よね?
「何か釈然としないけど、まあ、『キャラ違い』は引っ込める」
誰かほかの人の意見も聞きたいところだけど。……誰に聞いたらいいやら。
「明日は何時に出るの?」
ケーキを配達に行った日から置きっぱなし(!)になっている原付にキーを挿すと、いかにも何気ない様子を装ってヤツが訊いてきた。……何企んでるんだろう?
「えーと……特に決めてないけど、10時ごろには出たいと思ってる」
混む時間帯は避けたいけど、この時期はよっぽどの早朝でないとたいてい混んでる。
「……見送りなら、要らないよ? たかが帰省だし」
「つれないなあ。……ツンデレ?」
グーパンチを繰り出すふりをしたら、大げさに躱された。
「ああそうだ。実家の住所、教えといてくれる?」
「……知らなかったっけ?」
「県までしか知らない。サークルの名簿にも載ってないだろ、実家は」
そういえばそうか。原本の方には、判る範囲で載ってるけど。例会の参考にするために。
ポケットから携帯を取り出す。メール作成画面を開いて、アドレス帳から『実家』の住所を張り付けて送信する。……ヤツのパソコンのメアドに。
「パソコンの方に送ったから。郵便番号は調べといて」
パソコンの方、と言われてちょっと目を見開いたヤツが、肩を竦めて苦笑した。
「解った。調べとく。……じゃあな」
手を上げてあっさりと見送るヤツの様子に、なんか物足りない、と感じてしまう自分は、きっとヤツに毒されているのだと思う。




