妻は煙草を吸う。夜更かしをする。暴飲暴食もするし、偏ったものばっかり食べている。
少しだけ不謹慎なお話です。
妻には困ったものだ。
なにせ、妻はびっくりするくらい煙草を吸う。
おまけにとんでもなく夜更かしをする。
偏ったものばっかり食べている。
もちろん、暴飲暴食だってしている。
「健康に悪いからやめなさい」
僕が言っても妻は言う。
「いいじゃん。別に」
どれだけ言っても直らない。
いつの間にか僕は彼女に言うのを諦めてしまった。
あぁ。
だからこそ。
妻は若くして多くの病を負う羽目になった。
皺一つない肌。
出会った時のままの美しいままの顔。
それなのに彼女はいくつもの大病を抱えている。
「だから言ったじゃないか」
やりきれないまま僕は言う。
彼女の余命はあと数年だと聞いた。
まだまだ長く生きられただろうに――。
「ねえ」
横になったまま妻が言う。
「出会った頃の事を覚えている?」
「もちろんさ」
妻との出会いはまさに運命的だったとしか言えない。
なにせ、森の中で迷って死にかけていた僕を偶然にも彼女が見つけてくれたのだから。
「告白をしてくれた時のことを覚えている?」
「当たり前だろう?」
妻に恋をして彼女の下へ通い続け、遂にはプロポーズをした。
すると妻は困った顔をして言ったのだ。
『私とあなたでは生きる時間が違いすぎる』
その通りだと思った。
それでも僕は言ったんだ。
『仮に短い時間でも。僕は君とずっと一緒に居たい』
自分勝手な告白だ。
自分本位な告白だ。
どうしようもない告白だ。
『どうしようもない人。自分勝手で。本当に』
それでも妻は折れた。
僕と一緒に生きてくれると言ってくれた。
そして、その日から妻は随分と怠惰な性格になってしまった。
「これで同じくらいになったわね」
そう。
僕はただの人間で百年だって生きやしない。
――対して妻は数千年の寿命を持つエルフだ。
出会ってから数十年。
僕の頭はもう髪の毛もないし、腰だって曲がっている。
寿命だってもうほとんど残っちゃいないだろう。
「あなたが居ない世界なんて耐えきれないから」
「だから、こんな怠惰な生活をしたとでも言うつもりかい?」
「ということにしてくれないかしら?」
くすくす笑う妻に僕もまたため息交じりに笑い返す。
「隣、失礼するね」
隣で横になりながら互いの顔を見つめながら問う。
「森の中から出て都会の味を知っただけだろう?」
妻はニヤニヤと笑い返すだけだ。
肯定も、否定もしない。
してくれない。
「まったく。どうしようもない女だ」
「そんな女を好きになったくせに」
僕らは互いに笑う。
きっと、あと何回もないであろう幸せな時間を楽しみながら共に呟く。
「次は」
「あぁ、次は」
同じ種族に生まれたい。




