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CAKE SET

 掃除と洗濯を片付けると、なんだか手持無沙汰だ。今まで何して時間潰してたっけ、この時間。

 ……去年は、飲み潰れてたっけか、この二日間は。だからか。

 別に、『誕生日』を祝ってもらえないからと言って不貞腐れていたわけじゃないけど。

 ……そんなつもりではなかったけど。

 だが、この日人に会うのを避けていたのは確かだ。

 付き合いの浅い『自称カノジョ』なんかは特に。


 あいつは今頃何してるだろう?

 今日もミニスカサンタで売り子かな。

 ……あの脚、他人に見せるのか、今日も。

 何か……ちょっと腹立たしい。


 気が付いたら、バイクを転がして彼女のバイト先の前に立っていた。まだ二時を回ったところだというのに。

 迎えに来る時間が待ち遠しい、と見抜かれるのも悔しい気がして店には入らずにいたのだが、気付かれてしまった。

「ほかのお客様の邪魔になりますので、どこか別の場所でお待ち願えませんでしょうか?」

 全然目が笑っていない笑顔でそう話しかけてくる。今日はサンタ帽はかぶっているけれど、服の方はいつもの制服だ。

「あ、今日はサンタじゃないんだ」 

「中では客の目を引く必要がないので」

 なるほど。っていうか、今日は外では売らないんだ。

「なんなら中で待っていれば? ケーキセットのコーヒーはおかわり自由だから」

「……いいのか?」

「ケーキセットは自腹でね」

 ああ、売り上げに貢献しろ、ってことか。まあ、それくらいはしかたないか。


 ケーキセットは『お好きなケーキにプラス100円でお替り自由のコーヒーかポットでの紅茶またはハーブティー』という代物だ。ちなみにアイスコーヒー、アイスティーはお替りなし。

「ごゆっくりどうぞ」

 という棒読みの言葉に目が笑っていない営業スマイルを添えて、チーズケーキとコーヒーがテーブルに置かれる。

 立ち去る彼女の背中を見て、相変わらず背筋のまっすぐな、綺麗な後姿だな、と思う。

 武道をやっているせいからか、彼女は寛いでいる時も妙に隙がない。

 そのせいか、最初の頃、大勢の中にいても妙に孤高な感じがしたものだ。

 ……孤高、というのは少し強すぎる言葉かもしれない。

 だが、人当たりと面倒見がよく、友人が多いにもかかわらず、他人とあまり狎れ合わない姿勢は、そう評していいだろう。

 ……ああ、それで妙に居心地がよかったのだ。

 細やかな気配りや不意に見せる物柔らかな仕草に『女らしさ』が垣間見えても、言葉や態度の端々に『好感』や『好意』以上のものが覗えても不快な感じがしなかったのは。

 たぶん、他人との距離の取り方が、自分に似ているのだと思う。

 ……今も、距離は『他人』のままだろうか。

 もっと、近くに寄りたい。

 じっと様子を窺っていると、視線を感じるのか、いたたまれない、といった表情になる。

 もっと動揺すればいい。

 どれくらい動揺すれば、おとなしく手の中に落ちてくる?


「コーヒーのお替りはいかがですか?」

 顔を上げると、コーヒーサーバーを持った優しげな顔の男性の姿。……ここの店長だ。

 たしか、歳は三十代前半。気弱そうな優男に見えるが、三十前に自分の店を持つような男だ。見た目どおりではあるまい。

「いただきます。店長自らの給仕とは有り難いですね」

 空になったカップを店長に差し出す。 

「そりゃあね。お得意さんだし、……あんなもの欲しそうな目でうちの売り子を見つめていられたら、ね」

 動揺してカップを受け取り損ねた。

「おっと」

 予測していたのか、滑り落ちかけたカップを難なく受け止める。

「……ありがとうございます」

 物欲しげになんて見える、のか?

「それにしても、相手が君とは、ね。……意外というか、かえって予想通りというか」

 楽しそうに笑って、肩を竦める。

「……何の話ですか?」

「何って、いろいろ。昨夜のケーキとか、今朝の遅刻の原因とか」

 そりゃまあ、それらについて否定はしないが。

「……それで?」

「いや、いつごろくっつくかって賭けをしてたんだけど。卒業まで持ちこたえてくれてたら、ぼくの一人勝ちだったんだけどね」

 賭けの対象って、他人のことを何だと……

「そんなこと、知ったこっちゃないですよ」

「うん、まあそうだろうね。でないと面白くないし。とりあえず明日は休みになってるから、ゆっくり休ませてあげてね」

 くすくす笑いながら立ち去っていく店長。

 ……今の情報はどういうつもりだろう。また何か賭けのネタにされてるのか?

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