第一夜
痛みがきっと寄り添う2人を繋げてくれる。
焼け落ちた森の黒い土の上で、少女は倒れていた。
銀の刃と聖水によって穿たれた傷口からは、まだ消えない灼熱の痛みが煙のように立ち上り、彼女の意識をじわじわと奪っていく。
(……痛い、熱い……誰か……)
そこへたまたま通りかかったのが、不老不死の魔法使い、エデルだった。
重厚な黒いローブを翻し、深紅に染まる焼け野原に足を踏み入れた18歳ほどの見た目の少年。黒髪の短髪に、透明感のある美しい紅茶色の瞳。背が高く、見惚れるほど整った顔立ちをしたイケメンの彼は、息も絶え絶えな少女を見下ろした瞬間――その雷に打たれたような美しさに、一目で心を奪われてしまった。
それが、ルルとエデルの出会いだった。
あれから、館でのふたりの生活が始まった。
ルルの外見は16歳ほどの可愛らしい少女だが、その実、160歳を超える吸血鬼。豊かなピンク色の長い髪に、宝石のように澄んだ赤い瞳。小柄な体躯に、左目には眼帯をつけ、いつもエデルが選んでくれた可愛らしい服を着ている。
しかし、その服の下には、吸血鬼狩りのエクソシストにつけられた二度と塞がらない傷痕痕が隠されていた。
「……う、あ…………っ、痛いよぉ……っ」
暗がりの中、ベッドの上でルルは胸を抱え込んで声を殺して泣いていた。
治らない傷は、時折こうして牙を剥く。溢れ出る涙で眼帯の周りまで濡らし、痛みに耐えかねて泣きじゃくるルルは、基本的には幼く甘えん坊だ。
ガチャリと扉が開き、ランタンを持ったエデルが入ってくる。
「……また泣いてんのか。まったく、手のかかる奴だな」
口調はぶっきらぼうで不機嫌そうだが、その表情には隠しきれない心配の色が滲んでいた。エデルはベッド脇に腰を下ろすと、手際よく魔法を唱える。柔らかな温かい光がエデルの手から溢れ、ルルの胸元を包み込むと、骨の芯まで響いていた激痛がすーっと和らいでいく。
「痛みを散らす魔法だ。落ち着いたか?」
「……うん。ありがと、エデル……っ」
「泣くな。傷の手当てをするぞ。服を脱げ」
ルルは素直に可愛らしいブラウスのボタンを外し、前を開いた。
そこに現れるのは、白銀の肌に刻まれた痛々しい大きな傷痕。……そして、16歳ほどの華奢な背丈には不釣り合いなほど、豊満で綺麗な胸の膨らみだ。
吸血鬼として代謝もしておらず、人間の羞恥心や「性的な意識」という感情をまだよく理解していないルルは、何の気負いもなく胸をさらけ出している。
(……くそ、無防備すぎるだろ……)
エデルは一瞬だけ息を呑み、耳の先をほんのり赤くしながら、意識してあからさまに視線を横へ逸らした。
指先が触れそうになるたびに神経をすり減らしながら、傷口に特製の軟膏を塗り、包帯が胸の膨らみに食い込まないよう気を遣って丁寧に巻き直していく。当のルルはといえば、「ふあぁ……冷たくて気持ちいい」と無垢に微笑んでいた。
手当てを終えると、エデルは重々しい黒いローブを肩から脱ぎ捨てた。
ローブの下のエデルは、首元が深めのVネックになったシンプルな黒Tシャツに、細身のフレームが映えるスタイリッシュな革のハーネスという、18歳の青年らしい華奢で細身な格好をしていた。露わになった鎖骨や引き締まった胸元はラフでありながら文句なしに格好いい。
エデルはベッドに滑り込むと、ルルに手のひらサイズの美しいガラスの小瓶を握らせた。中には、深い赤色の液体が満ちている。
「これ……なに?」
「俺の血だ。魔法をかけてあるから、お前がどれだけ飲んでも半分以下には絶対に減らない。チートみたいなもんだ。これでお前の食料問題は解決だ」
「エデルの……血? すごい! ありがとう!」
「……べつに。お前が倒れたら俺の調香の手伝いが減るからな。人間のことを知る仕事、明日も頑張るんだろ」
人間の感情をまだよく知らないルルのために、エデルは自分の本業である香水の調香を教え込んでいる。誰かの喜怒哀楽に寄り添う香水を作る仕事を通して、少しずつ「人間」を知ってもらうためだ。
星空の輝く夜に愛はきっとあなたの胸にも満ちるだろう。




